第33話 魔女、興味を持つ

 再び戦いに目をやれば、意外や意外かなり善戦している。先程までは手加減をしていたとでもいうように、前領主であるケンヤ・ダーナは空を自由に駆け回っている。最初に持っていた武器はいつの間にか幅広の片刃の大剣へと変化しており、少なからず炎龍の鱗を削っている。一方アールヴは牽制に従事しているようで執拗に炎龍の顔に向けて目眩ましを中心とした魔法を使っている。残念なことに地上に残った人たちは何も出来ずに回復に専念しながら見守ることしか出来ないでいるようだ。


 炎龍はまとわりつくケンヤが邪魔だというように腕や翼に尻尾で振り払おうとするが、その度にアールヴに邪魔され少し苛立ちを顕にしている。見た感じ完全に攻撃力不足だよね、元々炎龍を相手にするための装備では無いだろうし。暫くはお互い致命傷となる攻撃を受けることなく硬直状態だったのだけど、少しずつだけどケンヤの攻撃が心なしか鱗を削る深さが増して言ってるように見える、炎龍自信はまだ気づいていないようだけど、攻撃の角度次第では鱗を貫けるんじゃないかな。どうやらケンヤが持つ武器はなんらかの条件をクリアしていくことで威力が増すように施された魔剣の類みたいだね、少しずつ少しずつその形を変えている。そしてその時がやってきた。ケンヤの武器が光るとともにその形を再び変えた時、ついに炎龍の鱗を切り裂きその内にある肉にまで達したようだ。


『ぐぎぁ』


 炎龍はその痛みにより叫び声を上げるが、矜持によるものかその叫びは小さかった。それを好機と見たかケンヤが再び死角から攻撃をしようとした所で何かを察したようで一気に距離を取り離れる、アールヴも危険を感じたのかそれに習うように後退をする。


 炎龍がまとっている炎がその温度を増したようで赤かった炎は蒼炎へと変わり、ケンヤに傷つけられていた鱗はそれと同時に再生をすませて、鱗の色さえも青色に変わっていた。よくあるラスボスの変身と思ってもらえばいいだろうか、通称として蒼炎龍と呼ばれる存在となっている。大きさは炎龍の時よりも小さくなったように見えるが、見た目で分かる通りまとっている炎の温度は上がっている。ちなみに変身はもう一段階あるからまさにラスボスの様相を呈してるわけだね。それにしても龍の試練にしてはやりすぎじゃないかなー、元々の目的忘れてるんじゃない?


『クハハハハハ、よもやここまでやるとはの、そこな面白き武器を持つ者よ、ちと痛かったがの我が鱗を切り裂いたこと誇るが良い、されど今度はどうかの』


 そう言って蒼炎龍は先程よりも小さくなった体によるものか、高速でケンヤに攻撃を行っていた。なんとか手に持つ武器で防げたようだけど、どうやら防具まではその炎を防げなかったようで地上に降り立つことになった。アールヴもなんとか隙を付いて地上へ降りて一息付いている。それを見た蒼炎龍も地上へ降り立った。


『蒼炎龍どの、我々としましてはそろそろ限界なのですが、まだ試練をお続けになるつもりでしょうか?』


『ふ、む……試練?』


 あっ、あの駄龍完全に試練の事忘れてるわ、ちょっとこれはお仕置きが必要かな。


『おぉーおぉー、試練じゃな、ふむ良かろう、お主らの奮闘を称えて龍の試練は終了といたそう!』


 私から漏れた気配でこちらの事を思い出したのかのように早口でまくし立て始める。蒼炎龍の姿から炎竜へと戻り、まとっていた炎は消え去りその姿は火龍の姿に戻った。


『我が試練を乗り越えてみせた小さきものよ、そなたらの奮戦を称えようぞ』


 火龍からは先程とは打って変わって神聖な気配が発せられる。それが場に満ちるとともに自然とそこに集まっている人たちが地に膝をつき頭をたれ始める。ちなみに私は普通に座ったままだったりする。


『ふむ、其処な我と戦いし者共よ、我と対する事を許すもう少し近くへ寄るが良い』


 膝を付いていたアールヴの通訳に従い、戦っていた面々が立ち上がり火龍へある程度近づいた所で片膝を付いて火龍を見上げる姿勢をする。


『此度は見事我が試練を超えてみせたそなたらに、フレイム・ドゥ・ドラグニスの名の元に加護を授けよう』


 そう言うと火龍の手のひらに炎が灯る。それを一度握り込み再び開いた手を一振りすると赤い粒子がアールヴ達に降り注がれる。今のが火龍の加護というものだね、あれを授かると火に対する親和性が上がる。その事により火に関する魔法や魔術を使う時には必要魔力が大幅に抑えられて制御も楽になる。あとは火の耐性を得られる、どの程度のものかと言うと火に手を入れても火傷一つ追わない感じだね。


『そしてこれは此度の戦いを見守っていた火神様からの褒美じゃ』


 そう言うとどこからともなく火龍の周りに赤い宝石の嵌められた指輪が10個現れた。指輪はそれぞれの前に受け取れと主張するように移動して浮き上がっている。それを恐る恐る受け取る面々を見て火龍が語る。


『それは火神様の祝福じゃな、火神様の眷属たる我と戦い我が鱗を切り裂いた事を火神様はたいそう気に入ったようじゃ、ありがたく受け取るが良い』


 それを受け取ったタルドは指輪を指に通して号泣している。タルドって確か火神の神官だったよね。信仰する神からの祝福を授かって感激しちゃったんだろうね。ちなみに私は神の祝福は授かっておりませんのでどういう効果があるかは知らないです。


『そしてこれは此度の詫びとして渡そう、すまぬの我が領域を騒がせた者がお主らではない事は其処のエルフより聞いた。そしてそれは真実であろう、故にこれを受け取ることで手打ちとしてもらいたい』


 火龍の後ろに地響きとともに大きな鱗が2枚置かれる。


『それでは我は我が領域へ戻るとする、これにて龍の試練を終了といたす』


 そう言うと火龍は翼を広げると空へと浮かぶ。いつの間にか周りに広がっていた神聖な気配は消え去っていた。


『さらばじゃ』


 そう言って逃げるように飛び去って行った、龍らしいっちゃ龍らしいね、こちらの話全く聞く気はなくただ一方的に言うことだけ言って去っていくのだから。そもそも龍語で話しても理解できてるのってアールヴくらいしかいないと思うんだけどね。通訳と後の対処はアールヴが勝手にするでしょ。火龍が去ったことで今回のスタンピードが終わったのを実感したのか、最初は静かだった街壁の上は歓声で溢れかえっている。


 私は大将に一言この場を離れると言った後に、誰にも見つからないようそっと姿を消して火龍を追いかけることにした。火龍はまだ気づいていないようだけど、どうやら火龍山の方で動きがあったようだね、何が目的なのか気になるし、なんてったって面白そうだからね、ちょっとお邪魔しようかな。

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