第28話 魔女、見守る

 魔物たちとの戦いから3日経った、現在のギルドの中は戦場となっている。戦場といっても直接魔物達が押し寄せてきているわけではないんだけどね。外では孤児たちがポーションや炊き出しを手に持ち配るために駆け回っている。外にいる比較的軽い怪我人達はポーションを飲み振りかけて怪我が治ると外の炊き出しで休憩した後パーティー単位で再び戦場へと戻っていく。今ではアデラのグループ以外の孤児たちも加わっている。


 一方ギルドの中はかなり悲惨な状況だったりする。そこかしこに片手や片足など体の一部がない怪我人が寝かせられている。現在は酒場とギルドのホールの間は布で仕切られていて外からは中が見えないようにしてもらっている。戦いが始まってからずっとこうだったわけではない、こういう状況になったのはつい先程からだったりする。最初の一日目などは怪我人も少なく怪我の度合いも殆どかすり傷と言ってもいいくらいの人だけだった。


 ニーナちゃんが作った初級ポーションや中級ポーションを孤児たちに北門と南門に運んでもらって、手伝いを申し出てくれた街の人達や残っている商人の人たちが食料を持ち寄って炊き出しをしてくれたりしてくれた。この街の構造として、全方位を30mほどの壁にぐるりと囲まれていて、普段は更地なんだけど今は壁の外にかなり深い堀が掘られている。入り口は北と南の2箇所しかなくて、街壁の上に登る階段は各門の横に2箇所だけある作りになっている。


 戦いが始まった当初は、弱い魔物のゴブリンや、コボルトなど繁殖力が高く数だけいるような魔物が主だった、だけど不思議なことに動物系のワーラットやツノウサギにフォレストウルフと呼ばれる魔物が全く確認できなかったと聞いた、多分そういう動物系の魔物の弱いのは全部食べられちゃったんだろうね。魔物は西の外壁方向の森から溢れ出してきて、魔術師が順番に魔物を殲滅しては交代してという流れを繰り返し押し返していたとか。魔物の数が減った所で冒険者主体のパーティーが北門から出て残った魔物を殲滅して戻る感じで立ち回っていたみたい。


 そういう感じで初日は殆ど怪我人もなく終わった。戻ってきた冒険者達に食事と少しのお酒が振る舞われて、盛り上がっていた。その日の夜は警戒していたのだけど追加の魔物の襲撃もなく、交代のパーティーは街壁の上で監視していたけど何事もなく一晩過ぎていたみたい。夜はニーナちゃんもアデラ達孤児組も全員寝てもらって、私がずっと起きて警戒していたのだけど、魔物たちも動く気配がなかったのは不思議に思ったんだけどね、その理由も二日目にはわかる事になる。


 そして二日目、ここからが本当の始まりだったのかもし得ない。夜の暗闇があける前に鐘の音が街に鳴り響き寝ていた人たちが強制的に起こされた。初日には西側から襲ってきていた魔物たちが全周囲から向かってくるようになった。こうなっては不用意に門から出て迎撃とはいかず、魔術と弓などで数を減らそうとしたのだけど数が多すぎて埒が明かなかった。それに魔物の中には冒険者から奪ったであろう武器や盾を持つオーク系やオーガ系が混ざりだして対して効果がなかった。


 その中グラシスがリーダーを務めるパーティー黒鉄の金獅子と有志のシルバーランクパーティーが北門から飛び出し敵を薙ぎ払い西廻りに魔物を倒しながら突き進み、南門を目指して魔物を一掃。一方南門からは領主率いる貴族連合が同じように飛び出し魔物を薙ぎ払いながら東廻りに北門を目指し魔物を一掃してみせた。流石に貴族というべきか、装備が良いこともあるのだろうけど、ほとんど怪我人もなくやってのけるとはすごいよね。


 一掃した後も日が暮れるまで散発的に襲ってくる魔物を倒し続けていたみたいだけど、その日は夜になっても魔物が止まることはなく定期的に外へ迎撃に出ていたのだけど、流石に夜は危険だというのと疲労で監視のパーティー以外は食事を取り眠ることになった。この日はそこそこの数のポーションが使われたので、ニーナちゃんは大忙しであった。


「師匠ー少しは手伝ってくださいよー」


 と半泣きで言ってくるニーナちゃんを「ニーナちゃんなら出来る出来る、がんばれー」と声援を送っておいた。決して私が何もしてなかったわけではないよ、必要になるかわからないけど上級ポーションの制作をしていたんだよね。


 でもその姿を人には見せたくないので、布で目隠しをした酒場の奥の方でせっせと魔法を使って調合していたので他の人には何もしていないように見えたかも知れないね。ニーナちゃんも一応言ってみただけで、私が魔法で上級のポーションを作っているのはわかっているので、その後はもくもくとポーションを作り続けていた……、気づいてくれているよね? 決してサボっているわけじゃないよ? 2日目の夜はニーナちゃんが眠った後に代わりにポーションを作ったから許してね。


 そして3日目は日が昇ると同時に戦いが始まった。上位種と言われる魔物の集団、もう軍団と言っていいほどの魔物が押し寄せてくる。普段は仲がいい訳では無い存在同士が徒党を組んでくるのは異常としか言えない。もしかすると火龍山も含めて何者かの意思が働いているようにも思える状態だね。こっそり魔法で覗いてみたけど、これは結構やばいんじゃないかなと思っていた、アールヴと他に数名の魔術師が共同魔術を使い西に広がる森ごと消し炭にしたのを見てもその思いは変わらなかった。だってその奥にはまだまだ魔物達がひしめいていて、その中には地竜にワイバーン、そして火龍が控えていたのだからね。その辺りから怪我人が増え始めて冒頭の状況になっている。

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