第31話 魔女、ポップコーンを食べる

 目の前には火龍の氷の彫像が鎮座している、街壁の上はお祭り騒ぎのように騒がしい。戦いの場ではみんな氷に覆われている場所から離れて座り込んでいる。


アールヴがこちらを見てきたので首を振っておく。それを見てアールヴは慌てたように座り込んでいる人たちに、まだ戦いは終わっていないと伝えているようだ。


 火神の眷属を名乗る火龍がそんな簡単に終わるわけはないよ。ピシリピシリと火龍の氷の彫像から音が響いてくる。さっきまで騒がしかった場が静まり返る。見ていると凍っていた地面が解けて水となっている。一瞬氷の彫像が震えたと思えば一気に氷が吹き飛び水となり蒸発して辺りを白く染める。


『ぐははははは、面白い面白いぞ小さき者よ、だがまだ足りぬ』


 火龍の体を覆っていた炎は今では翼をも包み込んでいる。大丈夫だと思うけど念のため魔法で大将とアーシアさんに結界を張っておく。




side グラシス


 先程まで氷像となっていた火龍が全身に炎を纏いながら吠えている。俺には火龍の言葉はわからないので何を言っているのかは分からないが、戦いはまだ続くと言うことはわかる。それにしてもどうしてこうなったのだろうか。仲間とともに景気よく魔物をふっ飛ばしていたのだが、気がつけば周りからは生きている魔物がいなくなっていた。その様子を見てスタンピードが終わったのだと思ったのだが、実際はそうではなかった。


 突如ギルマスが現れたと思うと、空から火龍が降り立ってきた。さすがの俺達も今いる冒険者や貴族が総出で戦っても勝てないのが肌で感じた。ギルマスが火龍と会話しているのを見ながら、大人しく帰ってくれないかなと思ったのだが俺の願いはかなわなかった、というかむしろ悪い方向に進んだ気がした。火龍との会話を終わらせたギルマスの指名で俺たちパーティー黒鉄の金獅子は火龍と戦うことになった。とりあえず断る口実で報酬をふっかけたのだが、言い値を払うとか言われては引くに引けなくなった。


 俺たち以外には、領主様と前領主様に何故かメイドが3人、そしてギルマスが加わったメンツでこの火龍と戦わないと駄目らしい。俺たちが集められたのとは反対に、他の冒険者や貴族連中は離れるように言われこの場所から追い出され街壁の上からこちらを見ている。


「なあギルマスよ結局なんで俺たちはあんなのと戦わないといけないんだ?」


「そうよ、流石に火龍なんて戦ったことはないわよ、それにあんなのに勝てるなら未だにゴールドで留まっていないわよ」


 アナベラの言う通りだ、火龍の成体を倒せるのならパーティーでも最低プラチナだろうし、ソロともなればミスリルも確実だろう。


「ねー、まだ魔術師のナベっちや神官のタルタルなら分かるけど、斥候のあーしは役にたたないんでなーの?」


 小人族のシャララの言いたいことは分かる、だがお前も俺のパーティーメンバーだからな、既に逃げられないようにアナベラとタルドに両腕を掴まれている。


「おいシャララ、一人だけ逃げようったってそうは行かんぞ、正直ワシも逃げたいわ」


 シャララの腕を掴みながらタルドは諦めの表情を浮かべている。


「なんと言いますか、火龍殿のご指名でありまして、ご領主様もそうですが暴れすぎたのかも知れませんね、それにこれはただの戦いではなく龍の試練となるようですね」


「龍の試練だ? なんだそりゃ」


「ねえグラシス、私聞いたことあるわ」


「龍の試練ってやつをか?」


「ええそうよ、高位の龍は気にいった者に試練を課すと言われているのよ、その試練を突破した者には恩恵が授けられると言われているわね」


「恩恵ね……、それでギルマスそこんところどうなんだ?」


「恩恵はありますよ、私は授かっていませんが知り合いに何人か授かっている方がいますからね」


 おいギルマスよ、そこで死んだような目をするのは何なんだよ不安しかないんだが、まあいい何がしかの恩恵を貰えるならやってやろうじゃねーか。ギルマスは領主様方との会話を終えて今は火龍と再び会話をしている。


「ここまで来たら逃げられねー、だから本気で行くぞ」


「ふふ仕方ないわね」


「にはは仕方なーの、あーしも付き合ってやるかなーの」


「火神の神官として逃げる選択肢は無いからの」


 俺はいい仲間を持ったもんだな、火龍だろうが目にもの見せてやる。と、戦う前は思っていたんだがな、全然攻撃が通らねーし、魔法はいなされるしで散々な目にあった、あれでも手加減されてるってヤバいな。なんとか時間を稼ぎ魔術で凍らせたのだがその結果が目の前の状況だ。さて、どうしたものかね。



「おいエリーあれは大丈夫なのか?」


「大将お帰り、こっちに関しては魔法で守っているから大丈夫だよ」


 貴族が集まっている所に行っていた大将が戻ってきた。今のところ邪魔をする人はいないから大将の警告はちゃんと効果があったみたいだね。


「それでエリー今度は何を食っているんだ、そんな変わった食いもんは見たこと無いんだがよ」


 アーシアさんと一緒に座ってポップコーンを食べていたのだけど、大将も気になったみたい。


「これ? ポップコーンっていうんだよ、食べてみる?」


「コーンってあれか、黄色い種みたいなものがいっぱいついてて味がしないやつだろ」


「そうそうそれそれ。油をひいて強火で温めたフライパンにそれを入れるとこうなるのよね」


「ほううまいな、さっきのポテチといいこの塩加減は酒が飲みたくなるな」


「でしょー、まあ今はお酒は飲むわけにはいかないからね、こっちを飲むといいよ」


 こっそりと取り出した炭酸飲料を渡してあげると最初は驚きながらも飲みきった。


「これは炭酸か、昔飲んだ事はあったが味はほぼしなかったしここまで強くなかったはずだがな」


「これも錬金術で作ったやつだからね、今のニーナちゃんになら作れるよ」


「そうか、ニーナに今度頼んでみるか」


「そうしてあげるといいよ、大将に頼られるのが励みになるからね」


 おっと火龍の方に動きがあったようだ。全身を炎で包んだ火龍が吠えると上空に飛び上がった。その姿は角が伸び鱗の色が更に真紅へ変わっている。全身に炎をまとわせることで炎龍へと姿を変えたようだ。こうなっては飛べないただの人じゃ対処できないかもね。その中でも二人の人が全身に魔力をまとわせて、空へ浮き上がり炎龍と同じ高さまで上がった。元領主で転生者疑惑のあるご老人とアールヴの二人はどこまでやれるかな。

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