第53話 魔女、ダンジョンに入る

「お兄さん達はここのダンジョン初めてでしょ、一階層進むたびに銅貨一枚でどこまででも案内するよ」


 カルロがどうしましょうか、というように私たちを一度見てから少女に話しかける。


「どうして僕たちがここのダンジョンが初めてだと思ったんだい」


「そりゃあお兄さん達をここで見るのが初めてだからだよ」


 この少女はダンジョンに出入りしている冒険者を全部覚えてるってことなのかな。どれだけの冒険者がここに通っているのかわからないけど結構な人数はいそうなんだけどね。


「みんなどうします? 本当に最下層まで案内ができるなら今日で走破もできると思いますが」


「わたしはカルロの判断に従います」


「私もカルロにお任せします」


「私はどっちでもいいよ、ここのダンジョンなら出る魔物も大したことない部類だし、さっさと攻略してもう一つのに行くのもいいかもね」


 カルロが私たちの意見を聞いてから少女に向き直って話をする。


「本当に最下層まで案内できますか?」


「任せてよ、これでもこの辺りじゃ一番の案内人を自負しているからね。お兄さんたちの実力なら夜になる前には攻略できるよ」


「僕たちの戦っている姿を見ていないのに実力がわかるのですか?」


「まあ、大体はだけどね、人を見る目はいいと思ってるから」


 慌てることもなく、不自然なくらい普通に受け答えしている。度胸があるというか慣れているのかもしれないね。


「それじゃあお願いしようかな、みんないいですよね」


 私たちが頷くのを確認して、カルロは銅貨を五枚取り出して少女に渡そうとする。


「お兄さん達貴族でしょ、話し方もそうだけどお金を先に渡しちゃ駄目だよ、中にはたちの悪いのもいるからね」


 少女は呆れたように言って「お金は依頼が完了してからでいいから」と受け取らなかった。ここのダンジョンは兵士が管理しているけど、もう一つの方はこことは少し仕様が違って不人気なようで、兵士など常駐していないのだとか。だから知らずに先にお金を渡してしまうと、最後に入ることで金だけ受け取り案内せずに逃げたりするのもいると教えてくれた。わざわざそういう説明をしてくれる辺りこの少女はお人好しなのかもしれないね。


 案内人として雇うことになった少女だけど名前はリリと名乗った。私たちもそれぞれ自己紹介をしながら、ダンジョンの入場待ちの列に並ぶ。門の横には兵士が二人立っていて、リリが教えてくれたのだけど入るタイミングを測っているのだとか。ダンジョンに入る間隔が短いと同じダンジョンに出れるらしいのだけど、少し間隔が空くと別のダンジョンに出るらしい。この辺りの仕様もなんだかゲームっぽいよね。


 なんと言ったら良いのかな、オンラインゲームなんかでパーティーが違うと別のダンジョンになるとかそんな感じなんだと思う。よくこんな仕様を思いついた上に作り上げたなと思うわ、作った本人はただの変人としか思えないのにね。前のパーティーがダンジョンに入ったところで兵士に止められて待つ。三分ほど待つと入ってもいいと声をかけられたので、リリが最初に入るということでダンジョンの入口の暗闇へとそのままくぐっていく。続いて私たちもそれに続いて暗闇に入る。


 暗闇を越えた先はオーソドックスなダンジョンとでも言えばいいのだろうか、人が両手を広げて三人ほど並べるほどの広さの石の壁に囲まれた通路になっていた。後ろを振り返ってみると、入ってきた入り口はなくそちらも通路になっているようだ。壁が少し発光しているようで全体的に明るい。


「ようこそ、初めてのダンジョンへ」


 リリが少し気取ったように礼をして出迎えてくれた。


「ここがダンジョンか」


 カルロとアーサとセーランがキョロキョロと周りを見ている。


「それでは、ここからは隊列を組んで移動しましょうか」


 カルロがみんなを見回しながら話し始める。


「隊列は僕とアーサが先頭、その後ろにセーランとリリ、最後はエリーで行きます。最初に話したようにエリーは僕たちの足りない部分を補助する形でお願いします。リリは進行方向を教えてください、道はわかりますか?」


「大丈夫、最短距離を案内するよ」


「お願いします、それでは進みましょう」


 カルロとアーサを先頭にして進み始める。ダンジョンに入るのは初めてなのだけど熱くもなく寒くもなくなんだか不思議な場所だ。そういう風に設定され作られたということなんだろうね。リリの案内に従い進んでいくと前方の曲がり角の先で魔力が集まるのがわかった。


「そこの曲がり角の先に何かいるようだよ」


 私がそう声をかけるとカルロとアーサが素早く移動して角の先を覗きこもうとするのだけど、そこをリリに止められた。


「不用意に覗き込まないほうがいいですよ、確認するならこういう風に鏡を使うといいよ」


 リリが手鏡を出して曲がり角の確認の仕方をカルロ達に教えている。それにしてもガラス製の手鏡なんて子どもが持つには良いものを持っているリリって何者なのかな。私の感じた疑問をセーランも感じたようで私に目配せしてくる。


「(何者かはわからないけど、悪い感じはしないから気にしなくていいと思うよ)」


「(そうですか? でもカルロにあんなに……)」


 うん、セーランが気にしていたのはカルロとリリの距離感だったようだわ。まあ、それも大丈夫でしょ、そういう感情はなさそうだよと、セーランをなだめておくことにした。

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