第45話 魔女、別れを切り出す

 二人の世界から戻ってきた大将とアーシアさん、そしてアデラと一緒に晩ごはんを食べる。ニーナちゃんは起こすのは可哀想ということで寝かせたままだ。


「それでね、私明日にはこの街を出ようと思ってます」


「おいエリー急にどうした」


「そうですよエリーさん、せっかく家も買ったのにどうされたのですか?」


「エリーの姉御この街から出ていくんですか?」


「まあそうなんだけどね、この街に来てから結構長居しちゃったから。本当はこの国や周辺の国の情報を手に入れるだけのつもりだったんだよ。それから色々あってニーナちゃんとアデラを弟子にしたわけだけど、その時点でニーナちゃんがアーシアさんの薬を作り終わったら旅を再開しようと考えてたんですよね」


「それにしても急だな、まあエリーが決めたことならそれでいいが家はどうするんだ?」


 ポシェットから鍵と私の作った本を2冊と背負いカバンを取り出す。本は結構な分厚さがあって鈍器としても使えそうなほどだ。


「はい、これ家の鍵のスペアね、ニーナちゃんに渡してあげて。2階の錬金鍋は置いていくからニーナちゃんの好きにしていいって言っておいて。その代わり私がいつ戻ってきても良いように掃除だけしておいてくれればいいよ」


「そこまで考えていたのなら引き止めても無駄だな」


「それとこれもニーナちゃんに渡してあげて、錬金術のレシピをまとめたものだから、中にはまだ今のニーナちゃんには作れないものもあったり、素材が手に入りにくいのもあるから無理はしないように言っておいて」


「そうですか、それではお預かりしますね、これを今私達に預けるということはニーナに挨拶はしないで行くおつもりですか?」


「直接渡すとなんだか泣かれそうな気がして、なので挨拶とは別に私が出ていってから鍵と一緒に渡してあげてください」


「確かにニーナなら全力でエリーさんを引き止めそうですね、かなり懐いてましたから」


「あはは、引き止めてくれるかなー、かなり無茶振りしてた自覚はありますからね。それとこっちはアデラに、薬学書を作っておいたから活用してね。背負カバンのほうは収納の術式を付与しているから見た目よりいっぱい入るよ、限界はあるからその辺りは自分で調べてね」


「こんな、いいんですかエリーの姉御」


「いいからいいから、あなたも私の弟子の一人だからね」


「ありがとう、ございます」


 ずっと我慢していたのか頭を下げたタイミングで泣き始めたのがわかった。


「ほら泣かないの、別に今生の別れってわけじゃないんだからね」


「はい、はい」


「あともし大将達に手が負えないことが起きたら、ギルドマスターのアールヴに言ってください、彼なら大抵の事はなんとかしてくれるでしょうから」


「わかった、何から何まですまんな」


 食事も終わったので席を立つ。


「ごちそうさま、それじゃあちょっとあいさつ回りしてきますね、明日は早く出るつもりなので朝食はいらないので」


「そうか、寂しくなるな」


「エリーさん、この数ヶ月ニーナともどもありがとうございました」


「エリーの姉御、絶対に会いに来てくださいね」


「それじゃあ、大将にアーシアさんお世話になりました、アデラもまたね今度会う時には立派な冒険者か薬師になっていることを願っているよ」


 私はそのまま宿を出て家に寄らずに北門へ向かう。明日は門が開くとともに出ていくつもりなので今のうちに一通りあいさつ回りをしておく。北門にいたジョシュ兵長をはじめ、ギースや他の門兵に明日この街を離れる事を伝えて別れを済ませた。続いてケンヤの所へ向かい、同じく明日この街を離れることを伝えた。お土産として調味料一式とカレー粉を追加でもらった。代わりに私に直接連絡が出来る使い捨ての魔石を渡しておいたので何かあれば連絡をしてくれるでしょう。


「エリーさんの旅が実りあるものになることを願っています」


「ケンヤも元気でね、近くに来た時は寄らせてもらうよ」


「ちなみに次の目的地など決めてますか?」


「とりあえず王都観光かな?」


「そうですか、それではこちらを持って行ってください、貴族に絡まれたときなど好きに使ってください。あと王都には私のひ孫がいます連絡だけしておきますので気が向いたら会ってあげてください」


 ケンヤは紋章の掘られた大金貨ほどのメダルを取り出し渡してくれた。


「これは?」


「我がダーナ家が身元を保証するというものです、この国とほかいくつかの国では役に立つと思います」


「まあ使うつもりはないけど一応預かっておくよ」


「是非そうしてください」


「あとは、挨拶できそうにないから図書館のマリアさんとナーシャさんに挨拶行けなくてごめんって言っておいて貰えるかな」


「やはり気づいてましたか」


「まあね、本人たちは自覚していなさそうだけどなんとなくね」


 なんとなくだけど、あの二人を経由して私の情報が流れていたんだと思う。


「わかりました、伝えておきます」


「それじゃあまたねケンヤ、元気でね」


「ええ、エリーさんもお元気で」


 握手を交わして別れを済ませる。この街での一番の収穫はケンヤと出会えたことだろうね、いや決して醤油やお味噌を手に入れることができたからじゃないからね。

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