第49話 魔女、カモられる?

 何日ぶりかのお風呂に大満足です。流石に石鹸はなかったけど、代わりに泡の出る木の実が置いてあったり、綺麗な布が備え付けてあったりと今まで泊まった宿には無いサービスがあって高評価です。まあ自前の石鹸と洗髪剤でちゃんと体は洗いましたけどね。汚れを落としてスッキリした状態で長々とお風呂に入るのは何度やっても至福の時間だ。そしてお風呂上がりはキンキンに冷えた果実水で喉を潤す、最高の贅沢だよね。


「あーまだ晩ごはんまで時間があるけど、お風呂に入っちゃったしギルドは明日でいいかな」


 と思ったけど、寝る前にもう一回お風呂に入れば良いだけだった。部屋に備え付けられているということは、気兼ねなく何度でも入れるってことだよね。



 まあそんなわけで、やってまいりました冒険者ギルドです。ちなみにこの街の名前はガーラと言いまして、ガーラ子爵の領都となっている。ダーナの街の大体倍くらいの規模になるだろうか、そういうわけでかなり賑わっている。立地として北と南の辺境へ向かう分岐の街でもあり、ここから東へ馬車で半月ほど進むと王都にたどり着くのも街が大きい理由の一つだろう。そしてそれ以外にもこの街が賑わっている理由がある。その理由というのが、ここの周辺にはダンジョンがあるからなんだよね。情報源はアルバスさんとアデレートさんなんだけど、ダンジョンと聞くとなんだかワクワクするね。


 ちなみに、ダンジョンの魔物は剥ぎ取りなどをしなくても、倒せばその姿は消えて素材を落とすのだとか。師匠にとっては剥ぎ取れないことで手に入れたい素材が手にはいらないし、本物に比べると劣化品なのも気に入らないと言っていたかな。そりゃあね、普通なら眼球や牙に血などの素材が取れるはずなのに、牙しか落とさないとかだとなんだか損をした気分になるよね。そんなダンジョンだけど人気な理由はちゃんとある。ダンジョンの中には宝箱があったり、そこからはいい装備品や素材それにポーションなんかも出たりするからだ。後は解体をしなくても素材が手軽に手に入るのも人気の理由かな。


 師匠から言わせると、装備品やポーションは自分で作れば良いからというのも相まって余り興味をひかれなかったとか。その話を聞いたときは私もそりゃそうだって思ったものだけど、近くにダンジョンがあるってなると興味は湧くよね。ギルドに入るとギルドもダーナの街の倍くらいの規模のように見える。まだ日が暮れるまで時間は有るというのに既に隣接されている酒場ではそこかしこで酒盛りが始まっている。逆に掲示板あたりはほとんど人がいない。まあ時間も時間なので張られている依頼が殆どないからあたり前といえばあたり前だね。依頼を見てもこれといったものも見当たらないので空いている受付に行くことにする。


「すみません、ダンジョンについて聞きたいんですけどいいですか?」


 シルバーランクのカードを提示しながら受付の女性に声をかける。このシルバーのカードはダーナの街を出る前にアールヴから受け取ったものだったりする。別にランクなんて気にしないんだけど上がって困るものでもないから受け取っておいた。実際ギルドから情報を得たい時はシルバーだと手間が省けて助かってはいる。


「名前はエリーで年齢は17歳なのね、その歳でシルバーランクってすごいわね。この街は初めてでしょ、私はイーリスよろしくね」


「こちらこそよろしくお願いしますイーリスさん、私のことはエリーと呼んでください」


「かたいかたい、イーリスでいいわよ。それに敬語とか使わなくていいよ。えっとダンジョンについて知りたいんだっけ? どんなことが知りたいの?」


「わかったよイーリス、ダンジョンについては何でも良いから教えてほしいかな」


「うんうん、そんなエリーにお勧めの物があるよ」


 カウンターの下から手のひらより少し大き目の手帳みたいなものを取り出して差し出してくる。


「ここにダンジョンについての冊子があります、お値段はなんと銀貨1枚」


「買わせてもらうわ」


 銀貨1枚と冊子を交換してパラパラとめくってみる。ダンジョンの場所と最寄りの町までの地図がついていたり、ダンジョン内で出る魔物の情報なんかものっていてお買い得かも知れない。あとは注意事項や持っていった方がいい物一覧なんかもあって結構いい出来なんじゃないかな。


「ちなみにそれより詳しい物はここでも買えるし、ダンジョンに近い村のギルドでも買えるからね」


「へーそうなんだ、必要になったら買わせてもらうね」


「その時は是非私から買って頂戴」


「ノルマがあったりボーナスが出たりするの?」


「よくわかったわね、そうなのよ、今エリーが冊子を買ってくれたからボーナスは確実にもらえるわ」


 まんまと乗せられてしまったか、この初対面でのフレンドリーさも作戦ってことなのね。と思ったのだけど周りを見てみると、横の窓口にいた女性がイーリスを指さしながら(この子は天然よ)って口の動きだけで教えてくれた、このフレンドリーさは天然物だったのかー。周りの冒険者を見てみても、苦笑を浮かべながら仕方ないなって生暖かい目でイーリスを見てる人が多い感じかな。まあ、冊子や地図を売ったらボーナスがもらえるとか普通冒険者にばらさないよね。こんな感じだからイーリスってこのギルドではマスコット的な子なのかも知れないね。

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