第50話 魔女、ダンジョンを語る

 ダンジョンに関する情報として冊子が手に入ったし、そろそろ晩ごはんの時間になりそうなので、本日はさっさと宿でゆっくりすることにした。宿に入ると丁寧な出迎えを受けていつでも晩ごはんを食べられると教えてくれた。ちょうどお腹もすいてるので晩ごはんをお願いすると、食事は部屋に運んでもらえるようだった。レストランみたいな場所もあるけどあまり利用する人はいないみたい。宿屋側の配慮というよりも、部屋で食べたいと願い出るお客さんが多かったのでそういう風になったのだとか。


 肝心の食事内容だけど、魚料理だった。近くに海は無いはずなのにちゃんとした海魚だ。流石にお刺し身はなかったけど、塩焼きにソテーに煮魚といろいろ揃っていた。魔の森でも湖や川から魚は一応手に入るのだけど、あれは魚というか魔物だし肉は魚の肉というよりも獣の肉なんだよね。そういうわけで海魚、それも普通の魚なんて食べたのはこの世界に来てから初めてかも知れない。お味の方は満足出来る出来だったけど、お米がほしい。ケンヤからお米ももらっているけど出すわけにはいかないからね。海なし県もとい、海のない街で魚が食べられるという意味ではあの宿泊費は相応だとおもう。


 食器類を片付けてもらい食後のデザートのフルーツ盛りとワインをうけとり、お風呂に入る。お風呂の前にお酒飲んじゃうとあまり良くないからね。さっぱりした後に魔法で冷やしたフルーツ盛りとワインを一緒に頂いて今日は寝ることに。ずっと気になっていたのだけど、すっごいできの良い寝具だ。ふわっふわのもっふもふな感じは死使鳥なみの良い羽毛を使っているんだと思われる。ダイブするようにお布団に潜り込むとその心地よさのせいですぐに眠りに落ちた。



 はい皆様おはようございます。朝風呂を堪能した後に、食事をいただき今はギルドに来ています。朝食もおいしゅうございました。パンがねふわふわのもちもちでしたわ、さすが高級宿。さて露天を色々眺めて面白そうなものや美味しそうなものを適当に買いながらギルドに着いたわけですが、かなり混雑してるみたいです。朝一で外から戻ってきたのか薄汚れた格好の冒険者がかなりいる。この街も他の街同様に救済処置なのかウッドランクの子ども用の依頼が結構有るようだ。まあ街の規模が大きいからそういう依頼も必然的に増えるものなんだろうね。


 なんか面白そうな依頼はないかなと掲示板を見てみたけどあまり大した依頼はないみたい。内容としては他の街と大して変わらない感じかな。その中でも珍しいのはダンジョン関係の依頼があることだろうか。このガーラの街の領内にはダンジョンが複数あるようだ。ダンジョンというものは一種の異空間となっていて、入り口以外からは入ることができない。すぐ横の壁を掘り進めても別の空間にあるので繋がらないって感じだね。ダンジョンにも色々な種類があり、洞窟型や宮殿型、街のようなものや草原や森なんてものも存在する。いったい誰が何の目的で作ったのかは……実はわかっている。といっても今の時代の人が知っているかは分からないけど私は師匠と、とある人物から教えてもらった。


 今から2000年ほど前に存在した魔術至上主義的な帝国があった。魔術師以外は人にあらずみたいな感じだったらしい。そんな国である時、娯楽として作られたのがダンジョンだったのだとか。では娯楽としてなぜダンジョンだったのかというと、ある魔術師が魔導具としてダンジョン生成キットみたいなものを発明して一大ブームを巻き起こしたのが理由だった。


 そのキットを使えば魔力を注ぎ込むだけでダンジョンが作れてカスタマイズ出来るといったもの。そして作られたダンジョンを使ってそのダンジョンを攻略させるということを娯楽として楽しんでいたんだって。挑戦させられるのは魔術師の私兵だったり奴隷だったり魔術を使えなかったりする人たちだった。二人の魔術師がお互いのダンジョンを私兵に奴隷や傭兵を使って攻略させ合い、そのさまを見て楽しんだというわけだ。全滅したら負け、最奥にいるダンジョンボスを倒せたら勝ちという具合に競い合っていた。現在存在するダンジョンはそれの名残だと言っていた。


 ダンジョンで魔物を倒したらアイテムがドロップするのは、それの素材を使った魔物を作り出す媒体となっているからだし、宝箱に装備品が出てくるのはそういうルールの元で対戦をしていた機能が残ったままだかららしい。最初は無装備から始まり、宝箱や落ちている物を拾うことで装備を手に入れるって感じの、何処かの不思議なあれみたいなものなのでしょうね。そして装備や魔物が枯渇しない理由はダンジョン制作キットの制作者が天才だったと言って良いかもしれないね、言いたくないけど。一度魔物や装備品にポーションなどの薬品を登録しているとマナだけで劣化版をコピーできてしまうなんて不思議機能を発明しちゃったんだよね。


 後はダンジョンで死んだ人や装備を取り込み解析してコピー品を作り出す。劣化品と言っても今は亡き魔術帝国時代の魔法の装備やアイテムなので、今の時代では手軽に手に入るものでは無いので挑戦者は後を絶たない。といってもそういった良い装備は、上級と言われる広大なダンジョンに限られるらしいけどね。低級やら下級といわれるダンジョンだと鈍らみたいな装備しか出ないみたい。ダンジョンのキットに使われる魔石は、師匠でも仕組みが複雑すぎて匙を投げるほどの術式が掘られているとか。まあ、そのなんと言いますか、その製作者さんも実は魔女でして百年ほど前に師匠の家に訪ねてきた時はピンピンしていましたね。


 ちなみに、その魔女は男性なのだけど、自らを『世紀の発明家にして超絶魔導の申し子である美しき魔法使い』と自称してましたね。はっきり言ってこの男は変態である。見た目は金髪で顔もイケメンと言っていいし、引き締まった筋肉の持ち主だったけのだけど服装がね。マントを羽織ってはいたけど、そのマントの中身は褌一丁という格好だったのよね。最初見た時、たまたま手に持っていた杖をフルスイングしてふっとばしたのはいい思い出だね。ふっ飛ばされたのに「もっと!」なんて言ってきて正直ひいたわ。そんな変態は今もどこかで魔導具作りをしていることでしょうから、旅を続けていればそのうち遭遇することも有るかも知れないね、会いたくはないけど。

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