第71話 魔女、No.1になる
side アルベル
「だーれがディーさんと同じくらい歳食ってるババアじゃー!」
親父の開始の合図が聞こえた、それと同時にそんな言葉が聞こえたと思う間もなく腹に衝撃を感じ、俺の視界には天井が映っていた。天井が見えたのは一瞬のことで、すぐに視界は回り受け身を取る間もなく俺の体は地面でバウンドして転がるのがわかった。
「だれも……んなこ……言って……」
全身を襲う痛みの中、俺の意識は途絶えた。バシャリという音と顔にかけられた液体が口に流れ込むのを感じ、咳き込みながら起き上がると眼の前に親父が立っていた。
「あの見た目でも叔父上が連れて来た上に、お祖母様のお知り合いだぞ只者であるはずがなかろう」
親父の言葉に何があったのかを思い出した。決して油断していたわけではなかったのだが何も出来なかった、正直言ってわけがわからない。
「親父……、スレイナに同じことを言われまして決して油断していたわけでは無いのですが気がつけばですね」
親父は俺の言葉を聞いて獰猛な笑みを浮かべながらエリーと名乗る少女のもとへ歩いていった。
「お兄様大丈夫ですか?」
「ポーションが効いたようでもう痛みはないな。それにしても一体何があった? 何かを言われたと思うが、記憶が曖昧で思い出せん」
「私が矢を撃った時にはお兄様が空を舞ってましたね」
「何だ、それは」
「ふふ、エリーは強いでしょ」
大御祖母様と大叔父様がいつの間にか近くに来ていた。
「ええ、何をされたのかわからないくらい強いですね」
視線を親父と真っ向から戦っている少女に向ける。当たれば怪我では済まないだろう攻撃を避けながらも反撃をしていて、少しずつ親父の動きが鈍くなってきているのがわかる。
「大御祖母様あの方は何者なのでしょうか」
「エリーはね、魔女の弟子だよ」
「魔女と言いますと、初代様とパーティーを組んでいたという、魔の森のでしょうか」
「そうだよ、その魔の森の魔女のことだよ」
「そのあの方は魔女の弟子で魔術師ですよね?」
「あははは、見た目は魔術師だね、だけど私の知っているエリーは魔術よりも素手のほうが強いよ」
親父と戦っている姿を見ていると大御祖母様の言っていることが真実なのだと思うほかなくなってくる。
「エリーの動きは母上の動きに似ておりますな」
「そりゃあね、エリーに近接での戦い方を教えたのは私だからね」
大御祖母様の言葉に驚いてしまった。視線をもう一度戦いの場に向けると親父が片膝をついていてその親父に杖を突きつけている。決着はついたようだ、親父でも勝てないとは大御祖母様から教えを受けたというのは本当なのだろう。
俺は傍らに置かれていた剣を手にとり立ち上がる、このまま何も出来ずに負けっぱなしというのも嫌なのでもう一度戦ってもらうとしようか。スレイナも同じことを思ったのか俺の横に並ぶように着いてきた。
◆
訓練場に転がる複数の人の形をした何か、そんな中で私は一人立っている。そして私は右腕を上げ天に指を突きつける。
「I'm number one」
しばらく余韻に浸った後、腕を下ろしディーさんの元へ歩いていく。
「はぁ、ディーさん私はなんでこんなことやってるのかな……」
キセルをふかしているディーさんについつい愚痴ってしまったのは仕方がないと思うんだよ。訓練場をぐるりと見回すとそこかしこに死体のように倒れ伏している人たちがいる。
倒れているのは王族と騎士そして途中で混ざってきた近衛騎士の皆様だ。いや生きてるよ、誰も死んでないからね。倒しても倒しても起き上がってくるもんだからめんどくさいったらありゃしなかったよ。
「それに付き合ってあげるエリーは相変わらずお人好しだね」
「そういうわけではないですよ、やめるタイミングが無かっただけです」
ちなみにアルバスさんもあの中に混じって倒れている、ここの王族は脳筋しかいないのか。騎士もそうだけど、近衛騎士の皆さんまで混ざってきてさ、あなた達仕事はどうしたと言いたい。
それに混戦になってからは私そっちのけで王様狙いだしたりしてさ、日頃の鬱憤を晴らしているようにしか見えなかったな、国王絡みでストレス溜まってるのかもしれないね。
そんな訓練場だけど、この場で立っているのは私とディーさん、それと早々に退避していたスレイナの三人だけだったりする。
「よしエリー疲れただろうし汗もかいただろう、お風呂を用意させてあるからスレイナと一緒に入っておいで」
「お風呂は助かりますけど、あのままで良いのですか?」
倒れ伏しゾンビのようなうめき声を発するだけの集団に視線を向ける。
「ほっときなさい、ほら行くわよ」
訓練場を出るとメイドさんが待機していた。そのメイドさんについていき、お風呂場に案内される。
「エリー……様はすごいですね」
体と髪を洗い終わり湯船に浸かった所でスレイナが話しかけてきた。
「エリーでいいよ」
「ですが、年上の方を呼び捨てにするわけには」
「エリーでいいよ」
ニコリと微笑んでもう一度言っておく。
「あ、はい、エリーですね」
「よろしい、それで何がすごいって?」
「そうでした、よくあれだけの人数を相手にして無傷な上に立っていられるなんて純粋にすごいと思いました」
「まあやわな鍛え方はしていないからね、それに無傷なのは着ているローブのおかげだからね。後は当たらなければいいだけの話だよ」
「その当たらないというのが難しのだと思いますけど、特に先程のような混戦ですと」
「まあ、ディーさんにお願いされたし依頼の日まで鍛えてあげるよ、弓はあまり得意じゃないからもっぱら近寄られた時の対処とかになるけどね」
「えーと、お手柔らかにお願いします」
お風呂から上がり、マッサージを受けてディーさんの待っている食堂に案内されて食事をすることになった。食堂にはディーさん以外にも女性が二人いた。一人は王妃のティアーナ・ドレスレーナともう一人はスレイナの妹で第三王女ソレイナ・ドレスレーナだった。
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