　ギルドを出た後はまず南区に向かうことにした。北区と南区の区切りはなんとなくわかってしまった。突然露天がなくなる地点があり、そこから少し進んだ辺りで見回りをしているらしい冒険者を見かけた。

　北区と違う所は、通りには馬車が結構見受けられた。貴族かその従者が店を出入りしているのも見かけた。中も少し気になるけど、今は大してお金もないし店に入れてもらえるとも限らないからね、軽く雰囲気だけ確認して南門まで歩いてみた。

　南門も作りは北門と同じ感じで門兵が見回りをしているけど、北門よりもなんていうかキビキビしていてまさに兵士って感じに見えた。特に用事はないのでちらりと見るだけで来た道に戻り、途中で街の人に教会までの道を訪ねつつ東区に入った。

　東区は余り歩いている人が見られなくて、多くの兵士が見回りをしているようだ。私も何回か見咎められたけど、街に来たばかりで教会を探してますと言って道を教えてもらいながらなんとか教会までたどり着いた。教会は思っていたよりも立派なようで、この街の教会は世界で一番勢力の有る六神教のものだった。六神教とは六柱の神を中心として崇められている。

　地神メイアス、水神アクアリアス、火神ヴァリアス、風神シャーリアス、光神イドラアス、闇神ウルダリアス。この六神を祀っているのが六神教でそれぞれに権能があるのだとか、まあ私はどれも信仰していないので本当の所はわからないけどね。

　六神教ってこの世界の宗教で一番穏やかな宗教とも言われている、他の宗教の神々も六神に連なる存在であり排斥するものではないという考えみたい。だからか多くの国では六神教を国教みたいな扱いにして、六神教自体も政治には極力関わらないスタンスをずっと続けているようだ。

　師匠の話では、とある時代に別々に信仰されていた六神が一つの宗教として合わさって出来たのが六神教の始まりだと言っていた。光神イドラアスと闇神ウルダリアスが六神の中でも上位神で創生の神なのではといろいろ考察はしていたけど、結局「どの神とも会った事がないから本当の所はわからないけどね」と言って笑っていた。

　今日はとりあえず教会の位置を確認して、次は図書館へ向かうことにした。お布施とかねだられても今はあまりお金が無いから困るしね、時間が有る時にでも賢者の予言について聞いて聞いてみたいとは思っている。

　図書館の位置は教会から近いようで、教会でお祈りした後の帰りと思われる御婦人に場所を聞いたらすぐに見つかった。図書館の外はちょっとして公園になっているようで図書館探索の前にそこでお昼を食べた。さすが大将というべきか、お弁当も美味しゅうございました。

　お茶で口の中をスッキリさせていざ図書館へ。そこそこの大きさはあるけど、規模としては田舎の町の図書館くらいの大きさだろうか。受付で入館申請をして入館料の金貨一枚を渡す。この金貨一枚は退館するときに返してもらえるようだ。本を破損などさせた時はここから引かれて払うことになる。

　この世界の本は羊皮紙の時代は数百年前に終わっていて、今は植物紙となっている。だけど活版印刷のような大量生産技術はまだ未熟なようで、写本が主流となっている。こういう辺境だと写本の写本の写本って感じかな？

　ここの図書館では自由に書き写したりしてもいいけど、汚したりしても入館料から差し引かれる。ちなみに写本の依頼とかも出来るとのことだ、ページ数で金額は変わるけど結構利用する人は多いのだとか、時間はかかるみたいだけどね。

　今日の目的はこの辺りの国のことやできれば世界情勢なども知りたいのだけど、そういう軍事的な情報は多分図書館なんかには置いてないだろうし、置いていても最新の情報は無いと思う。なので今日は魔女について調べてみようと思っている。

「あの、魔女についての本はどの辺りにありますか？」

「魔女ですか？」

「ええ、なんでも良いんですけど、ほら有名な絵本の原本みたいなものとか無いかなと」

「残念ながらここには魔女関係の原本や写本は無いですね、王都になら専門のコーナーがあったりするのですけど」

「そうですか、ありがとうございます」

　詳しい書籍は王都になら有るようだ、この街の後は王都行きも考えておこう。とりあえず、絵本そのものは有るとのことで案内してもらって読んでみることにした。絵本の中身は大体大将に聞いた内容そのままな感じだった。

　悪いことをするとどこからともなく魔女が来てさらって行くよという教育的な感じのものだ、大将が言ったような魔の森から魔女が出てきてというのは多分魔の森周辺に住む人達がアレンジした話なんだろうね。

　絵本以外にも魔女関係のものを探してみたけど、どうやら本当に有るのはこの絵本だけみたい。仕方がないので適当に回っていると、とある街の、とある領主の、とある手記の写本というものがあった。書き写した人のまえがきによると内容は全くわからないとの事だったのだけど、表紙の文字を見てどうやら私と同じように、この世界に迷い込んだ人のものだったようだ、どうしてかと言うとめちゃ日本語で書かれていた。

　なんでこんな物が街の図書館にあるのかと思わなくもないけど、気になったので早速流し読みしてみた。内容はまさしく日記だったのだけど、転生ということでどこかの貴族の三男として生まれたみたい。

　私と違う部分は神にあって転生特典で能力を貰ったとか書いている。あるぇ？　私は神にもあっていないし能力とか貰ってませんよ？　私の場合は転生じゃなくて転移？　転落？　だからかな、まあ今更だしそんな怪しい宗教の勧誘はいりませんけどね。