ホットアイマスク
「ただいま戻りました~」
彼女は自作のホットアイマスクを手にし、嬉々として戻ってきた。
「電子レンジで1分!お手軽で素晴らしいです!準備はよろしいですか?では……」
「ちょっと待て」
待ったをかけると彼女はきょとんとした顔で見つめてくる。……可愛いとか思ってないからな。
「それ……どこから持ってきたの?」
「? 家からですが?」
「家に帰ったの?」
「はい」
「なんでそのまま帰ってくれなかったの?」
「これをお届けしようと」
「いらない帰って」
真顔で拒否し続けると、悲し気な表情で言う。
「せっかく持ってきたのに……。押し付けようとした私が悪いのはわかりますけど……」
「う……」
正直言って、俺が罪悪感を抱く必要は微塵もないと思うのだが、この顔は何故か「俺が悪かった」と言わなければいけない気持ちにさせられる。そっと手を伸ばすと、ぱっと顔を上げられて少し驚いた。
「でも!私のおすすめなので!」
「うわぁ⁈」
勢いのまま、押し倒されてしまった。困惑している間に姿勢を整えられ、掛け布団もきっちり掛けられ、あっという間に視界が暗くなってしまった。
「どうですか?」
「え?……あ、なんかあったかい」
じわぁっと丁度良い温度が広がるのがわかり、自然と体の力も抜けた。
「でも、こういうのって長時間つけてるのはよくないんだよな……。寝そうだから……」
「大丈夫です。もし寝ちゃったら私がちゃんと回収しますから」
「ん……」
ふっと意識が落ちていく。ああ、これでやっと、やっと安眠できるのか……。
「おやすみ……」
***
「……さん、寝ちゃいましたか?」
誰かの声で、意識が浮上する。ん?視界が暗い。そう思った途端、完全に眠りから覚めた。アイマスクがそのままということは、大した時間もたっていないだろう。寝ていたのはせいぜい十数分くらいか。
「寝ちゃったなら帰らないといけませんよね……」
名残惜しそうな声と共に、自分の手がそっと触れられているのに気づく。目が覚めたのはこれも理由の一つだろう。寝たふりを続ける理由もないのでとりあえず起きようと思うと、
「どうして気づいてくれないんですか」
これは……俺に対する不満だろうか。なんとなく聞きたくなってしまい、じっとしたまま次の言葉を待った。
「私、それなりにアピールはしてるつもりなのに……。あなた、全然、微塵も、『好き』って言ってくれないじゃないですか。そりゃ私から言うのは簡単です。でも『俺も』じゃ意味ないんです。言われたいのはそっちから言う、自発的な『好き』なんですよ……!」
恐らく俺を起こさないようにという配慮のために声のボリュームを落としているのだろう。でも手が痛い。握りすぎだよ、痛いよ、起きるよ。
「おはよう」
「え!起きてたんですか」
アイマスクをどかしつつ痛みを訴える。
「手が痛い」
「あ!すみません……」
少し赤くなっている手を解放され、一息ついた。
「いつも言わなくてごめん。俺も、ちゃんと好きだよ。一緒にいてほしい」
「き、聞いてたんですか……!」
「言われなかったら少なくともしばらくは気づけないままだったと思うし、よかったよ」
「私……あー、恥ずかしい……」
「はは、なんで?」
散々好き勝手しても自信満々だったのに、急に恥ずかしさに悶える様子におかしくなって聞き返す。
「なんでもです……」
「なんでもじゃわからん。こっちきて、顔見せて」
「やです……」
いたずら心をくすぐられてしまい、ひょいっとベッドに引き上げる。扱いやすくて結構だが、ちゃんとご飯は食べているのか?夜食ポテチとコーラだったし。
「いつにも増していじわるですね……。こうなったら」
彼女はばっと身を伏せ、ベッドに張り付いた。
「あ、こら」
「もうこんな時間です。遊び過ぎましたし、寝ましょう!」
ぐいぐい引っ張られて横になるよう強制される。自分に都合が悪くなったら寝るのか!
「というか、ここ俺の部屋なんだけど!」
「まぁまぁ、細かいことは言いっこなしです」
「細かいこととは」
「だから、無言で抱き着くな。乗り切れると思うな!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます