第37話 魔女、指導する

 ダーナの街の祭りは7日間続いた。その間に出された食事やお酒は領主が全て提供するという事で無料で振舞われていた。そして祭りが終わる頃には街から避難していた住人も戻り始め、周辺の街からも商人が集まってきて商売を始めている。流石に王都方面に向かった人たちは戻ってきていないけど、それもしばらくしたら戻ってくるかも知れない。早馬が王都まで走っているので、遅くても一週間以内には顛末が報告されるんじゃないかな。


 祭りも終わり町の人々は日常へ戻っている一方で冒険者はというと、討伐系の依頼がない状態が続いている。今回のスタンピードで普通の森から魔物がいなくなっているせいみたいだ。一方魔の森も浅層は魔物が激減していて、魔物狩りをするならそこそこ奥まで行かないといけないようになっているとか。そういう訳で、今日の私は錬金術の師匠としてニーナちゃんとアデラを連れて魔の森に行くことになっている。


 ニーナちゃんの実力も今回ポーションを作りまくったおかげで、上級の実力を備えるまでとなっている。といっても自分で採集ができる必要もあるので、今更ながら採集を指導することにした。スタンピードのせいで魔物の生態系が狂って、元に戻るまでは暫く時間が必要だから今のうちに魔の森にある素材のアレコレを教えるのには最適だと思っている。今回の採集には、いつの間にかニーナちゃんと仲良くなっていたアデラも付いてくることになった。


 アデラは今回の報酬で装備一式を揃えたようで、いっぱしのブロンズ冒険者に見えるようになっている。それと他の孤児なんだけど、今回の孤児の活躍を知った領主が孤児たちの宿泊場所と職業訓練を兼ねた施設を建てる事にしたようで、全員そこに引き取られる流れとなった。強制ではないので入らない子たちもいるとは思うけど、いくつかのグループがまとまることによって色々都合は良くなるんじゃないかな。


「それじゃあ大将、ニーナちゃん借りていきますね」


「おうニーナの事頼む、ニーナもちゃんとエリーの言うことを聞くんだぞ」


「はーい、それじゃあパパ、ママ行ってきます」


 今のニーナちゃんの服装は、シルクスパイダーの糸を使った緑色のローブとエルダートレントの枝を削って作られた杖を持っている、どちらも私が作ったものでそれがそれとして見えないように加工している、ちなみにニーナちゃんや大将にはなんの素材で作ったかは教えてない。驚くことにニーナちゃんは目だけではなく魔術の才能も大将から引き継いでいるようで今は初級の魔術を習っている途中でもある。宿の外へ向かっていくニーナちゃんに向けて、アーシアさんが手を降って送り出す。


「アデラお待たせ」


「今来たところだから気にすんな、エリーの姉御おはようございます、今日はよろしくお願いします、ニーナも今日はよろしくな」


「アデラもよろしくね」


 北門前に着くと既にアデラが待っていた。その出で立ちは前のボロボロのローブから様変わりして魔物の素材を使った革鎧と革のブーツと革の帽子を被っていて、腰には少し幅広のナイフを挿している。挨拶を交わしながら門が開くのを待つ。北へ向かう商人は元からいないので、待っているのは殆ど冒険者だ、それもブロンズより下が多い。


「ジョシュ兵長それとギースさんおはようございます」


「エリーちゃんおはよう、今日は引率かい? 魔物は減っているみたいだけど気をつけるんだぞ」


 門が開いて通り抜ける時に、ジョシュ兵長とギースさんを見つけたので声をかけ、軽く挨拶を交わして通り抜ける。


「よしそれじゃあまずは近くの森から見て回るよ、ニーナちゃんもアデラも気になることがあったらちゃんと聞くんだよ」


「分かりました師匠」


「分かりましたエリーの姉御」


「よろしい、それじゃあ森に入るから周りの警戒も忘れずにね」


 森の入口の方はだいたい素材は取り尽くされているので、奥へ奥へと進んでいく。途中見つけた薬草やハーブなどの素材の採取方法や、薬草に似た毒草などの見分け方を解説しながら奥へ進んでいく。通常の森が途切れて魔の森との境界へたどり着いた所で、お昼にちょうどいいので休憩をすることにした。


「そろそろお昼にしましょうか、ちょっとまってね今準備をするから」


 収納ポシェットから敷物を取り出して、その上にテーブルと椅子を3つ取り出して並べる。テーブルの上に大将が作ったお弁当を並べて、魔導ポットでお湯を沸かして紅茶を人数分入れる。


「用意できたよー、ん? どうしたの二人共」


 なんだか困惑した顔で二人は並んで立っている。


「師匠、これってなんですか」


「何ってお昼ごはんだよ、ほらほら座って食べよ」


 ニーナちゃんとアデラが視線を交わし諦めたようなため息をついてテーブルへ着く。


「はい、それではそれぞれの神に祈りを」


 祈る真似をして心の中でいただきますと言って目を開ける。同じようなタイミングで二人も祈りを終えたのでお昼を食べ始める。


「大将のご飯は美味しいね」


「エリーの姉御もニーナもいつもこんなうまいの食べられて羨ましいですね」


「そう? ならアデラもニーナちゃんの宿に来たら良いんじゃない? アデラは訓練所が出来ても入るつもりないんでしょ」


「あーですね、訓練所が出来るなら、下の連中は大丈夫でしょうからね、わたしもそろそろお役御免って事で独り立ちするつもりではいました」


「大将の宿は今空きがあるし、アデラならニーナちゃんと組んで採集とかすると良いと思うんだけどね」


「アデラが来てくれるとわたしも嬉しいな、パパにはわたしからもお願いしてみるよ」


「少しだけ考えさせてください、訓練所が出来るまでもう暫くありますしそれまでに決めます」


 ちなみに、現在孤児は領主が提供している大きめの家で共同生活をしている。家の持ち主が街を逃げ出す時に安値で売りに出された家がかなりあるようで、その一部を領主が買い取って提供している。訓練所もそういった家がまとまっている地域を更地にして建て始めている。そういった訳で、街を逃げ出した人はダーナの街に戻ってくることは無いだろうけど、仮に戻ってきても元の場所には戻れないだろうね。まあ自業自得ってやつだ。


「さてと、お昼も済んだし続いて魔の森の方に入るよ、今まで以上に警戒するように」


 洗い物やテーブルと椅子を収納ポシェットに仕舞って魔の森へ入る準備を整える。魔の森の浅層は今のところ魔物は戻ってきていないので比較的安全だけど、色々と注意することはあるからね。一歩魔の森に入っただけで何かを感じたのか、気を引き締め直した二人は真剣な表情をしている。うんうんいい傾向だね、今日は魔の森のこの雰囲気だけでも感じられたのなら上出来だよ。


「さてと軽く回って今日は戻るからね、魔の森の雰囲気に飲まれないようにね」


「「はい」」


 この日は1時間ほど魔の森を探索して帰路についた、ニーナちゃんとアデラは帰り着く頃には疲れ切っていたようなので、宿に戻ってから半分寝ている二人をお風呂に連れ込んできれいきれいしてあげました。

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