第36話 魔女、アールヴと語る

 私はどうやら2日ほど寝ていたようだ、4徹に続いてあの獣人の少女との戦いで自分が思っていたよりも消耗していたみたい。起きた頃には街中がお祭り騒ぎの真っ只中だった。そこかしこで無料の食事やお酒が提供されている。私が寝ている間に、素材の剥ぎ取りが大急ぎで進められ、素材はギルドがまとめて買取をしてランクなど関係なしに、売却されたお金は均等に配られることになった。つまりは孤児のウッドランク冒険者にも配られている。意外と反発は全くなかったみたい。理由としては孤児たちがポーションの運搬をしたり、炊き出しに参加したりと雑用をしていたのが理由らしい。


 その孤児から渡されたポーションで一命をとりとめた冒険者や貴族がいたのも大きかったのかも知れないね。ウッドランクの子達が手にしたお金の金額は彼らが一年はゆうに過ごせるくらいの金額だった事で、希望者はギルドに預ける事が出来るようにしたようで結果としてほぼ全員が預ける結果になったとのことだ。私もそれ相応の金額を頂いた。


 ギルドが買い取った素材なんだけど、冒険者には買い取った時の値段で売られ、今回の戦闘で装備が駄目になってたり、現在の装備よりいい装備を手に入れるために使うようだ。そして貴族も素材の素材の買い取りをしているのだけど、装備品としてではなく装飾品として買い取ったりしているみたいだ。中には普段魔の森の奥地に住み着いている魔物の素材などもあったりして、そういう素材はギルド主導でオークションが開かれる流れになっている。



 サーラが私とアールヴの紅茶を置いて部屋を出ていったのを確認して話を始める。


「それでアールヴは何が聞きたいのかな?」


「そうですね、まずは火龍についてでしょうか」


「火龍なら暫くは火龍山で大人しくしていると思うよ、あとは不用意に近づかないほうが良いとだけ言っておくよ」


「そもそも、この街から火龍山へ行ける人はいないと思いますけどね」


「あはは、それもそうだね」


「つまり火龍が言ったように、火龍山を荒らしたものがいたのですね」


 私は頷いてから収納ポシェットから魔結晶を取り出してテーブルに置く。


「ねえアールヴはこれって知ってる?」


「これは……、魔石ですか? このような魔石は見たことはないですね」


「よくわかったわね、そうこれは魔石を加工したものよ、魔結晶と呼ばれているわ」


「加工ですか、なにか意味はあるのでしょうか」


「アールヴは魔石ってなんだか知っているよね」


「魔物の心臓ではないのですか? あとはどうやって作られたかわかりませんが巨大な魔石が発見されたりもしていますね、それを考えると魔物の心臓だと考えるのはおかしい気もしますが」


「だいたい一般的な認識としてはそんなもんだね、あとは知っての通り魔力を貯める効果がある、ちなみに魔石の巨大化ってこうするんだよ」


 収納ポシェットから小さな魔石を何個か取り出し掌に乗せる。魔法で魔石を浮かせてそこに新たに魔法を使い粉状に削っていく。粉状になった魔石に魔力を流すと粉状の魔石が一つの塊となり新しい魔石が出来上がった。


「意外と簡単でしょ」


 その魔石をアールヴにぽいっと投げると慌てて受け取った。


「すごい、ですね」


「今回は魔法で削ったけど、やろうと思えば魔法を使わなくても出来るからね、最後に魔力を流して固めれば出来上がりだよ。表には出ていないと思うけど、知っている国や組織はあると思うよ」


 魔石を返してもらって収納ポシェットに仕舞っておく。


「わかってしまえば簡単なのですね」


「まあね、そういう訳でこの魔結晶は一度魔石を削り、この形に成形し直したものってことだよ」


「大きい魔石なら魔力を入れる容量が増えるのは分かりますが、そのように小さい魔石、えっと魔結晶ですかそれになにか意味はあるのでしょうか?」


「そう、そこが今回話したかった事になるのだけど、この魔結晶はね砕いた魔石を成形する時にひと手間加えられたものなんだよ」


「そのひと手間とは何でしょうか」


「悪意……とでも言えば良いのかな、意思なき魔物の一部を混ぜ込むんだよ。よく使われるのは死霊系やゴーレム系だね。そしてこの魔結晶を人の体内に埋め込むことにより埋め込まれた部分を支配することが出来るんだよ」


「それは恐ろしいですね、邪法とでも言えば良いのでしょうか」


「そうとも限らないけどね、この技術は錬金術が未発達の時代に身体に障害がある人に埋め込むことで、魔結晶と義足や義肢を紐づけさせて動かす目的で作られたものなんだよ。元々は医療技術の一つとして生み出されたものだからね」


「それだけを聞くと良い技術のようにも聞こえますね」


「何事にも表と裏があるってことだよ、今回は悪意を持って使われた事になるからね。この魔結晶はある獣人の少女の額の奥に埋め込まれていてね、そして施術した人物は埋め込むために開いた穴を埋めるように魔石で蓋をしていた」


「つまりは頭に埋め込むことにより、その獣人の少女を操っていたということでしょうか、なんて酷いことを……」


 アールヴの瞳に怒りの感情が揺れている。


「どこまで意のままに出来るかは分からないけど、あの感じだと命令されたことを実行するゴーレムという感じかな。身体的なリミットも外れていたようだから、最初から使い捨てだったのかも知れないね」


「それにしても獣人ですか、この大陸に獣人の国や集落はなかったと思うのですが、ただ迷い込んだものか、連れ去られてきたものか。それ以外ですと魔の森の反対側で何かがあったのかも知れませんね」


「その辺りの大陸事情とかお国事情は私にはさっぱりだからね、ただこの辺りには獣人はいないというのは聞いていたから、見てびっくりはしたね」


「獣人に関しては私の方で調べてみようと思います、といっても魔の森のあちら側となると時間はかかりますが」


「そっちは任せるよ、私はこっちの魔結晶の方を調べてみるから、何かわかったら教えるね」


「お願いします」


「深くは関わるつもりはないから、そこだけは理解しておいてね。まあ今でも十分関わり過ぎではあるけどね」


 テーブルの上の魔結晶を収納ポシェットに入れ、とっくに温くなった紅茶を飲み干し席を立つ。


「それじゃあね」


「まだダーナの街の祭りは続くようですから楽しんでください」


「アールヴの方こそちゃんと休みは取りなさいよ、そうだ良いものあげるよ」


 収納ポシェットから小瓶を2つ取り出すとアールヴに向かって投げる。それをアールヴは危なげなく受け取った。


「これは?」


「いわゆるエリクサーってやつだね、それ必要だったのでしょ? 頑張っているアールヴへのプレゼント、どう使うかは好きにしなさい」


 そう、エリクサーだ、決してエリー草ではないですよ。エリクサーと聞いてフリーズしているアールヴに言うことだけ言ってさっさと部屋を出て扉を閉める。後ろから「エリーさん!」という声が聞こえた気がするが振り返ることなくそのまま階段を降りる。閑古鳥の鳴いているギルド内にはミランダさんとサーラがいたので挨拶だけ交わしてギルドの外へ向かう。さてと今日くらいは祭りを楽しもうかな、お肉の焼けるいい匂いに誘われて私は人混みに紛れてるように歩き出す。

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