第3話 魔女、情報を得る

 この街についてから早一週間、決して大きいお風呂の誘惑に負けて滞在しているわけではないですよ。うん、でもあのお風呂がなければさっさと旅立っていたのは言うまでもない。この一週間何をしていたかというと、比較的崩れていない建物の家探しをしていました。その成果として分かったことが一つある。この街から人がいなくなって二百年以上は経っているという事、魔物に襲撃されて逃げ出した訳では無い事、疫病が流行って滅んだわけでもないという事がわかった。


 そう、結局は何があって街を捨てたのかまでは分からなかったけど、白骨死体があるわけでも魔物が住み着いているわけでもなかった。魔物が住み着いていない事に少し違和感を覚えていたけどそれは調べているうちにわかった。


 その理由は私の寝床にしている場所、あそこは領主の屋敷だったらしいのだけど、あそこの地下に魔物よけの術式が刻まれた大きな魔石が置かれたままだった。街を捨てるのならこの魔石も一緒に持っていくと思うのだけどね、この領主の屋敷の地下に放置されていたという事はこの街を管理していた領主に何かがあったという事なのかな。


 まあ、今更この街の過去を知っても意味はないし、この魔石は私が街を出る時にでも貰っておこうかな。手を広げた私が三人必要なくらい大きい魔石だからね。そのまま魔物避けとして使ってもいいし、加工して使うにしても使い道は色々あるからね、置いていく理由がない。


 他にわかったことは冒険者ギルドというものの存在があるということかな。剣と盾が描かれた看板がある建物だったけど、他の建物より頑丈なようで崩れずに残っていた。ギルドの中には持ち出さなかったと思われる資料などが残っていた。ほとんどが経年劣化で読めたものじゃなかったけど、一部無事なものもあった。


 その残っていた資料の中には今の私にとって一番必要なものがあった。それが何かというと地図だ、と言っても子供の落書きのような物だったけど、大体の方角やかつてあったであろう街道の分岐点とその先にある街が描かれていた。


 これを見つけたお陰で大体の進む方角がわかったので、そろそろ旅立とうと思ったわけですよ。地図がなくても街道さえ見つけられればそれに沿って移動するのだけど、そんな物はとっくに植物に飲まれているだろうからね。


 それ以外は特にこれといった収穫はなかったので旅立つには丁度いいのかもしれない。むしろ長居し過ぎた気がしなくもない。だってあのお風呂が悪いのだ、広々としていて気持ちいいのだよ。師匠の家にもお風呂はあったけどドラム缶風呂くらいの大きさだったのだよね。


 一度師匠の家の外にお風呂を作ろうとしたのだけど、さすが魔の森といった所か、水の気配を感じたのか、お湯を張った時点で森に飲まれた。本当に飲まれたのだよ地面にズブズブって具合に、流石に入っている途中で地面に引きずり込まれたくないから、それ以来お風呂を作るのは諦めた。


 今は昼間だけど、もう一晩だけここのお風呂を堪能してから明日の朝旅立とうと思う。その前に少しだけ森の魔物を狩っておく事にした。一応師匠からは昔の通貨を貰ったのだけど流石に数百年前の通貨は使えるかどうかわからない。なので魔物を狩って魔石と素材を幾ばくか用意しておけば他の街についた時にでも冒険者ギルドや商人に売ってお金に変えることができると思う。素材は錬金術でも使えるし売れなくても持っていて無駄にはならないかな。


 というわけでやってまいりました魔の森です。ずっと魔の森に居ただろうですって? まあそうなんだけどね。さてこの辺りには何がいるかな?デスホーネットでもいれば、はちみつが手に入るのだけど、エビルキマイラでも良いかな毒線や肝は素材になる。だがゴブリン、テメーだけはダメだ素材にもならないし臭い、というかこのあたりゴブリンしかいない? 嘘……だよね? 嘘だといってよ、これでゴブリンの集落何個目だっけ? 問答無用で魔法を使って遠方から生き埋めにしているけど。だってあいつらお風呂に入っていないから臭いのだよ、動物でも毛繕いしたり水浴びしたりするんだよ、お肉が美味しいオーク種だって身綺麗にしているのだよ、だと言うのにあいつらと言ったら、もう滅ぼすしか無いでしょ。


 魔石が勿体ない? あいつら解体するの? 嫌だよ、何度でも言うよあいつら臭いんだよ、街が滅んだのってきっとゴブリン共の匂いに耐えかねたんだろうね、うんきっとそうだ。


「はぁ、ゴブリン以外が見当たらない、キングっぽいのもいたけど生き埋めにしちゃったしね、あいつの魔石だけでも取っておいたら良かったかな」


 とぼとぼと杖に座ったまま空を飛び街に向かっていると遠目に死使鳥の姿が見えた。


「死使鳥なんて珍しいね、よし今日の夕食はあれでいいかな」


 未だに死使鳥は私に気づいていないようだ。杖の上に立ち上がり左腕を前へのばし人差し指を死使鳥へ向け、右腕は弓の弦を引き絞るように引き、狙いを定めて放つは魔力の弾丸。死使鳥は魔力の流れには敏感だけど、この魔の森ではただの魔力を感じ取るのは難しい故に、遠距離からの狙撃が有効。


「穿て」という呪文とともに引き絞っていた右手から小さな魔力の塊が放たれる。死使鳥に当たったのを見ること無く杖に座り直すと全速力で死使鳥へ向かって飛ぶ。そして死使鳥が魔の森へと落ちる前に収納ポシェットへ取り込む。


 森の中からはこちらを見てくる多数の魔物の気配を感じたけど、死使鳥が消えたことで散っていった。流石に魔の森に落ちた死使鳥を取り合うのはめんどくさいから落ちる前に確保できてよかった。


「さーて今日は久しぶりにトリの唐揚げにでもするかなー、死使鳥のお肉って名前に似合わず美味しいんだよねー」


 さっさと戻って日が暮れる前に解体を済ませて今日はトリ唐だ、キンキンに冷えたエールも付けちゃいましょうかね、想像するだけで気分はアゲアゲである。

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