小話 求む、使い魔 絶望編
私たちの眼前には普通の森が見て取れる。ちょっとしたトラブルのために、次の街へたどり着けなかったので野営することになった。アルバスさんとアデレートさん、それとセーランはキャビンの中で寝てもらい、他の面々は交代で見張りをする事になっている。
キャビンには空きがあるので私もキャビンの中で寝ていいと言われたのだけど遠慮しておいた。カルロ達に使っていいよといったのだけど、カルロもアーサも断ったようだ。野営の準備も終わり、ご飯の準備となったのだけどそこは私の収納ポシェットの中から屋台で買ったものを出しておくことにした。
この面々の中で、少なからず料理ができるのが、私とリリとアデレートさんくらいしかいなかったからなんだけどね。カルロたちは普段どうしてるのかと聞いたら、野営のときなどは塩のスープとスープで柔らかくした干し肉をかじるくらいだったらしい。
せめて誰か一人くらい料理覚えようとは思わなかったのと聞いたら、カルロ達三人は目をそらして力なく笑っていた。まあ良いのだけどね、私とリリの二人で全員分食事を作るのもめんどくさいので、私が買いだめしていた屋台料理を出したわけです。
食事も済ませて少し席を外すと言ってから、野営地を離れた。魔法で気配を探り見つけた対象へと気配を消しながら向かう。
「それでどうしてカルロとセーランは付いてきているのかな?」
「エリーがどこに行くのか気になったのでつい」
「カルロがエリーさんの後をつけていたのでつい」
「はぁ、まあ良いけどね気配は消しなさいよ」
三人で気配を消しながら進むと、森の切れ目から小さな池が目に入った。そしてその池の傍らには様々な獣が集まっている。
「(色々いますね、それでエリーはどれが目的なんですか?)」
「(あの黒一色の虎を狙っているのよね)」
小声でやり取りをする、水を飲んだり座り込んだりとくつろいでいる獣達。狼やシカにクマなんかもいるがその中で異彩を放っているのが黒い虎だ。なんとかあれを捕まえて使い魔にしたいものだね。
カルロとセーランには隠れているように言って私は歩いていく。近寄るにつれて私に気がついたのか獣たちが逃げ始める。ただ黒い虎だけはその場から動かずに私を威嚇するように唸っている。
残ったのは目の前の黒い虎だけとなり更に近寄る。手を伸ばせば届く距離に来た所で私は手を差し出した。黒い虎は飛びかかるように私の腕に噛みつき引きちぎろうとしたようだ。
「怖くない怖くない」
腕をカジカジしたままグルルルと唸っている。
「ほーら、怖くないでしょ(ニコリ)」
私の笑顔をみた黒い虎は一瞬ビクリと震えたかと思うと噛むのをやめて腕を離した。ちなみに私の腕は無傷ですよ、ちょっとヨダレが付いてばっちいけど。黒い虎はフラフラと少し後ずさったあとにゴロリとヘソ天してひっくり返った。
「エリー、大丈夫ですか」
「エリーさん怪我はしていませんか、すごく噛まれてましたけど」
「大丈夫だよ怪我一つしていないから、それよりこれどうしよう……」
どう考えてもこれって怯えきっている上に服従のポーズだよね。いやそのね、使い魔にするには服従じゃなくてね、信頼関係がね。
「もういいよ、森へ帰りなさい」
それを聞いた黒い虎は勢いよく起き上がると猛ダッシュで走り去っていった。
「あーその、気を落とさないでください、きっとどこかにエリーと相性のいい子がいますよ」
「そうですよエリーさん、その、えっと、泣かないでくださいね」
空を見上げると雨も降っていないのに視界が歪んでいる。なんとなく気がついてはいたんだよ、街でも犬にやたら吠えられたり、猫とは目が合えば猛ダッシュで逃げられたり、鳥なんか一斉に飛び立って糞を落としてきたりしてたんだよ。
そんなわけで私はどういうわけか動物全般に嫌われるみたいです、こうなったら最終手段魔物をテイムして使い魔代わりにするしか無いのかな。
カルロとセーランには、少し一人になりたいと言って先に帰ってもらい、私は杖を取り出し空へ飛び上がる。獣が駄目なら鳥だよ鳥、それも魔物の鳥が良いんじゃないかな。
魔法で気配を探り対象を発見し、ちょうどいいのを見つける事ができた。ダーククロウという漆黒の羽を持つ魔物である。大きさが私と同じくらいと意外と大きいがなんとかなるだろうね。
動物と違い私を見つけて向かってくるダーククロウを捕まえて肉体言語で説得してみる。魔物は上下関係を知らしめて屈服させればなんとかなるはず。さあかかってきなさい、そして私の使い魔になるのですよ!
◆
翌日の昼ごはんは、私が用意した鳥の唐揚げが食卓に並びみんなから絶賛された。私の食べたからあげだけは、塩も胡椒も使っていないのに少ししょっぱい気がした。そして私の収納ポシェットの中には、新たに数匹分の漆黒の羽が在庫として収納されていた。
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