異世界に落ちた元アラフォー社畜は魔女となり魔女の弟子を名乗る

第51話 魔女、馬車の洗礼を受ける

　高級宿に泊まってから５日たった、本日この宿を引き払ってダンジョンのある村へ向かおうと思う。ダンジョンを楽しんだら一度戻ってくるつもりではいるのだけど、その時空いていたらまた泊まろうと思えるほど満足いたしました。一応アルバスさんにはダンジョンへ行くということと、一度は戻ることを私を監視していた人を捕まえて伝えてもらうようにお願いしておいた。特に返事はもらってないけど私に用事があるなら王都に向かう時には一緒になるでしょうね。

　ダンジョンのある村にはシャトルバスならぬシャトル馬車があるようで、普通の馬車よりも安くて早く移動できるみたい。冊子の情報によるとこの街の近くにあるダンジョンは４箇所、分類的に初級が２つ、中級が１つ、上級が１つとなっている。初級はどちらも５階層となっていて、かなり近い位置にあるのでこの２つは魔術帝国時代に対戦があったときの名残なのかも知れないね。私が向かうのはその初級のダンジョンからほど近い村。この村はダンジョンのために作られた村のようで、村というよりも宿場町といったほうが良いかも知れない。初級と言われているこの二つのダンジョンの一つからは低級の装備と魔物が装備している武器などが拾えるようで、ブロンズからアイアンに上がるくらいの冒険者が最初に入るのに適しているのだとか。

　手に入る装備がなまくらだとしても、売ればそこそこの値段になるだろうし、鋳潰して新しい武器を作ってもらったりもできるので、そこそこ人気ではあるみたい。今回私はダンジョンがどういうものか体験するために、まずは初級に入ろうと思っている。早速シャトル馬車に乗り込み村へ向かう、一緒に乗り込んでいるのは私と同じくらいの年の子から少し下くらいの子まで様々だ。村までは一時間くらいで、スピード重視のためなのかあまり乗り心地は良くない、というかもう二度と乗らない、これにもう一回乗るくらいなら空飛んでいくよ。ガタガタガタガタ揺れまくってお尻が痛いし、横揺れも酷くて私は大丈夫だったけど同乗していた子たちがずっと酔ったせいか顔色を悪くしていた。

　村に着いた頃には同乗していた子達もかなりグロッキーになっていた。何人かは馬車から降りると同時に草むらまで走ってうずくまっている。さてとどうしましょうかね、先にギルドに行くか、もしくは宿屋を探すか。ギルドで良さそうな宿屋の情報をもらうのもいいかな。宿場町的な村なだけあって、村の入り口から見ただけでも宿屋や酒場が複数あるのが見て取れる。よし、まずはギルドにいっていい宿やの情報をもらおうかなと思い歩き始めた所で声をかけられた。

「あの、お姉さん、少しお話よろしいですか？」

　その声に振り返るとそこには二人の少年と一人の少女が立っていた、歳は１５，６といったところだろうか。同じ馬車に乗っていた子で、三人とも顔色が悪い。声をかけてきたであろう少年は赤い髪をしていて、黒に染められた革鎧に片手剣のいわゆる剣士の格好だ。もう一人の少年は青い髪をしていて金属鎧に槍とカイトシールドを背負っている、そして腰のあたりまである金色の髪の少女は風神の神官だとわかるような薄い緑色の神官服姿をしている。

「私になにかようかな？」

「はい、お姉さんもこの近くのダンジョンに入るのは初めてですよね」

「まあね、えっと話しって長くなりそう？　とりあえずどこかのお店で一度落ち着いたほうが良くないかな。その子もしんどそうだよ」

　私と話していた少年が仲間の少女を振り返って少女の表情を見てからこちらを向く。

「そうですね、それではあそこに見える軽食屋でしょうか？　そこでよろしいですか？」

「わかったわ、話は聞いてあげるから移動しましょう」

　四人でお店に移動して席につくと、適当につまめる物と果実水を注文する。三人は果実水を飲んで少し落ち着いたのか顔色はさっきよりましになったようだ。

「それでお話って何かな？」

「お姉さんもそうだと思うのですが、僕たち三人は今回始めてダンジョンに入るんです。そこで一緒にどうですかと言ったところです」

　まあそんなところだろうなとは思っていたけどどうしようかな。三人の見た目からしてこの子達は多分貴族だろうね。装備もそうだけど中の服も良いものを着ているから間違ってはいないと思う。

「三人とも貴族だよね」

「わかりますか」

「まあ、服が綺麗だし喋り方がね。それで私に声をかけた本当の理由はなにかな？」

「本当の理由ですか？　先程言ったことがそうですけど」

「そう？　そういうことならお断りします」

　四人分の金額を置いて席を立つ。

「あっ、その待って下さい、信じてもらえるかわからないのですけど、勘なんです」

「勘……ね、もう少し詳しく教えてもらえるかな」

　再び席について話を聞くことにした。

「僕は昔からなんといいますか、予感のような物を感じることができるんです。それがお姉さんと同じ馬車に乗った時に感じられたからなんです」

　面白い、彼は予知かそれに類するものを持っているのかも知れないね。見た所、能力とまではなっていないようだけど。能力になってないまでもその勘が私と行動をともにした方がいいと感じたわけだ。

　必然か偶然か、私という存在を引き当てたのは興味深い。四人で行動することによって何かがあるのかもしれないね。

「そっか、そういうことなら一緒に行動しましょうか。まあそれだけではなさそうだけど、まあいいわ」

　少年の横に寄り添うように座っている少女に目をやると、なぜか睨まれた。

「いいのですか？」

「勘は大事だよ、その感覚は大事にしなさい」

「はい、僕の名前はカルロです、今は冒険者なので家名は名乗れません。横にいる彼女はセーランで、こっちがアーサです、二人とも僕の幼馴染になります」

　セーランは小さな声で「よろしくお願いします」と答えた。

「アーサです、よろしくお願いします」

「私はエリーよ、よろしくね」

　こうして初めてのダンジョンはパーティーで潜ることになった。