第55話 魔女、ボスと戦う
「そろそろ行きましょうか」
「リリも付いてくるの? 戦いが終わるまで外で待っていてもいいよ」
冊子によると、ここのボス部屋は途中で外に出ることもできて、外から戦闘だけを見ることもできるようだ。ダンジョンによっては一度入ったら戻れなかったりするタイプもあるのだとか。
「お供させていただきます、自分の身くらいは守れるので邪魔にはなりません」
そう言ってナイフを手に持って構えて見せる。
「前衛は僕とアーサで、セーランはまずは祝福を、エリーは遠距離の相手と僕らを抜けていった敵をお願いします。リリは自分の身を第一に、何かあったら大声で教えてください」
「遠距離と抜けてきた奴は任せなさい」
私の言葉に皆が頷く。続いてセーランが両手を組み祈りを捧げる。
「風神よ、我らに祝福を」
セーランの言葉に呼応するように、どこからともなく光の粒子が降ってくる。みんなは気がついていないようだけど、その祝福の光は私を避けていたりする。まあ、そういうものなので気にはしていない。
祈る姿を解いて目を開けたセーランだけは何か違和感を感じたようで首を傾げている、なにがおかしかったのかはわからないようだけどね。ちなみに風神の祝福の効果は若干の移動速度と瞬発力の増加になるらしい。祝福を受けたことがないので知識として知っているだけで、どれくらいの効果があるのかは知らない。
「よし準備はいいですね」
カルロが扉に触れるとギシギシと音を立てながら開き始める。開いていく扉の間から中を覗いてみると、かなり広い空間が広がっているのがわかる。その空間の奥には十匹のゴブリンに五匹のオーク、そして一匹のオーガが待ち構えている。
「それでは行きます!」
開ききった扉からカルロとアーサが中に走り出す。それにセーランと私が続いて最後にリリが扉を潜り抜ける。私は弓を持つゴブリンに魔術を放ちさっさと処理する。その数は六匹で、ゴブリンは残り四匹となった。アーサが盾を構えゴブリンの集団へと飛び込みながら、槍で連続突きを叩き込む。残ったゴブリンはカルロが一撃で倒してしまう。落ち着く間もなく遅れてやってきたオークには私が魔術を使い三匹倒しておく。
残り二匹になったオークはカルロとアーサが危なげもなく倒した。残ったオーガが配下であるゴブリンやオークが倒されたことにも怯みもせずにこちらに歩み寄ってくる。オーガは赤銅色の肌に二本のツノを生やしていて、私の三倍ほどの身長を持つ筋骨隆々の怪物だ。手には幅広のバトルアクスを持っている。
「カルロどうする? 無理そうなら私が対処するけど」
「まずは僕たちでやらせてください。僕は左から行くのでアーサは右から、セーランは待機を怪我などをしたら癒やしをお願いします、エリーは適度に援護をお願いします」
「回復は任せてください」
「わかったわ、頑張って倒しちゃいなさい」
オーガはダンジョン特有の魔物らしく叫ぶこともなく、バトルアクスを振り上げカルロめがけて振り下ろす。カルロは素早く左へステップを踏むように避けて攻撃を加える。右側に回ったアーサもオーガの脇腹に槍を突き入れる。オーガは槍が刺さったまま身を起こすとアーサに向かってバトルアクスを横薙ぎに振るおうとする。私はそれを邪魔するようにオーガの顔を狙い魔術を放つ。
「水弾」
飛ばしたのはただの水の弾だけど、邪魔をするという目的には適している魔術なんだよね。顔に当てることで水弾が弾け、とっさに目を閉じたとしても拭わない限りまともに目を開けることができない。そのためオーガは、やたらめったにバトルアクスを振り回すだけとなり、背後が隙だらけとなった。そこへアーサが背後へ回り膝裏へ槍を突き刺した。それによりオーガは前のめりに倒れ、そこへカルロが駆け寄り首を切り飛ばしオーガは黒い霧となり消えていった。まあカルロとアーサの実力ならオーガ一匹くらいはこんなものだろうね。私の援護すらいらなかったと思うけど、何もしないというのもね。カルロとアーサがハイタッチをしながら戻ってくる。
「お疲れさま、良い連携だったよ」
「エリーも援護助かりました」
「みなさん本当にアイアンのパーティーなんですか? エリーさんはシルバーとのことですが、カルロさんもアーサさんもシルバーでも通じそうな動きでしたよ」
「まあ、僕もアーサも幼い頃から父や母に鍛えられましたからね、オーガ一匹程度でしたら問題ないですね」
他の国はわからないけど、この国の貴族はすべからく冒険者を経験しているわけで、その子どももいつかは冒険者に一度はなること前提で鍛えているんだろうね。その結果が、カルロやアーサのように、歳の割には戦える貴族の子が多いのだと思う。
「それでリリ、これで終わりなんだよね?」
「そのはずなんですけどおかしいですね、ボスを倒したら出口となる門が出現するはずなんですけど……、でませんね」
とりあえずオーガが持っていたバトルアクスや、他の魔物の持っていた武器を回収しておく。リリが言う通りなら普段と違うこの状況が、カルロの勘がもたらした結果なのだろうか。さてとどうしたものかな、出口が出ないと言うことは逆走して戻らないといけないってことだよね。休憩をしているカルロたちの所へ戻ろうと歩き出した所で、突然背後に魔力の収束を感じた。カルロたちの方へ走って下がりながら背後を確認すると、そこには下層へと続く階段が現れていた。
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