第57話 魔女、取引する

 ベルダの胸元に埋め込まれている普通ではない魔石、多分ダンジョンコア的なものなのだろう。それを見てなんとなく事情は察せられた。アルダとベルダはダンジョンコアを自らに埋め込むことで、このような形で不死を手に入れたのだろう。


『これを見ただけでおわかりになりましたか、ご想像の通りこれを自らに埋め込むことにより私と兄はこの姿へと変わり、ダンジョンに縛り付けられる事になりました』


『それでそのダンジョンコアを壊せばあなた達の魂は開放されるってことなんだね。ちなみに他の稼働しているダンジョンにもあなた達のような自らダンジョンコアを埋め込んだ人たちがいるってことなのかな』


『ほう、私たち以外にも生きているダンジョンが有るのですね。そうですねそれの答えは、そうだと思いますとしか言えません。私と兄のダンジョンは元々繋がっていたのでこうやって会うことができますが、他のダンジョンとは接触できないのでなんとも言えません。ですがまだ稼働しているのなら何がしかの存在がダンジョンを動かしているのでしょう。それが人なのか魔なるものなのかはわかりませんが』


 つまりはダンジョンを動かしているのは人ではない可能性も有るということか。人以外となると魔物やそれに類するものの可能性も有るというわけだね。


『あなた達がそのダンジョンコアを自身に埋め込むことでそうなったのは分かったわ、なぜそのようなことを聞いてもいいかな』


『そうですね、少し長くなるかもしれませんが聞いていただきましょうか』


 そう言ってベルダが語った内容を簡単にまとめるとこういう感じだった。ある魔術師が何がしかの魔術装置の実験中に制御ができなくなり暴走させたことにより、世界の壁に穴を開けてしまったようだ。その穴のせいで世界に満ちていた魔力が減り始めた。最終的に穴はある神が自らの魂を犠牲にして塞いだのだけど、その頃には魔力が減りすぎていて魔術がまともに使えなくなっていた。


 魔術はマナを一度取り込んで自らのオドに変えて、そのオドを使って使うものだからね。取り込むマナがなければオドに変換できず、オドが足りなければ魔術は発動しない。そしてそれを機と捉えた非魔術師民族が攻勢に出て魔術師は反逆されることとなった。それらから逃れるために多くの魔術師が自らのダンジョンへ入り生き残りを模索した。


 ダンジョン内は別の空間扱いになっていて魔力が維持されていることにより、ダンジョン内なら魔術が使えたために侵入してきた敵には対処できた。ダンジョン自体は外部から自動的に魔力を取り込む仕様に作られていたのだけど、その取り込む魔力が外になかったため減り続けることになった。そしてアルダとベルダの二人は、ダンジョン内の減り続ける魔力を補うために自らの身体にダンジョンコアを埋め込むことで姿を変えて今に至るわけだ。


 元々ダンジョンコアを人や動物、それと魔物に埋め込む実験をしていた者がいて、中には人の姿を保った者がいたりもしたようだ。それに一縷の望みをかけた結果がこうだったと笑っている。共にダンジョンへ避難してきた人たちを守りながら数年過ごし、ダンジョンの外でも魔術が使えるほど世界の魔力が回復したことを確認し、人々はダンジョンの外へ出ていき戻ってくることはなかったのだとか。そして長い年月をダンジョンの一部として過ごして来た二人は、ダンジョンコアを壊せる人物を待ち続けてきた。どうやらお互いにダンジョンコアを壊そうとしてもできなかったみたい。そして今日、私という存在に気が付き今に至ると。私って普段から魔力を隠匿しているのだけど、この二人にはバレバレだったらしい。


『そういうわけで、私たちのこの胸のダンジョンコアを破壊してほしい』


『破壊するにはどうしたらいいの? 普通に叩き壊すってわけではないよね』


 紅茶を飲み始めたベルダに代わりアルダが話を引き継いだ。


『それなのだが、本気で我らと戦ってほしい、その結果我らの魔力がある程度減ればダンジョンコアも破壊できるようになる……と思う』


『それって戦う意味有るの? 普通にあなた達がどうにかして魔力を使い切れば良いんじゃないの?』


『どうやら我らと敵対もしくはダンジョンコアを破壊したいという意思を持つもの以外には、我らは攻撃ができないようでな、そういうことでエリー殿お主に願い出ているというわけだ』


 もしかしたら、ダンジョンコアを埋め込んだことにより発生したバグみたいなものなのかもしれないね。ダンジョンコアを操作できるのは登録者だけな所に、登録者がダンジョンコアと一体になったせいで何がしかの不具合が起きて、ダンジョンコア同士の破壊行動さえもできない感じかな。他にも防衛システムみたいなものがバグって、敵対者以外に攻撃ができないとかそんな感じなのかもしれない。まあこのダンジョン作成キットを作ったあの変態にしかその辺りはわからないのだと思うけど。


『我も弟も最初の数年は魔術や魔導の探究ができると喜んだものだがな、それもすぐに飽いた。それ以降はただの地獄よ、死のうにも死ねぬそして狂うこともできぬ。このダンジョンコアでは大したこともできなかったからな、流石に2000年以上も経っているとは思っても見なかったがな』


 アルダはカカカカと笑っているが、そのドクロの瞳からは空虚さがにじみ出ている。


『わかったわ、それじゃあ私があなた達に終わりを、違うわね、あなた達を開放してあげる、これもきっと……』


 私が魔女としてここへたどり着いた意味なのかもしれないから。


『それじゃあ、彼らには少し離れてもらいましょうか』


『それが良いですね、周りの観覧席に行けば結界で守られていますのでそちらなら安全でしょう』


『おお、そうだこれは報酬として先に受け取って貰えるかな』


 そう言ってアルダが収納袋を差し出してきた。


『それでは私の方もこちらを』


 ベルダも同じく収納袋を渡してくる。


『その中には我らのコレクションや、先程飲んでもらった紅茶の茶葉などが入っている。今の時代がどれほど進んでいるかはわからないが我と弟が生きていた時代の書物なども有る、死にゆく我らには不要なものだからな、ぜひ受け取ってほしい』


『そう、そういうことなら受け取らせてもらうわ』


 収納袋を受け取りポシェットへしまい込む。その行為にアルダもベルダもなんだか驚いているように感じる。


『今の時代は収納袋を再度収納できるほどまでになっているのか』


 あー、そういうことか。普通は収納関係のアイテムは、別の収納アイテムに入れることはできない、それなのに私が収納ポシェットに入れた事に驚いたのね。


『このポシェットは錬金術で作ったものだから特別製なんだよ、あなた達のは魔石と魔術で作ったものでしょ? 少し仕様が違うから入れることができただけだから、今も基本的には収納袋を別の収納袋に入れることは無理だからね』


『ふむ錬金術か興味深い……が、まあ今の我らにはどうでもいい事、そろそろ始めるとしようか』


『彼らに移動してもらうから、少しだけ待ってね。えっとテーブルとか椅子も片付けたほうが良いよね』


『おぉ忘れたおたったわ、ティーセットもまとめて持っていくと良い』


 古代語での会話がわからないカルロ達に軽く説明をして避難をしてもらう。カルロたちも一緒に戦おうとしてくれたけど、ここは魔術師同士の戦いだからといって手出し無用と避難してもらった。詳しい話はダンジョンから出た後に教えることを約束させられたけどね。

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