夢うつつ
「眠くなってきました……」
「うん」
「寝たいです……」
「うん」
「おやすみなさい……」
「うん……って待って。自分のベッドがあるでしょ」
「ぐぅ」
「起きて。さっき俺のこと『朝から深夜まで真っ暗な部屋でPC相手に仕事してそうな顔』とか言っておいて運ばせようとしてる?無理だから。俺だってもう眠気限界。休みじゃなきゃ叩き出してとっくに寝てるぞ?だから起きて。歩いて。帰って?」
「うぅ、うるさいです……。なんでいきなり饒舌になるんですか、起きちゃったじゃないですか……」
「そりゃあ大事な睡眠拠点が半分占拠されちゃたから上、めちゃくちゃ抱き着かれてるしね。眠れない。あとベッドは取り返したい」
「なんか喋りすぎてて怖いです」
「失礼な」
とりあえず、彼女の腕を逃れ、背中を向け眠る姿勢を取る。
「あのですね、私、意味がわからなかったんですよ」
今俺にとって意味が分からないのはお前だ。と言うのはやめ、黙っていることにした。この際贅沢は言わない。ここで寝ていいから俺も寝かせてほしい。彼女は眠気が完全には去っていないためかやや舌足らずな幼げな口調だった。
「自分が見た夢の話する人のことです。なんの生産性もないし、第一コメントにすっごく困るんです」
無視しているにも関わらず、彼女は俺の背中に向かって話しかけている。
「どう思います?」
「……まあ確かに」
「同じですね。でも、今私思い出したんです」
少し姿勢を変えて、彼女の方を見る。
「こないだ見た夢のこと。話していいですか?」
「はぁ……いいよ」
溜息をつきながらも彼女と向かい合う。
本当は、自分で意味不明とか言ってたくせにとか、聞きたくないからだめだときっぱり言うはずだったのに、どこか悲し気な表情でいうから、つい許してしまった。
「……ありがとうございます。その夢の中で、あなたは死んでました。というより存在そのものがいなかった」
いきなり殺された。
「それで、私泣いちゃったんです。私以外あなたのこと覚えてなくて、あなたがいた証拠もなくて、誰も何も言ってくれなかった」
「……そうか」
そっと触れた髪は柔らかかった。少しだけ笑顔を取り戻した彼女は続ける。
「でも、ひとつだけ見つけたんですよ。あなたがいた証」
「?」
「ゲームのデータです。あなたのセーブデータもあったの」
「唯一の証それか……」
「いいじゃないですか。それで、よかった、って思ったら目が覚めて。安心したらちょっとだけ泣きそうになりました」
「……やっぱりコメントに困る」
「あはは、ですよね」
「俺生きてるから余計に」
「……! はい」
彼女の髪を撫でつつ、目を合わせる。
「もうこのまま寝ていいよ。俺たち二人ともどうせ休みだし」
「いいんですか?」
「だって帰る気ゼロだし」
「不可抗力です」
「それに……ここで寝たら俺がいない夢なんて見ない、と思うから」
「え?」
「いや別に夢のことなんて気にしないと思うけど……」
「……いえ。その言葉も気持ちも嬉しいです。……ありがとう。おやすみなさい」
「……おやすみ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます