第58話 魔女、戦う
side:リリーナ
「エリーは大丈夫でしょうか」
「魔術のことはわからないですけど、エリーさんは相当の魔術の使い手だと思います、ですが相手の力量がわからないのでなんとも……」
「私もセーランと同意見ですが、エリー本人は問題ないといった感じに見えましたね」
観覧席まで移動してきたカルロとセーランにアーサが話をしている。
「リリさんはどう思いますか」
「急にさん呼びとかどうしました?」
「そのリリさんって、僕の父に仕えている騎士ですよね」
どうやらバレてしまったようですね。
「どうしてそうお思いになられたのですか」
「先程のように話してもらっていいですよ。エリーが言っていたように色々と違和感があったからですよ。決め手は先程エリーが出した指示にためらいなく反応したからですけど」
「そう、まあバレてしまったのならいいわ、この後のことなんかも話し合いたいと思っていたからちょうど良かったかもね。それじゃあ改めて自己紹介、ワタシはリリーナ・デルセン、カルロ様のお父君であるガーラ子爵様に仕えている騎士よ」
「リリーナさんと呼べばよろしいですか? それにしても家であなたを見かけた覚えがないのですが」
「ダンジョン内ではリリでいいわ、その代わりワタシもカルロと呼ぶからね。それとワタシは裏方だから見かけたことがないのはそのせいね。小人族だから見かけは子どもだし、普段は案内人を装ってダンジョンに関するあれこれの管理をしているのよ」
「そういうことですか。わかりました、それでリリはこの後どう行動したら良いと思いますか」
「そうね、とりあえず様子見かしらね、エリー次第のところはあるけど、逃げ出すだけならいつでもできるからね」
特に閉鎖されている様子もない出口を指さしてみせる。
「それにしてもエリーって何者なのでしょうね、魔術の腕もさることながら古代語でしたか、魔術師なら普通に話せるものなのでしょうか」
「そんなこと無いわよ、古代語なんて王都の学者でもあそこまで流暢に話せないと思うわ」
「皆様そろそろ始まるようですよ」
セーランの言葉に視線を闘技場へと向けると、魔術文明時代の魔術師らしい2人の骸骨とエリーがお互いに杖を向けて構えている。さてと、とりあえずエリーが勝つことを願いつつ、もしもの場合はこの子達だけでも逃してあげないとね。
◆
カルロたちが観覧席からこちらを見ているのを確認して戦いの準備を済ませる。といっても、用意するのは杖だけなんだけどね。使い慣れた私の身長ほどのスタッフタイプの杖、素材は魔の森のエビルトレントを削り出して作った一級品。
『準備はよろしいでしょうか』
『ええいつでも良いよ』
『それでは、我から行かせてもらおうか』
アルダが杖を構える、アルダの杖は細くて短いワンドタイプの杖だ。昔はワンドタイプが主流だったようだけど、今はスタッフタイプが主流だったりする。
杖の違いはワンドタイプは速射に優れているが広範囲攻撃には向かない、逆にスタッフタイプは連射には向かないけど複数の術を保持するのに向いている、と言っても時間差なんて一秒にも満たないのだけど、その一秒が生死を分ける場合もある程度だね。あとスタッフタイプは魔法との相性がいいんだよ。もう一つロッドタイプのものもあるけど、あれはだいたい儀式などに使う感じで、先端に魔石や宝石で装飾していたり、見栄え重視の用途でよく使われる。戦闘ではなんというか微妙なんだよね。
『それじゃあアルダ、あなたのダンジョンコアを破壊させてもらうわね』
その宣言にアルダの胸に埋め込まれていたダンジョンコアが反応したようで鈍い光を放っている。
『ではまずは小手調べと行こうか』
アルダが呪文を唱えることもなく無言で杖を振るうと炎の矢が複数こちらに飛んでくる。私は杖を横薙ぎに振るって同じく炎の矢を作りぶつけることで相殺する。アルダが無詠唱なのは魔力を減らすのが目的だからだろう。
その後は水弾、石礫いしつぶて、風刃と順番に打ち込んでくるので、同じ魔術で相殺する。
『ほう、思った以上の力量を持っているようだな。準備運動も済んだ、ここからは手加減なしで行かせてもらう』
『ふふ、それじゃあ私も少しだけ力を出しましょうか』
複数の属性の魔術が構築され私を狙うように打ち込まれる。私はそれを避けるようにアルダに向かって走り杖を振るって魔術を発動させる。ドリルのように高速回転をする石礫を生成してアルダに放つ。背後ではアルダによる攻撃が地面に当たる音が伝わってくる。
『むっ』
アルダが石礫を防ぐように魔法障壁を生成したようだけど、魔法障壁は簡単に砕け複数の石礫をその体に受ける。私はそのままアルダに肉薄して、杖を横薙ぎに振るってダンジョンコアに当てた。
『硬った、流石に無理か』
ダンジョンコア自体が障壁を展開しているようで直接攻撃を当てることはできなかったけど、それ相応の魔力が減ったのがわかった。私の攻撃で吹っ飛んでいったアルダだけど体制を立て直して歩いてくる。
『その魔力量からして生粋の魔術師かと思えばそうでもないようだな、どうやら我一人では相手にならないようだ』
アルダがなんだか嬉しそうに笑っている。
『ベルダよお前も加われ、それでもエリー殿には敵わないだろうが、少しはましだろう』
『私は構いませんが、エリー殿はよろしいので?』
『そうだね、うんまあ良いよ、二人がかりで来なさい、手加減抜きの本気で相手してあげるよ』
『今のを見ていますと、舐められているというわけでも無さそうですね』
『んーと、なんて言ったらいいか、あなた達の時代は余り魔術師同士の戦いってなかった感じだよね』
『ほう、いまのでそこまでわかるものなのだな』
『それと私を本気で攻撃しようとしていないでしょ、まあ目的がダンジョンコアを壊すことだから私を殺すわけにはいかないのはわかるけどね。私としてはもっと本気で来てほしいかな』
『分かった、それでは我ら二人、エリー殿を殺すつもりで行かせてもらう』
『うん、それでいいよ、最後の最後まで悔いを残さないようにね』
アルダとベルダが並んで杖を構える。私も杖を構えて杖に魔力を込める。ここからは私もちょこっとだけ本気で行きましょうか。
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