第62話 魔女、王都へ向かう

 領主の館に入った所で応接室まで案内された。そこには真っ赤な髪をした、かなり筋骨隆々の偉丈夫が待っていた。


「戻ったかカルロにアーサよ。セーランも元気そうでなによりだ」


「只今戻りました父上」


 髪色以外全く似ても似つかないがカルロとは親子らしい。


「そこにおられるのがエリー殿でよろしいかな」


「はい、エリーと申します、ガーラ子爵様」


「とりあえず皆座ってくれ、話を聞きたい」


 カルロを中心にして両隣にアーサとセーランが座り、私はセーランの横に座らせてもらう。待機していたメイドさんが紅茶をそれぞれに入れて部屋を出ていく。


「それではダンジョンについて話してほしい」


 カルロが代表してダンジョン内であったことを話し始める。その内容は概ね正確に話されている。違う部分は私に関してのことが端折られたりぼかしたりしているくらいだろうか。カルロは私に気を使ってくれているのだろうね。ところどころ横から訂正したり、質問に答えながら一通り話を終えた。話が終わった所でガーラ子爵が砕けたダンジョンコアを取り出しテーブルの上に無造作に置く。


「にわかに信じがたいが、ここにダンジョンコアの実物があるからな、全て事実なのだろう、今後はどうなると考えられるだろうか」


 カルロが私に目配せしてきたので代わりに答えることにする。ベルダの持っていた本にダンジョン作成キットに関する書物があったので収納ポシェットから取り出して、それを元に説明することにする。この書物はベルダが生前に他のダンジョン所有者と共に研究したことをまとめたものらしい。この書物によると、ダンジョンコアを砕いた場合、ある程度時間が経てば再度生成さると書かれている。


 そして新たに生成されたダンジョンコアは、新たに所有者として登録も可能になるみたい。新たな登録者になる条件としては、前任者より多くの魔力をダンジョンコアに注入しないといけないのだけど、多分今のこの時代にはそれが可能な人って余りいないんじゃないかなと思う。それとダンジョンコアが新しく生成されるまでは新たに魔物などは生まれることがなく、宝箱やアイテムなども手に入らなくなる。書物によるとアルダとベルダのダンジョンは小規模だったのでコアは一年ほどで復活するみたい。そんな感じの話を書物に沿って説明した。


 ちなみにダンジョンを完全に破壊するには、新たに生成されたダンジョンコアに触れて、古代語で『廃棄』と言えばいいとのことだ。その場合は所有者でなくてもいいし、所有者がいるダンジョンなら所有者が破棄を宣言するだけでいいみたい。アルダやベルダみたいに自分に埋め込んでしまうと、自分で破棄はできないとも書かれていた。


「ふむ、エリー殿申し訳ないがその書物はこちらで回収させてもらえないだろうか? 王都にて王に献上し魔術院で研究させたほうが良いかもしれん、報酬は支払わせて頂く」


「ええ、良いですよ」


 書物を閉じてガーラ子爵に渡す。アルダとベルダの書物は全部複製済みなので問題ない。師匠の家でも読んだ事のない書物が結構あったので、そのうち師匠の家に戻ったときのお土産にするつもりで複製しておいたんだよね。複製魔法ってほんとうに便利だわ。他の書物も必要か聞いたら興味を持ったのが何冊かあったようで追加で譲渡することになった。


「それとエリー殿に一つ願いがある」


「何でしょうか」


「それは今回のダンジョン攻略の件なのだが、カルロ達だけの功績としていただけないだろうか」


「良いですよ」


 特に異論はない、変に目立つのもなんだし、功績とかどうでもいいからね。


「エリーはそれで良いのですか? あなたが一番受け取るべき功績ですよ」


「良いよ良いよ、ガーラ子爵様はダンジョン攻略の功績をもってカルロ達の貴族の試練の完遂を宣言したいのでしょうからね、それにね私は貴族のあれこれに関わりたいとは思ってないからね」


「そう、ですか、エリーがそれでいいなら」


「感謝するエリー殿。そういうわけで、カルロにアーサとセーランは、このダンジョンコアと書物を持って王都まで行ってもらう」


「わかりました」


 ガーラ子爵は頷いて紅茶を一気に飲み干して立ち上がる。


「話は以上だ、皆今日はゆっくり休むが良い、王都行きは2日後出発してもらうエリー殿も部屋を用意しているので泊まって頂きたい、風呂も好きに使ってもらっていい」


「それじゃあ遠慮なく泊まらせてもらいますね」


 どうやら私がお風呂好きなのは調べ済みらしい。ここのお風呂はどんな感じかなー、すごく楽しみだわ。


「そうしてほしい、それでは私は失礼させてもらう」


 ガーラ子爵はメイドさんに私を案内するように言ってから部屋を出ていった。


「エリー、色々とすみません」


「本当に気にしなくていいからね」


 カルロたちは申し訳無さそうにしているけど、本当に気にしないでいいよと再度言っておく。みんなが席を立ちカルロは自室へ向かい、アーサとセーランは貴族街にある実家に戻るようだ。二人とも親がガーラ子爵に仕えていると聞いている。私は客間までメイドさんに案内されたのだけど、そのままお風呂に案内してもらうことにした。広くて良いお風呂だったとだけ言っておきましょうか。それから2日後、私はカルロ達と共に王都を目指すことになった。旅の連れはカルロにアーサとセーランにリリ。そしてアルバスさんとアデレートさんとお二人の護衛として騎士が数名とそこそこの大所帯になっている。


 アルバスさんとは領主の館で再会した。私のことを調べて結論が出たようだ。そんなわけでやっと私に近づいて来た目的を教えてもらい、改めて依頼をされて私はその依頼を受けることにした。馬に乗った騎士に守られ、三台の竜車が街道をひた走る。向かう先はドレスレーナ王国の王都、かつて邪龍が暴威を振るっていた地だと聞いている。そこで私は思わぬ人との再会を果たすことになるのだけど、この時は想像すらしていなかった。

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