第27話 魔女、準備する
お姫様と護衛の二人が部屋を出ていったのを確認して暫くしてからアールヴから声をかけられた。
「はぁ、ほんとに勘弁してくださいよエリーさん」
「あはは、あのお姫様になら良いけど、護衛の二人はちょっと教えないほうが良いかなと思ってね」
聞き耳を立てている人物に、なんの話をしているのか聞かれないように防音の魔法をかけておく。
「それにしてもアー坊がここのギルドマスターだったなんてね、全然知らなかったよ」
「そのアー坊っていうのはやめてもらえませんか、私はもう100歳を超えてるんですよ、ちなみにここのギルドマスターになったのは8年ほど前なので、最後にお会いした時点ではまだ普通の冒険者でした」
「アールヴってそんな年だったんだ、最後に会ったのが50年前くらいだよね」
「ええ、たしかそのくらいだと思います。それよりエリーさんも御存知の通り今は忙しいのでここで何をしているのか教えてもらえませんか?」
「ん? 別に大した事情はないよ、簡単に言ってしまうと魔女になったからね、これを機会に世界を巡る旅でもしようと思ってね、そして最初にたどり着いた街がここだったってだけだよ」
「……今なんといいました?」
「ん? 最初にたどり着いた街が──」
「その前です」
「魔女になったから?」
「聞き間違いではなくて、本当に魔女になられたのですか……」
「そうだよー、すごいでしょー」
「世界で5人目の魔女がエリーさんですか……、魔女と呼ばれる人たちにまともな人は一人もいないのでしょうか」
アールヴは頭を抱えてうなだれている。まるで私がまともじゃないような言い方しちゃって失礼だと思わない?
「とりあえず先に言っておくけど、私は直接手を貸すつもりは無いからね」
「そうですか」
「ありゃ、あっさり引き下がるんだね」
「そういうわけでは無いのですが、魔女になられたのでしたらあまり目立たないほうがほうが良いという事は分かりますので」
「まあね、そういうわけだけど一介の錬金術師として弟子ともども手を貸してあげるよ、まあ大体は弟子にやってもらうつもりだけど」
「それは助かります、素材はギルドから提供させていただきま……今弟子がどうとか言いませんでしたか?」
「言ったよ、良かったねこの街に新たな錬金術師が誕生したことになるからね」
「それは、まあ喜ばしいことかも知れませんが、エリーさんの弟子ですか」
「そうだよ、可愛い子だからっていじめちゃ駄目だよ」
「そんなことしませんよ」
「後はそうだね、あのお姫様には私のことは、アールヴの知り合いの錬金術師の弟子とでも言っておけばいいよ」
「わかりました、そうしておきます」
「これでとりあえず話は終わりでいいかな?」
アールヴは少し考える仕草をした後に頷く。
「職員にはエリーさんの好きにしてもらえるように言っておきますのでよろしくお願いします」
「悪いようにはしないよ、それと師匠には私から連絡しておくからこれが終わったら一度会いに行ってあげてね」
「ぜ、善処します」
収納ポシェットから小さな魔石を一つ取り出し魔文字を刻んで開いている窓から空に向かって投げると魔石は空気に溶けるように消えていった、これで師匠には事情が伝わる、魔の森の異変はわかっているだろうから連絡しなくてもいいと思うけどね、少しくらいは間引いてくれるでしょう。その後はサーラを呼んでもらって細々したことを確認がてら話し合い、残っていたお茶を飲み終わったので、そろそろお暇しようかなと防音の魔法を解いた所で扉がノックされて扉が勢いよく開かれた。
「ギルマス邪魔するぞ、っとエリーちゃんじゃねーか、こんな所でどうした?」
「グラシスさんお久し振りですね」
扉を開けて入ってきたのは、金のたてがみの様な髪をして黒い全身鎧と2mほどある身の丈ほどの大剣を背負った30代ほどの人物。名前はグラシス、現在この街にいる唯一のゴールド冒険者を率いるパーティーリーダーだったりする。
「私はギルドマスターにお願いされて錬金術師として活動することになったのよ」
「おう、そうかそれは助かるな、よろしく頼むぜ」
