第66話 魔女、王都に入る

 竜車の旅も今日でおしまい、既に王都が見えるところまで到着している。ドレスレーナ王国の王都は岩山の中腹に城が建っていて、その城の背後の岩山の頂上からは絶えず水が滝となり流れ落ちている。


 そんな城のある高台を一段降りたところには貴族街が広がっていて、更にその一段下には職人街が広がっているとアルバスさんが教えてくれた。


 そして山を下まで降りた所に、各種ギルドや商店が広がりそれを囲むように一般的な住居があるみたい。最後にそれらを守るように外壁が作られており、外壁の外はしばらく平地が続きやがて大穀倉地帯が広がっているようだ。


 なんだろう、今まで見てきた街とは違っていて、思ったよりスケールがでかい作りの王都だね。あの山の形は邪龍と戦った事によって変形したのかもしれない。


 竜車は外壁へと進み入場待ちをしている人々の横を抜け、同じく並んでいる馬車の列を追い越し、誰も並んでいない門へと向かっている。この入り口は貴族専用、それも一定以上の身分の者の入場口となっているようだ。


 この貴族用の門は貴族街へ直通となっているみたい。門をくぐるとそこは地下道になっていて、魔導ランプの光で照らされている。竜車はそのまま進み続けて暫く進むと行き止まりに辿り着いた。


 行き止まりには10人ほどの兵士がいて、その兵士に従い竜車が止まる。どうやらそこは昇降機になっているようで馬車なら5台くらいは一度に乗れそうな大きさがある。ガコンという音が聞こえたと思うと、昇降機が動き出しそのままゆっくりと上昇し始めた。


「思ったより王都ってすごいんだね」


「僕は王都に何度か来ていますが、ここを使ったのは初めてですね。噂は聞いていましたけど確かにすごいですね」


 キャビンから外を見てみると巨大歯車が何個も連なりゆっくり回っている。岩山の頂上から流れている滝の水の一部はどうやらここに誘導されて昇降機の動力として使われているようだ。


 魔導具でも同じことはできると思うけど、やろうと思えば結構な魔力を使う必要があるだろうからね。魔力を必要としない分こっちのほうが効率は良いと思う。


 この感じだと滝の水を使って魔力の代わりにしているものはあるんじゃないかな。もしかして地下道の魔導ランプと思っていたものは魔力を使っていないのかもしれないね。


 魔力や魔導具があるせいで、こういった魔力を使わない物ってなかなか普及していなかったと思っていたけど実はそうでもなかったりするのかな。まあ王都観光のときにでも調べてみるのもいいかもしれないね。


 昇降機が停止して竜車が動き出す。再びランプが等間隔に並ぶ通路を通り門を抜けた場所は貴族街になっていた。かなりのショートカットが出来たようだね。竜車はそのまま城の方に向かって行く、目的地はアルバスさんのお屋敷ということだけど、どうやら城にかなり近い位置に屋敷を持っているみたい。



「ふんふんふーん」


 髪と体を洗ってから湯船に浸かる、熱いくらいの温度だけどそれもまたいい感じだね。


「んーん、やっぱりおっきいお風呂は気持ちいいね」


 ここはアルバス・ドライヴ大公のお屋敷のお風呂です。うんアルバスさんって大公だったんだね屋敷に着いてから知ったよ。大公ってあれですよ王族の一族ってことですよ、アルバスさんは今の国王の叔父にあたるようです。そんな人がダーナの街まで行ったりとか何やってんだろうね。


 王都に来てから既に3日ほど過ぎてますが、私は客人として屋敷に待機している状態です。アルバスさんの護衛として同行していたカルロたちとはここに着いた時点で別れている。今は王都にあるガーラ家の屋敷に全員滞在しているみたい。カルロたちとはまた機会があれば会うこともあるでしょう。


 お風呂に入ったり、お風呂上がりにマッサージを受けたり、アデレートさんと二人でお茶会をしたり、書庫の蔵書は好きに読んで良いということで読ませてもらったりしている。建国記やら歴史書なんかもあって暇つぶしにはもってこいなのだけど、流石に3日も外に出れず待機だと飽きてくる。


 お風呂から上がると待っていたメイドさん達に体を拭かれ、マッサージ台に寝かされてマッサージをしてもらう。別に凝っている場所があるわけではないのだけど受けてみるとこれが気持ちいいんだよね。


 マッサージが終われば、用意されていた冷えたハーブティーを飲む。一休みした後はお着替えなのだけど、普段着ている服じゃなくてアデレートさんが用意してくれたドレスを着せられる。


 ドレスとか着たこと無いからどうなんだろうと思ったけど、周りの反応を見るに似合ってないわけではないみたい。姿見で自分の姿を確認してみたけどウィッグをつけられたり化粧なんかも施されて誰これ? って感じだった。


 肌触りがかなりいいので使ってる素材は良さそうだけど、私が普段着ているデッドシルクスパイダーの素材から作った服よりは劣る感じかな。私の下着を見たあるメイドさんが何の素材を使っているのかと迫ってきたので、ドレス一着分ほどの糸を渡してあげたら次の日アデレートさんから結構な額のお金をいただくことになった。


 最初はお金なんていらないと言ったのだけど、最後は押し切られる感じで受け取ることになった。糸なんて魔の森の師匠の家に戻れば、近場にいる知り合いのデッドシルクスパイダーから貰えばいいからタダなんだけどね。


 ちなみにデッドシルクスパイダーは師匠の家の近くに結構大きな巣があって、頻繁に糸を貰いに行っていたらデッドシルクスパイダーマザークイーンが出てきて、そいつと話し合い拳での語りあいの結果、定期的に家まで配達してくれるようになったんだよね。


 流石に魔物の言葉はわからないのだけど「お前が来るとみんな怖がるからもう来ないでくれ」ってそんな感じだった。こちらとしては手間が省けてよかったかな。そういえばそろそろ糸が届く時期なので近いうちに受け取りに行かないとね。


 さて今日はいつもよりメイドさんが気合を入れて着飾ってくれたわけだけど、いまからアルバスさんとアデレートさんと一緒に王城へ行くことになっている。どうやらカルロたちのダンジョン攻略が評価されて、褒美をもらえる場にお呼ばれしたようだ。


 ダンジョン攻略の件は辞退したので私は関係ないと思っていたのだけど、事情を知るアルバスさんに誘われてその場に立ち会えることになった。断ろうと思ったのだけど、知っている若者の晴れ舞台だし祝福してあげるのもいいかなと思い直して付き添わせてもらうことにした。


 それにしても少し前にしばらく会えない風に分かれを済ませたのに、こんなに早い再会を果たすことになるとは思ってもいなかったよ。

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