第67話 魔女、冒険者の国の恐ろしさを知る
馬車に乗り王城へ向かう。向かう道は一本だけらしいのだけど、山を登る時みたいに右へ左へと登っていく。戦争とかあってもこの王都を落とすのってかなり大変だろうなとは思う。
そもそもこの王都まで攻められる事自体無さそうではあるけど。アルバスさんのところの書庫でこの国の歴史書を読んでこの国の恐ろしさを知ったわけなんだけどね。貴族がみんな冒険者の国って怖いよね、だって冒険者ギルドって特殊な例を除いてどこの国にもあるわけだし、そして冒険者に国境は無いようなものだからね。
試練を受ける子息や令嬢は冒険者になることで一時的に貴族である親の庇護下から抜ける、別に抜ける必要はないとも思えるけどわざわざ抜けるのには訳がある。現在はどの国も冒険者の移動に制限を設けていないと聞いている。
だけど、流石に他国の貴族の子息や令嬢は冒険者だからといっても国境を素通りさせられない、そこで親の庇護下から一時的に抜けることで自由に国を移動できるわけだね。
爵位を持っているのは親であって子息や令嬢はそれに連なるもの扱いなので家をでた時点で親の庇護下から外れ対外的に平民と変わらない身分になるわけだ。そうなってしまえば貴族に連なるものだからという理由で、入国を拒否することもできなくなる。
冒険者となった後、家に戻らずにそのまま冒険者業を続ける者もいるので、他国は国境でそんな冒険者を見極めることは不可能に近い。そして冒険者に国境がないというのは、現在どの国でもシルバーランク以上なら国境を素通りできるように決められているのだとか。
かなり昔、この国に戦争を仕掛けようとした国があったようだけど、この国の冒険者事情を知って、国境を閉鎖して冒険者の入国を拒んだ。この国の冒険者がスパイのようにどこどこの街に食料が集められているとか、どこどこの街に武器が集まられているとか、どこどこの街で傭兵を募っているとか、そういう情報が簡単に知られてしまうわけだね。
そんなわけで国境を封鎖して冒険者の出入りを制限したのだけど、結局戦争を仕掛けることもなく滅んでしまった。なぜかと言うと、冒険者の入国を拒んだだけではなく既に国内にいる冒険者の取り締まりなどもやり始め、国内から冒険者が逃げ出してしまい結局魔物への対処ができなくなった。気がついた頃には各所で魔物が溢れ出し始めたというわけだ。
冒険者って普段からゴブリンを始め魔物を間引いているんだよね、間引きをしないと結構簡単に増えてしまうので、領主が資金を出してその辺りはやりくりしている。だけど、冒険者がいなくなったことで魔物を間引けなくなりスタンピードが各所で起きたわけだ。
その結果、この国を攻めようとしていた国は周りの国に救援要請をしたのだけど、結局最後には救援に来た国々が分割統治する形になり滅んでしまった。それ以来冒険者の出入国を制限をする国は出てこなくなった。
そんなわけでこの国に喧嘩を売ろうとする国も周辺にはいないわけだね。既に各所に冒険者として貴族に連なる人たちが潜んでいて、国の内情なんかも知られているわけだから。
他の国も真似したら良いのにと思う方もいるかも知れないけど、こんな恐ろしい国が他にあったら嫌だわ。王族だろうが一度は冒険者になるような国だよ? 普通に国家運営出来てるのがおかしいと思うのは私だけなのかな。
◆
城に着いた所でそのままアルバスさん達に連れられて謁見の間へ、既に結構な人数が集まっているようでその間を通り前の方に誘導される。アルバスさんとアデレートさんに連れられているとはいえ、玉座から近い場所に私がいても良いのかな?
念のため気配を薄くしようかと思ったけど、それはそれで見咎められそうでやめておいた。完全に気配を消すとかは論外だよね、暗殺者か何かと間違われそうだし。警備をしていると思われる騎士の実力も結構高そうだから下手なことはしないほうが無難だろうね。
周りをそっと見てみるとカルロとセーランにアーサとリリの姿が見えた、どうやらあちらは私に気がついていないようだ。カルロは赤を基準にした貴族服を着ていて、アーサは青色、セーランは薄い緑色のドレスを、リリはガーラ家の騎士服を着ている。他にはケンヤの玄孫だと聞いている、あのドリルちゃんも見かけた。
しばらくすると国王の入場を知らせる声が上がり黒髪の厳つい体格の男性が現れる。現ドレスレーナ王国国王の、アルガス・ドレスレーナだ。国王は玉座に座ることなく両腕を組んで話し始めた。
「今日みなに集まったもらったのは、我が国の冒険者がダンジョンを攻略したからだ」
みんな知っていたのだろうか特に騒ぎが起こることはなかった。そしてカルロたちが呼ばれ階段の下ま進み立ち止まると、右手を左胸に添えて国王を正面から見上げている。この国の中ではどんな身分の権力者に対しても基本的に跪く必要は無いと聞いている。
「普段であればその偉業を果たしたこの者たちに爵位をとなる所だが、この者たちは貴族の義務である試練を果たしている途中の者たちだ。そこでまずは試練の達成を国王として認める、この後どのような道を歩むにしろ俺が認めよう」
カルロたちは無言で
「さて、ここで褒美の話だ、お前たちは何を望む? 俺が叶えられることなら何でも叶えてやるぞ、と言っても今すぐ決める必要はないがな」
この後はカルロたちが元居た位置に戻り、国王が玉座に座ると横に控えていた大臣が代わりに色々話し始めた。ダンジョン攻略の事が詳しく話され、私が譲ったベルダのダンジョンに関する研究資料などの話が続き、その後は国の情勢などが話されていたけど、特に興味を惹かれる話題はなかったので聞き流しておいた。大臣の話が終わると国王が玉座から立ち上がる。
「よし、堅苦しい話は終わりだ、この後は晩餐会を開催する、ダンジョン攻略の話を肴に飲んで食って楽しんでくれ」
それだけ言って国王は退出していった、なんとまあ冒険者の国の王様らしくて豪快な人だね。この後晩餐会があるようだけど、私たちは今から別室で国王とお話をする事になっている。
アルバスさんの依頼に関わることだけど、あの国王と話し合いってなんか暑苦しくて嫌だな。
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