非常にいい笑顔で笑いかけてくる、グラシスさんのパーティーメンバーであり恋人のアナベラさんを治療してから何かと気にかけてくれるし、元々気のいいおっちゃん気質の人なんだよね。
「私のお話は終わったので準備に入らせてもらいますね」
「ああ、サーラもエリー……殿に付いて行って準備を手伝って上げてほしい、錬金鍋などはギルドの倉庫に使える物があったはずなのでそれを使ってください」
「はい、それではグラシスさん失礼しますね、エリーちゃん行きましょうか」
サーラと部屋を出て扉が閉まるとグラシスの緊迫した声が聞こえる。この感じだとそろそろ魔物が溢れ出してきそうなのかな? 階下に降りてガラさんとダンさんに手伝ってもらいながら酒場のスペースを使って準備を整える。
サーラには大将とアーシアさんと一緒にニーナちゃんとアデラ、それとアデラの属しているグループの孤児達を呼んでもらって話をする。
「大将にアーシアさんは怪我までは良いですが死なないようにだけ気をつけてくださいね、生きてさえいれば私がどうにでもしますから」
「ああ、俺もアーシアも無理はしない、元々魔術師と神官だからな、遠距離からの援護がメインになる」
「それでも気をつけてくださいね、大将たちになにかあったらニーナちゃんが悲しみますからね」
ニーナちゃんの事を思ったのか気を引き締め直したようだ。
「アデラ、あなたとあなたのグループには私達の手伝いをお願いします、これはギルドの正式な依頼になるのでちゃんと別途報酬は出ます、ですよねサーラ」
「はい、ギルドマスターに了承はもらっていますのでそこは大丈夫です」
「もしそれでも人手が足りなくなったら、アデラの一存で他グループにも声をかけてくれていいからね。そうだね参加者には名前だけでも書いておいてもらおうか、後で手伝った手伝ってないで揉めるのも嫌だしね」
「エリーの姉御こちらこそよろしく頼みます」
「「「よろしくお願いします、姉御」」」
アデラと十数人いる女の子達に頭を下げられるのはなんと言って良いのか戸惑うね。とりあえずサーラに紙を用意してもらって一人ずつ名前を代筆してもらう。
それじゃあここからは私とニーナちゃんの時間だね。ガラさんとダンさんに運んでもらった錬金鍋を二人でチェック、アデラ達孤児グループにはダンさんに付き添ってもらって、素材置場から今回使う薬草などの素材を運んできてもらう。ここ最近ずっと私が納品し続けていたから在庫はそうとうあるようだ。
目の前にででんと置かれた錬金鍋、通称闇鍋なんて言われているものだ。形や素材は様々で使う人によって専用のものを用意するのが普通なんだけど、今回はその時間がないのでギルドにおいてあったものを使うことにした。普段ニーナちゃんが使っている錬金鍋だと大量生産に向かないので仕方がない。普段使っているのは一度にポーションを3個も作れれば良い感じのものなんだけど、今回借りている錬金鍋だと20本くらいは一気に作れる。
「それでは、ニーナちゃん中級までのポーションは任せるからね」
「えっと、私で良いのでしょうか?」
「大丈夫だよ、ニーナちゃんは私の立派な弟子なんだから、自信を持って」
不安そうにしていたけど覚悟を決めたのか両手をギュッと握りしめて気合を入れている、すごく可愛いなー、ついつい頭をナデナデしちゃったよ。
「サーラ、初級と中級はニーナちゃんがどんどん作っていくから怪我した冒険者に使うように言っておいて。それと孤児の子たちには何グループかに別れてもらって各所に配達してもらうように手配を、念のため一グループに一人は信頼の置ける冒険者を付けてもらえると良いかも」
「分かったわエリー、それについてはこちらで手配するわね」
「お願いします」
さて、これで準備は大丈夫かな、二階から降りてきたアールヴとグラシスさんとお姫様達が冒険者を引き連れてギルドから出ていく。一緒に出ていく大将とアーシアさんを心配そうに見つめているニーナちゃんの頭を撫でながら「大丈夫だよ」と声をかけてあげた。
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