第46話 魔女、ニーナに気づかれる

 さてと、あとはアールヴに挨拶を済ませて終わりかな。ギルドに入りまずはガラさんとダンさんに別れの挨拶を済ませる。反応はと言うと「またこいよ」という簡単なものだった。受付には丁度交代の人が来て空いていたサーラとミランダさんにアールヴのところへ案内してもらいながら別れの挨拶を済ましておく。お互いお元気でとお別れを済ませる。ギルドという所は人の入れ替わりも激しいので別れの挨拶もこんなものらしい。ノックをして入室を促す返事を聞いて部屋に入る。今日はそろそろ上がりなのかくつろいでいるようだ。


「こんばんはエリーさん、今日はどうしましたか?」


「こんばんはアールヴ、明日この街を出ようと思ってね、別れの挨拶をしに来たんだよ」


「また急ですね、その感じですとセイレーンの涙は役に立ったようですね」


「まあね、それに関連してだけど、私の弟子のニーナちゃんとアデラのことお願いしてもいいかな?」


「エリーさんって思いの外過保護ですよね、弟子に甘いと言いますか」


「あはは、前にも同じこと言われたけど自分でもびっくりだよ」


「わかりました、気にかけておきます」


「お願いね、一応連絡用の魔石を渡しておくから何かあれば連絡してね」


 アールヴに魔石を渡して席を立つ。


「それじゃあ元気でね、ちゃんと師匠の所に顔出すんだよ」


「うぐ、暇ができましたら行きます。エリーさんの旅が良き旅になることを願っております」


 まあアールヴが師匠のもとに行かなくてもそのうち師匠の方から訪ねてくるだろうね、その時になって焦ってもしーらないっと。一通り別れを済ませたので、当分の間の食事として屋台で食事を買い漁る。大体どの屋台のものも食べたことがあるので、気に入っているものを中心に買っていく。ある程度買ったら物陰で収納ポシェットに放り込んで、また買って放り込むを繰り返していると一ヶ月分くらいの食事が確保できた。これで旅の間の食事は十分かな。寝るにはまだ早いのでそのままぶらぶらと街を歩く。ダーナの街に来てから数ヶ月しか経っていないけど、師匠の所で過ごした代わり映えのない日々に比べると忙しくも楽しい毎日だった。別に師匠との暮らしが嫌だったって意味じゃないからね。


「さてとそろそろ戻って寝ましょうかね」


 のんびりと歩きながら家へ向かう。満月と満天の星のお陰で道は明るい。家が見える場所についた所で2階に灯りがついているのが見えた。あーこれはニーナちゃんにバレてしまったのかな。


 家に入り鍵を閉め、その足で2階に上がるとそこにはニーナちゃんがソファーに寝転んでいた。もしかして待っている内に寝ちゃったのかな。体を揺すると目を覚ましたようで、あくびをしながら起き上がる。


「ニーナちゃんこんな所で寝てたら風邪引いちゃうよ」


「……師匠、ここから出ていくんですか?」


「あー、うんまあね」


「ぃゃ……」


「ニーナちゃんなにか言った?」


「いやです、出ていくなんていやです、もっともっと一緒にいたいです、もっともっと色々教えてほしいです、だからだから……」


 きっとこうなるだろうとは思っていた、だから別れを言わずに出ていくつもりだった。この感じだと誰かに聞いたとかでは無さそうだけど、この子は色々と優秀だから、周りの反応をみて気づいちゃったんだろうね。


「そうだ、外から帰ってきたばかりだから汗かいちゃってるのよね、ニーナちゃんも一緒にお風呂はいらない?」


「えっ、でも」


「ほらほら行くよ、着替えはアーシアさんに用意してもらおうね」


 まだ鍵を受け取ってないはずだからどうやって家に入ってきたのだろうかと思ったけど、裏口の鍵閉めてなかったわ。その事を裏口についてから気がついた。お風呂のお湯をニーナちゃんに見てもらっておいて、宿の方の裏口から中に入りアーシアさんにニーナちゃんの着替えを用意してもらう。その時に済まなそうに、バレてしまったみたいと言ってきたので気にしなくていいですよと返しておく、その代わり暫く二人にしてもらうことにした。


「ニーナちゃんお待たせ、ほらほら服脱いで背中流してあげるから座って」


 無言で服を脱いでかけ湯をして、こちらに背を向けて備え付けの椅子に座る。石鹸をタオルで泡立てて背中を優しく撫でるように洗っていく。


「この石鹸覚えてる? ニーナちゃんとアデラが一緒に作ったものなんだよ」


「……はい」


「錬金術と違って薬学は勝手が違って難しかったでしょ」


「はい」


「ほら錬金術って薬学とちがって、バーっとしてジャーとしてグワーとしたら出来るじゃない」


「ふふふ、なんですかそれはそんなのじゃできないですよ」


「あれ? 言ってなかったかな、錬金術は意外とそれでなんとかなるものだよ、もし困ったことがあったら試してみなさい」


「えっと冗談ではなくて本当ですか?」


「本当だよ、10回に1回は爆発するけどね」


「やめておきます、絶対にやりませんから」


 よしっと、背中はこんなものでいいかな。


「はい背中は終わり、前は自分で洗ってね、続いて髪洗うね」


 石鹸とタオルを渡して背中にお湯をかけて泡をながす。髪にお湯をかけて洗髪剤で泡立てる。きれいな髪だから丁寧に洗っていく。前も洗い終わったのを見はからってひと声かけてお湯を頭から何度かかけて泡を洗い流す。先にお風呂は入っててという前に「かわります」と言ってくれたので背中を洗ってもらう。


「はっきり言っちゃうとね、錬金術の才能は私よりニーナちゃんのほうがあるんだよね。私がニーナちゃんと同じ事ができるようになるのに1年以上掛かったんだよ。だけどニーナちゃんは習い始めて数ヶ月しかたってないのにすごいよね」


「それはきっと師匠の教え方が良かったからです」


「あはは、そうだったら良いのだけどね。ニーナちゃんには前にも言ったと思うけど、私の師匠は魔の森の魔女なんだよ、私の師匠の教え方は私よりもずっと良かったと思うよ」


「魔女の弟子なのは前に聞きました、それでも師匠だからわたしはここまで出来るようになったんです、だから……」


 背中を洗っていた動きが止まったので、タオルを受け取り前を自分で洗う。代わりにニーナちゃんが髪を洗ってくれている。


「師匠、洗いにくいので少し止まってください」


「はーい」


 ニーナちゃんが髪を洗い終わるのを待つと、お湯が頭の上から何回か振ってくる。


「ニーナちゃん先にお湯に浸かっていていいよ」


 ニーナちゃんが返事をして湯船に浸かるのを見てから体を洗い終えて泡をお湯で流してからニーナちゃんの横に並ぶようにお湯に浸かる。

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