第68話 魔女、主張する

 黒髪の厳ついおっさん、もといドレスレーナ国王であるアルガス・ドレスレーナがテーブルを挟んだ正面のソファーに座っている。私の左側にあるソファーにはアルバスさんとアデレートさんが座っている。黒髪と言っても転移者というわけではないのはわかる、髪色以外の顔つきなどはどうみてもこちらの顔立ちになっているからだけどね。


 アルバスさんは歳のせいで灰色っぽい白髪だったのだから気が付かなかったのだけど、元は黒髪だったんだろうね。髪の色は血筋によると以前話した気がするのだけど、黒髪も同じだ。


 黒髪というのは、私のような異世界からの転移者でもなければ持ち得ないというわけではなく、生まれた時に属性の偏りが全くなければ黒髪になる。闇属性が黒と思われがちだけど闇属性は銀色なんだよね、ちなみに光属性は金色だね。


 赤は火、青は水、緑は風、土は茶、光は金、闇は銀、このうち一番高い属性が髪色に出やすい。夫婦で髪色が違っても大抵はどちらかの色として生まれてくる。仮に生きているうちに属性の偏りが変わったとしても、血筋が優先されるみたいだね。


 あーあと黒が生まれる可能性として、未検証というか前例を知らないのだけど、私のような黒髪の転移者と子どもを作った場合もあるかもしれない。そして転生者の場合はおわかりのように、この世界の親の血筋が引き継がれるので黒以外の親から黒髪の子どもが生まれることはない。


 そんなわけで、この目の前のおっさんは生まれた時は全属性が均等という稀有な血筋の人物なわけだ。どれだけ稀有かというと、アルバスさんを除いてこの世界に落ちてから始めてみたと言っていいくらい珍しいのだよ。


 とまあそんなことを考えていたわけだけど、今は何をしているのかというと、人待ちをしている。どうやら今から来る人は私に用事があるみたいなんだけど、未だに誰なのか教えてもらってない。依頼の話もその人が来てからということで今は紅茶とお茶菓子をもらいながら雑談中なわけです。


 話の内容はダンジョンについて、流石に国王にはダンジョン攻略に私も入っていたことは伝わっていたようで、詳しく話してほしいと言われ一部を除いて話した。見た目的に脳筋かと思ったのだけど、全然そういうわけではなかった。


 まあ脳筋じゃあ国の運営はできないよねと思ってたら、政務はほとんど部下に任せているということだった。まあ国王が馬車馬のごとく決裁やら書類仕事している国のほうが異常だよね。


 話も終わり、適当に受け答えしながら紅茶を頂いているとコンコンと扉がノックされて、国王の返事の後扉が開いた。そちらに目をやると銀色の髪に薄褐色の肌をした長身の女性がキセルを吹かしながら入ってくる。


「エリー久しぶりだね、やっと森を出る気になったのかい」


「えっ……、ディーさんなんでこんなところにいるんですか?」


 私は思わず立ち上がり声を上げていた。ディーさんはふぅーと煙を吹きながら国王の横に座り「もうちょっとそっちに寄りなさい」と言いながら、私にも座るようにキセルを動かしてくる。


「エリー……殿とお知り合いでしたか?」


 国王が席を立って空いているソファーに座り直しつつ尋ねている。


「アルバスよくこの娘を連れてこれたね、大当たりだよ」


 座り直した私を見ながら、国王のといを無視しつつアルバスさんに声をかけている。


「御母上に褒められるなどこの年になっても嬉しいものですな」


 へーアルバスさんの母親なんだ、ということは国王のおばあ……ん? え?


「い、今なんて言いました? 御母上? え? ディーさんっていつの間に結婚して子どもまで産んだんですか?」


「んー70年ほど前かな、なんかたまたま助けた冒険者に惚れられちゃってね。私の歳とか気にしないとか猛アタックされてつい……ね。結婚とか全く考えてなかったのだけど、子どもや孫の成長を見守るのも悪くなかったわよ」


「全く聞いてないんですけど、もしかして師匠にも言ってなかったりします?」


「そういえば言ってないわね。あなたがここにいるということはあの娘って今は一人でしょうから久しぶりに会いに行ってみようかしらね」


「そうしてください、心配はしていませんでしたけど、毎年一度は尋ねてきていたのに急に来なくなったことを気にはしてましたからね」


「そのお祖母様、そろそろどういう関係か教えてもらいたいのですが」


「エリーのことかい? 付き合いはそこそこだね、確かエリーって今年でさんびゃ「17歳です」」


「「……」」


「さん「17歳です、今の私は17歳です」……」


 ディーさんが上を向いて煙を吐きつつ、はぁとため息をつかれた。ディーさん、これは譲れない一線なんですよ。


「私の親族の愛弟子ってところだね、そして私の教え子でもあるわね」


 そうなんだよね、名前はディライト・ユグドラ、種族は銀月のエルフで見た目は褐色の肌に銀色の髪をしている。そしてディーさんは陽光のエルフである師匠とは従姉妹の間柄と聞いている。ちなみに師匠よりも年上とのことだ、いくつくらい上かは聞いてないけどね。


「むっ、それですとエリー様とお呼びしたほうが良いですね」


「エリーのままでいいです、それにそんなかしこまらなくていいですよ。一国の王様にかしこまられるのはこちらが反応に困ります」


「エリーとはまた後ほど話すとして、とりあえずアルガスは依頼の話を始めなさい。エリーが協力してくれるなら何も心配いらないわよ」


「わかりましたお祖母様。叔父上から軽くは聞いているだろうがエリーに頼みたいことは、我が息子と娘を連れこの城の地下の更に奥にいる黒龍と戦ってもらいたいというものだ」


「どうして私なの? と言うのは聞いて良いのかな、護衛ってことならディーさんで事足りるでしょ」


「それについては私は夫と共に一度行ってしまっていてな再度行くことはかなわないからだね。それとエリーがというのは私の占いの結果だね。まさかエリーを捕まえてくるとは思いもしなかったけどね」


「あーディーさんの占いの結果私が捕まったわけですね。なら仕方がないのかな」


 ディーさんの占いというのはかなり曖昧なんだよね、だけどピタリをハマると最上の結果にたどり着く。自分で言うのもなんだけど私を引き当てたのは最上の結果だと思う。


「元々アルバスさんの依頼を受けてここまで来たわけですから、ディーさんに頼まれなくても引き受けますよその依頼」


「エリーならそう言ってくれると思っていたよ」


 そう言ってディーさんはキセルを灰吹きにカーンと打ち付け灰を落とすと立ち上がる。


「それじゃあ後はアルガス任せたよ、エリーは今やってる晩餐会が終わったらワシの部屋まで案内してもらっておいで」


 そう言ってディーさんは去っていった。残された私たちは少しだけ今後の予定を話し合って晩餐会に参加するために会場へ向かう。あーお腹すいた。

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