第56話 魔女、お茶に誘われる
「リリ、今すぐ三人を連れて入り口の扉から外へ出なさい!」
私の言葉にリリが素早く反応する。
「皆さん、ここはエリーさんに任せて急いで外へ出ましょう」
座っていたカルロが急いで立ち上がり、戸惑っているセーランを抱き寄せて入り口へ走り出す。その後にアーサとリリも続く。
「エリー、扉が開きません!」
どうやら扉は固く閉ざされていて開かなくなっているようだ。こうなっては仕方がない。転移で逃げるかと思ったけど、どうやらダンジョン内からは外へ転移できなさそうだ。そうしているうちに出現している階下へと続く階段から何者かが上がってくるのを感じた。私はカルロ達に合流して扉を壊そうとしたのだけど無理だった。とりあえずカルロ達に結界を張って私は四人を庇うように前へでる。5階層しか無いはずのダンジョンにできた下層へと続く階段から声が聞こえてきた。
『ああ、待っていた、待ち望んでいた』
階下から少しずつ見え始めるそのフードの降ろされた赤いローブを見た瞬間はただの魔術師かと思った。だが少しずつ現れた姿はただの魔術師ではなく、魔術師の格好をした骸骨だった。骸骨は私に目をやると一つうなずき古代語で話しかけてきた。
『そこの娘よ頼みがある、我らの魂を開放してほしい』
見た感じそこまでの強さは感じないし、敵対の意思も無さそうに思える。とりあえず情報収集も兼ねて会話をしてみることにしましょうか。
『魂の開放? あなたは一体』
『我が名はアルダ・トリスタ、マグナリア帝国の3級魔術師だ』
マグナリア帝国、2000年ほど前に滅んだ魔術師の国の名称。そしてダンジョンが作られた時代でもある。3級魔術師というのがどういった身分かはわからないけどね。
『ふむ、よければ下までご足労願えないだろうか、もう一人会ってもらいたい者がいる』
さてどうしたものかな、私一人ならどうとでもなるけどカルロ達を放っておくわけにもいかないし。
「エリー、先程からあの魔物と会話しているようですが、どうなっているのですか」
カルロの質問になんて答えたらいいものか、とりあえず先にこっちからか。
『えっと私が行くのは良いけど、後ろの子たちをダンジョンから出してあげたいのだけどなんとかならない?』
『ふむ、用があるのはお主だけだからな、出口を作るのでそこから帰せばよかろう』
そう言ってアルダが手に持つ杖を地面に打ち付けると門が現れた、あれをくぐれば地上に戻れるってことかな。
「カルロ、あなた達はあの門を使ってダンジョンから出なさい、あの人は私に用があるみたいだから」
「エリーを一人置いていくわけにはいきません、僕たちも付いていきますよ」
「みんなもそれでいいの? 危険かもしれないよ」
「なら尚更です、まあ僕の勘がエリーについていけと言っていますから」
カルロが勘だと言った時点でアーサもセーランも仕方なさそうな表情を浮かべてついて来ることにしたようだ。
「ワタシも付いていきます」
「リリは何が目的か知らないけど、ちゃんと後で教えなさいよ」
「もしかしてバレてましたか」
「そりゃあ色々不自然だったし、わざとなのかはわかんないけど色々違和感があったからね」
リリも含めて全員付いてくることに決まったようだ。
『お待たせ、この子達も付いてくるって言ってるけど危害は加えないでほしい』
『元々その者たちに用事はないからな、邪魔さえしなければ何もせぬ』
「邪魔さえしなければ付いてきていいって」
「わかりました」
『それじゃあ行きましょうか』
『それでは付いてくるが良い』
アルダは階段を降りていき、私たちはそのアルダから少し離れて後に続いて階段を降り始める。階段は10段くらいしかなくすぐに降りきり六階層にたどり着いた。そこは闘技場のようになっていて円形の広場とそれを囲むように円形の観覧席が有る場所だった。そして闘技場の中央には私たちを案内してきたアルダと名乗った骸骨と、もう一人同じ服装の骸骨が待っていた。アルダとの違いはアルダが赤いローブに対してもう一人は青いローブを着ているくらいだろうか。特に敵意など感じられず骸骨のドクロの目の部分には光が灯っており、不思議と知性が感じられた。
『まずは挨拶を、私はアルダ・トリスタの弟でベルダ・トリスタといいます、マグナリア帝国の3級魔術師です』
『ご丁寧にどうも、私はエリーと名乗っています。後ろの彼らは……、古代語がわからないようなので挨拶はいいですね』
『古代語ですか、私たちがこうなった後に帝国は滅んだということですね』
『そうだね、大体2000年ほど前の話しになるね』
『2000年ですか……、やはりあの後……』
ベルダがつぶやきながら考え事を始めたタイミングでアルダが声をかけてきた。
『挨拶はそれくらいにしてまずは座ってほしい、我らの生きていた時代のものだが高級な部類の茶葉で入れたお茶でもどうだね』
ベルダと話している内に、アルダがテーブルと椅子を収納袋から取り出して、人数分のティーカップなどを用意している。椅子に座るとアルダがティーカップに紅茶を注いでくれる。
「とりあえずあなた達も座りなさい、お茶を振る舞ってくれるんだって」
「エリー、その、なんて言ったら良いか、何を話しているのかわかりませんが良いのでしょうか」
「2000年前の物だろうけど、あの収納袋は時も止められるタイプっぽいから飲んでもお腹を壊さないと思うよ」
「いえ、そうではなくてですね……、はぁもうわけがわかりませんがわかりました、みんなお茶をいただきましょう」
なんだか困惑した表情を浮かべながら椅子に座る面々。それぞれの前に置かれているティーカップに紅茶を注いでいくアルダ。アルダは一通り紅茶を入れ終わり最後に自分の分を入れて席につく。
『私が言うのもなんですが、このような姿の私たちを見てもこの反応は、今の時代の方々は物おじしないといいますか度胸が有るとでも言えばいいのでしょうか』
ベルダが紅茶の香りを楽しむような動作をしてから飲み始める。骸骨の姿でもちゃんと紅茶が飲めるんだね、あの口から入った液体はどこへ行っているんだろうかなんて考えながら私も一口紅茶を飲む。意外と美味しい。私が飲んだのを見てカルロたちも紅茶に口をつける。
「美味しい、どこの茶葉なんでしょうね、飲んだことがない味です」
セーランは紅茶党なのか茶葉が気になるようだ。私が言うのも何だけど、この子たちほんと度胸があるよね。
『美味しい紅茶ありがとう。それでそろそろ話しを聞きたいのだけど』
『そうですね、エリー殿をここにお招きした理由なのですが結論から言いますと、私と兄の魂を開放してほしいのです』
そう言ってベルダはまとっている服の胸元を広げて、そこに埋められている魔石を露わにした。
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