第70話 魔女、吹っ飛ばす
「この人が俺たちの協力者ってことか?」
執務室っぽい所に呼び出された私の正面に黒髪の青年と少女が座っている。そして私の隣にはディーさんとアルバスさんが座っている。国王は執務机で決裁作業をしているようだ。
「なんか親父の隠し子って噂を聞いたんだが」
「馬鹿なこと言うな、そんなわけないだろ、そんなことしたらティアーナに殺されるわ」
書類を読んでいた国王が顔を上げて全力で否定している。ティアーナというのは王妃の名前だね。
「顔立ちは私たちとは違いますね、黒髪ということでそういう噂が立ったのかもしれません。大叔父様が連れて来られたというのも噂の原因でしょうか」
少女も私を値踏みするように見ながらそんなことを言っている。一方私とアルバスさんとディーさんは、のんびりと紅茶を飲んでいたりする。
青年の名前はアルベル・ドレスレーナ、この国の第一王子で少女の方はスレイナ・ドレスレーナ、第一王女ということだ。今回のわたしの受けた依頼はこの二人とともに王城の地下へ潜り黒龍と戦うことになっている。
「エリーの実力は私が保証するわよ」
「む、
うんうん、アルベルはいいこと言ったね。
「お兄様の言うとおりですね、魔術師ですと私たちについてこられるかもわかりませんし」
今の私はいつもの黒いローブを着ているので見た目は魔術師そのものだからね。
「ふむ、それに関しては俺も知りたいな、なんなら一手手合わせを願いたいくらいだ」
国王は獰猛な笑みを私に向けながらそんなことを言ってくる。
「私はアルバスさんとディーさんに頼まれただけなので、同行に関してはどちらでも良いですよ」
紅茶と一緒に出てきたクッキーを一つ手にとりかじる。さすが王族に出される物というべきか美味しいね。
「エリーもそんなこと言わないの、そうね丁度いいわ出発までの間エリーはこの子達を鍛えてあげてくれないかしら」
「今の話の流れでどうしたらそうなるんですか」
ディーさんの物言いにアルベルとスレイナが私を見る視線が痛い。
「大祖母様がそうおっしゃられるなら、稽古をつけて貰おうか」
「まあそうだね、お互いの実力を知っておくのは必要かもしれないね」
一度どちらが上かを知らしめ……ではなくて、連携とかを確認しておくのは必要だよね。ここ最近運動してなかったから体を動かすという意味でもいいかな。話は決まったということで、みんなしてぞろぞろと城内にある騎士の訓練場まで移動する、国王さんやお仕事は良いんですかね。
そこそこの広さがある闘技場といった感じで、王族一同もたまにここで訓練や体を動かしているらしい。今は騎士が30人ほど集まって模擬戦をやっているみたいだった。王族が現れたことで訓練をしていた騎士は休憩という名の見学に入ったようだ。
「スレイナ、まずは俺からでいいよな」
「ええ、構いませんよ」
「そこは二人で来なさいよ、あなた達の連携も見たいからね」
「俺たちを舐めているのか? あなたがそれでいいならこちらは二人で行かせてもらおう」
「お兄様それはいくらなんでも」
「いいよいいよ、二人で来なさい相手してあげる」
ポシェットからいつもの杖を取り出して訓練場の中ほどまで歩いていく。見た感じ二人とも相当鍛えてるようだけど、アルバスさん一人のほうが強いんじゃないかな。
「お兄様、気を落ち着かせてくださいませ。私たちより若く見えますがあの方は大御祖母様のお知り合いですよ」
「むっ、たしかにそうだな、冷静に考えると大祖母様ほどではないにしても、見た目に反して相当のお年を召しているかもしれ……ひゅ」
うん、アルベルはフルボッコにしようか。私の方をみてなんだか息を呑むような声を上げた気がするけど気の所為だよねきっと。
「お兄様これは気を引き締めたほうがよろしいかと」
「そ、そうだな、なぜだかいま感じた事の無い程の悪寒を感じた、スレイナも気をつけろ」
アルベルが大剣を両手で構え、スレイナが弓を構え矢をいつでも打てるように矢筒に手をやっている。
「双方準備は良いな、お互いなるべく怪我を、ふむエリー殿が上級ポーションを用意してくれているよなので手加減は不要だ、思う存分戦うが良い」
国王の言葉に私たちは頷く。
「それでは、開始」
開始の合図とともに矢が私の元いた場所に向かって飛んでいく、だけど私はとっくにその場にはいないので矢はただ地面に当たり転がるだけだった。地面に矢があたる音を聞くと同時に私はアルベルを杖のフルスイングでふっ飛ばした。その後すぐにほうけた表情を浮かべるスレイナの目の前に移動して杖を突きつける。
「はいおしまい」
ドンッやらザザザやらアルベルが地面を転がる音が聞こえてくる。
「え? 今、何が……」
「「「アルベル様あぁぁぁぁぁぁ!」」」
周りの騎士が慌ててアルベルに駆け寄り助け起こしている。アルベルの元に行かなかった騎士の集団がこちらに向かってきて私とスレイナを囲むように剣を構えている。
「やめんかこれは模擬戦だ、見た目だけで油断したそ奴らが悪いわ」
国王が騎士を諌めることによって囲いがとける。アルベルはポーションを頭からかけられて意識を取り戻したみたいだね。
「げほげほ、一体何が」
「あの見た目でも叔父上が連れて来た上に、お祖母様のお知り合いだぞ只者であるはずがなかろう」
「父上……、スレイナに同じことを言われまして決して油断していたわけでは無いのですが気がつけばですね」
「ふむそうか、俺も少し相手にしてもらうとしようか。その間お前はスレイナと休んでおけ」
「はい」
アルベルはスレイナと一緒にディーさんとアルバスさんのいる方へ向かった。代わりに国王がバスタードソードを片手に持ち私に近寄ってくる。
「エリー殿、俺も戦ってみたくなった、一手お相手してもらいたい」
「まあ良いよ、手加減はいる?」
「不要だ、全力でお相手願おう」
「わかった、怪我しても不敬とか言ったりしないでね」
「恥の上塗りのようなことは言わぬから安心してほしい」
私と国王はある程度距離を取り開始の合図を待つ。国王に変わってアルバスさんが開始の合図をするようだ。
「それでは……、開始」
アルバスさんの開始の声に合わせて私と国王は走り出した。
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