第54話 魔女、感心する

 曲がり角の先にはゴブリンが三匹いたようだ。持っている武器は棍棒が一匹にショートソードが二匹の編成で通路の中央に立っている。カルロとアーサがお互いにうなずいてゴブリンに向かって走り出す。そこで初めてこちらに気がついたようにゴブリンが無言で動き出す。カルロもアーサも危なげもなく一撃でゴブリンを切り捨ててあっさり戦闘を終わらせる。倒れたゴブリンは一言も発することなく黒い塵となって消えていった。ゴブリンが消えたあとには棍棒とショートソードに腰布が残っていた。見た感じではダンジョンの魔物はゴーレムの一種なのかもしれない。


 動きは野生のゴブリンと変わらないように見えたけど、どこかしらぎこちないというかゴーレムっぽく感じられる。表情に感情が見受けられなかったし叫んだりもしなかった。そして驚いたのはゴブリン特有と言っていいほどのあのなんとも言えない臭においが全くしなかったんだよね。


「これはどうしましょうか」


 カルロとアーサが落ちている棍棒とショートソードに腰布を見ている。


「三人は収納できるものは持ってないの?」


「持ってはいますが、余り余裕がないんですよね。アーサとエリーはどうですか」


「私の方もそれほど容量が残ってませんね」


「私はこのポシェットがそうだけど、まあまだまだ入るし私が預かっておくよ。えと腰布もいる? 正直これは触りたくないんだけど」


「たしかにこれは触りたくないですね、このまま捨てていきましょうか」


 カルロのその言葉にアーサとセーランも頷いている。とりあえず棍棒とショートソードを収納しておく。はっきりいって鈍なまくらの部類でこのまま使うより鋳潰いつぶして再利用したほうがましかな。


「捨てるなんてもったいない、みなさんがいらないのならワタシがもらってもいいですか」


 リリがそう言って、ゴブリンの腰布らしきものを手にとる。


「それって使い道があるの?」


 すごく嫌そうな顔をしてセーランが尋ねている。


「何に使うかはわからないけど、買い取り所で一つ銅貨一枚で買い取ってくれるんですよ」


「そ、そうなんだ、ゴブリンの腰布って売れるんだ……」


 結局ゴブリンの腰布はリリの好きにしてもらうことになった。その後はたまに出てくるゴブリンを危なげなく倒しながら進み階段の所で休憩をして二階へ降りる。ダンジョンで魔物は階層を越えられないということで、階段で休憩するのがいいみたい。休憩中に戦闘はどうだったかなど聞かれたけど、敵が弱すぎて判断しようがないと答えておいた。休憩を終えて二階層に進む。二階層では弓を持つゴブリンが増えるだけだったので、ここも問題なくカルロとアーサだけで切り抜けた。途中で交代しようかと提案したのだけど、大丈夫と言われたので任せている。


 そのまま進み、危なげもなく三階層へ降りる。三階層は狼に跨ったゴブリンライダーが出るようになる。ここからは私も参戦して、動きの素早いゴブリンライダーを魔術で倒すようにしている。多分私が参戦しなくてもカルロとアーサだけでも行けそうだけど、私が加わることで戦闘時間が大幅に短縮されたようで、リリの想定よりも早く進めているみたい。そしてそのまま進み四階層へとたどり着いた。ここからはゴブリンの他にオークも出るとのことだ。最初に遭遇したオークが持つ武器はロングソードと盾だった。そしてオークに合わせたのか四階層は通路が一回り広くなっている。敵がゴブリンからオークに変わってもカルロとアーサはちゃんと対応できている。


 少しだけ危ない場面もあったけど、途中からセーランがサポートに入ることで対処できている。それにしてカルロもアーサもセーランもアイアンということだったけどシルバーでも通じるんじゃないかな。相変わらず魔物は無感情で、動きもゴーレムじみているから対応し易いのもあるけど、三人の連携はいい線いっているように思える。少しだけ気になることがあるので、それはダンジョンから出たあとで少し指導してあげようかな。そして四階層を越えて五階層にたどり着いた。五階層は今までの通路を進むのではなく、四階層から階段を降りた所にボス部屋の扉がそびえ立っている。


「意外と早くたどり着けたようですね」


 巨人の高さに合わせたような大きさの両開きの扉を見上げながらカルロが話してくる。


「そうだね、リリの話だと普通はもっと時間がかかるようだったけどね」


「みなさんが早いんですよ、普通のダンジョン初心者パーティーだとこうは行かないですからね」


「まあ、ゴブリンやオーク程度だと流石に苦戦しようがないからね」


「エリーが事前に敵を感知してくれて先制できるのも大きいですね」


 最初は魔物が現れるのがわかるだけだったけど、ここまで降りてくる間に魔力の集まり具合で何が何匹という違いまでわかるようになった。魔物を作り出すために使用される魔力量が出る魔物の種類で全く同じなんだよね。


 あとは持っている武器で魔力量がわずかに変わるので、何の武器を持っている魔物が出るなんてのもわかるようになった。どのくらいの距離に何の武器を持ったなんの魔物がいるのかがわかるだけでも、優先して倒す判断ができるので戦闘が楽になる。戦闘時間が短ければ体力の温存にもなるので進む速度が自然と早くなる。そういうわけでリリの想定を大幅に早める結果を叩き出したわけだ。

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