第9話 イーダの興味
話を戻す。
管理責任官のイーダはルシュターに
11567について兎に角根掘り葉掘り聞いてきた。
今回の件に関わらず、ルシュターの目から見て
11567という人物をどう捉えるか、
どう解釈しているかに関心があるようだった。
それらは全て、今回の聞き取りに対する
ルシュターの答えから始まっていた。
「11567は終始ヴェガに対して殺意は無かった。
実際に殺害に及んだその瞬間でさえも
反射的に反応しただけで、殺す気はなかった
ような気がします……」
「それは、つまり、ついうっかり反撃して
みたら、死なせてしまったということかな?」
「いえ、ついうっかりの反撃などではなく……
明確にヴェガが11567を殺そうとしたのが悪くて
ヴェガに殺気が生まれなければ11567は何も
反応しなかったと思います。」
「殺気の有無か………」
他の者からも喧嘩の様子は聞いていたが
ルシュターの見解は他の子達とはやや違った。
聞き取りをした教官は少し考え込んだ。そして、
「それにしてもお前は状況をよく把握できたな、
そしてよくもまあーーー、11567のことをよく理解しているな。」
と関心したのだった。
この内容を聞いて、イーダはルシュターに
興味を持ち、冒頭の事へと繋がる。
ルシュターは、11567に対して特別何かを
思っていたわけではなかったが
余りに異質なその存在に興味が無いわけでも
なかった。
ここにいる者達は皆、少なからず暗い動機を
持っていた。ここで活躍するという事は即ち
他者を大きく傷付けることに直結する。
工作活動とは他国であれ、自国であれ
敵と見做した相手を破壊・破滅させることである。
勿論それがこの国にとって良い事、正しい事と
教え込まれるが、それに反発する程の正義感を
持った者などここにはいない。
だがその考えに馴染みにくい者もいる。
ルシュターもそうであった。
ここでの考えに反発する事は即、自分の死に繋がる
のでそれは避けて上手く順応するようにしていたが
それは心理的に中々大変な作業でもあった。
そんな中で11567の異質さは、何故か
ルシュターの葛藤を和らげているような気がした
のだった。
どれ程の事があればこれほどまで感情を
削ぎ落とせるのかまるで分からなかったが、
彼女の欠片も人を憎まず疎まず、何も望まない
その性質の根源に吸い寄せられるものがあった
のかもしれない。
イーダに対し、ルシュターは自分の思っている
ことを素直に話した。
大抵の事を満足気に聞いたイーダは、
「あの子が持っている特質は私が長年求めていた
人間の在り方の完成形に近いのだよ。
だがどうやれば他の子もあのように育てられるのか、未だ解ってはいない。
あの子について推察できることがあれば
何でもいい、教えてほしい。」
そう言い残していった。
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