子守歌……?  

「そんな朝から深夜まで真っ暗な部屋でパソコン相手に仕事してそうな顔して、随分と必死に逃げ回りましたね……」

「ねえ、失礼過ぎない?喧嘩売ってる?事実無根なのに」

「はぁ、これ以上やると汗だくになりそうですし、今日はもう寝ましょうか。今なら私が寝かしつけてあげます」

「……」

「そんなに嫌そうな顔しないでください。ほら、早く横になって」


変な方向におせっかいが加速している……。従うしかない自分がもどかしい。

「偉いですよ。では、子守唄を歌ってあげましょう……嬉しいでしょ?」

「……」諦めよう。

彼女は床に座り、横になる俺と目線を合わせる。



ふふふ~んぼうや~ふんふふふんふふふ~んよいこだねんねしな~♪」

リズムに合わせて布団が叩かれる。

「何、その曲」

「え?子守歌と言えばこれじゃありませんか?」

「そうだけど……」

「物足りないなら私の部屋から楽器でも持って来ましょうか。マラカスにタンバリン、ホイッスルもありますが。ホイッスルはホイッスルでもティンホイッスルです。のどかな音色がいいですよね」


少し自慢げなのはなぜだろう。というか、何そのラインナップ。絶対眠れないと思う。


「もういいよ。ありがとう。合い鍵で戸締りして帰って……。そっちだって絶対眠いでしょ」

「いいえ!私は元気ですよ!」

「眠いと言ってくれ……」


彼女の声をシャットアウトしたくて布団にくるまる。が、無意味なようだ……。


「なんというか、逆に目が覚めてきた気がしますね」

「嘘だ」

「あ、そうだ!を忘れていました」

「無視か。あと聞きたくない」


「実はですね、なんとホットアイマスクを!用意しちゃったんですよね~。テレビで見てさっそく取り入れたんです。私、出来る女なので」

「影響されやすいだけだろ」

小さい声で言うと、ばっと掛け布団を剥がれ無理やり目を合わせられた。


「でもリラックス効果とかあるらしいですよ?それで材料買ってきて作りました。小豆はどこで売っているのかと悩みましたが、普通にスーパーに売っているものなんですね」

「……まさかの手作り?」

「お裁縫も久しぶりだったので苦戦しましたが、なんとか出来ました。インターネットさまさまです」


「あれ?ひょっとして、興味出てきましたか?ですが作ったアイマスクは一つ……どうしても、とお願いするなら差し上げてもよいのですが」

「ううん、いらない。帰って」

「仕方ありませんね……。そこまでおっしゃるのであれば、大人な私は進呈するしかありません」

こいつは何を聞いているのだろう。







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