小話 ディーとヴィーとティーと
「あぁディーかい久しぶりだね」
「ヴィーすまなかったね今まで会いにこれなくて」
わたしの目の前で魔女のヴィライト・ユグドラとお母様のディライト・ユグドラシルが抱擁を交わしている。今さきほど黒龍に連れられこの魔の森に到着した。黒龍はちょっと火龍に会いに行ってくると言って何処かへ飛び立っていった。
「ディーあんたその体」
「そういうことだからね、私は里に帰るよ」
「そうかい、寂しくなるね」
「そこでだ、ヴィーにはこの子のことを頼みたいと思ってね」
お母様がそう言ってわたしに顔を向ける。わたしは慌ててカーテシーをしながら頭を下げて挨拶をする。
「はじめましてティアライト・ユグドラです」
「知っているだろうけど一応名乗っておくよ、ヴィライト・ユグドラだよ。そして導きの魔女だ、あんたの望みはなんだい?」
「望みですか? 特にこれといって思いつきませんが」
「そうかい、それなら望みができるまでここにいると良い。望みができれば一つだけ導きを与えてあげるよ」
「えっと、お母様?」
「あなたならそう言うと思ったわ、そんなあなただからこそヴィーを頼めるのよ」
「えっと、そのよろしくお願いします」
「ヴィーと呼んでくれていいよ」
「それでしたヴィー様とお呼びさせていただきます」
「好きにおし。それでディーはいつくらいまでここにいるつもりだい?」
お母様は少し考えるような仕草をしたままヴィー様に答えた。
「そうだね、黒龍が半月くらいしたら迎えに来るといっていたからその時まではここで世話になるよ。エリクサーもまだあるからね」
「ああ、ディーはエリーと会ったんだね」
「わかったのね」
「この辺りでエリクサーを大量に持ってるのなんてあの子くらいだからね」
その話を聞いてわたしは驚きを隠せなかった。お母様がエリクサーを持っているのも驚いたが、それもたくさん持っていることにも驚いた。ましてや城で始めてみたエリーと言う名の少女がそれの持ち主だったということにもだ。
エリクサーという霊薬は必要な材料の種類や希少性もさることながら、1本作るのに数日間寝ずに魔力を注ぎ込まないといけない。そんなものを大量に作り出しているのがあの少女だとは信じられなかった。
「ティーは何を変な顔してるんだい。ああ、エリーが作ったってことが信じられないんだね」
その言葉に無言でうなずいておく。
「ふふ、あの見た目じゃあね、でもあの子はあなたよりも生きている年月は長いんだよ」
「そうなのですか?」
「まあエリーに関してはおいおい知っていけば良いよ、あの子もヴィーの弟子の一人だからね」
「はぁ、そうですか」
なんだか驚きすぎてそんな言葉しか出てこない。
「さてと寝る場所は良いのだけど、食事はどうしようかね」
「食事ならわたしが作りますけど」
「ティーそれは辞めておきなさい、ここは普通の森じゃないから材料を集めるのも一苦労だからね」
「まあエリーが作り置きしてくれている物があるからそれで済ますのもいいけど、今日はちょっと遠出してみようかね」
「遠出って、ああアールヴの所にいのね」
「エリーから今いる場所は聞いているからね、一度会いに行こうとは思っていたんだよ」
「丁度良かったわ、私もアールヴにお礼と別れを言っておきたいからね」
アールヴという名は聞いたことがある。わたしたちの森をでて人の世界で暮らしているエルフの一人だと、そしてエルフの中でも珍しい魔法の使い手だと聞いている。その有名人でもあるアールヴに会えるというのはなんだか心が踊る。
「場所はわかっているのかい?」
「ああ、それはエリーが目印を付けてくれているからね。早速行くとしようかね、二人共私の手を取りな」
わたしとお母様がヴィー様の手を握ると、ディー様から魔力が溢れ私達を包んで転移していた。
転移した場所には一人の大異性エルフがいて、その顔は驚きのためか今にも倒れそうな程青く染まっていた。
この後、門を通らずに街に入ったことで一騒動があったり、隠居している元領主を名乗る人物との出会いや、エリーの弟子を名乗る幼い錬金術師との出会いがあったりと、ユグドラの森で暮らしていたときとは全く違う日々を過ごすことになるとは、この時のわたしには想像すらできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます