子供の頃の約束を大人になるまで覚えてくれていた話

tama

第1話

 小学生の頃。


 私には親友と呼べる友達がいた。放課後は都内にあるその親友の家によく遊びに行っていた。


 そしてその親友には妹がいた。その子は私よりも4歳年下のとても可愛らしい女の子だった。その子の名前は千尋ちゃんという女の子で、私はいつもその子の事を“ちーちゃん”と呼んでいた。


 ちーちゃんは親友の事が大好きで、いつも親友の後ろをピッタリとくっついて離れようとしなかった。私にはそれが親子ペンギンのように見えてとても可愛らしく思えた。


 私が親友の家に遊びに行く時は、いつも親友と妹のちーちゃんを交えて3人でよく遊んでいた。でもちーちゃんは人見知りだったので、最初の頃は私の方にはあまり近づいてくれなかった。


◇◇◇◇


 とある日の放課後。


 いつも通り私は学校の校門前で親友と待ち合わせをして、そのまま親友の家へと遊びに行った。しかし親友が家の玄関を開けると……目の前の廊下でちーちゃんが倒れていた。


「ち、千尋!?」

「ちーちゃん!?」


 私と親友は急いでちーちゃんの前へと駆け寄った。私はそのままちーちゃんのおでこを触ってみたんだけど、とても熱かった。38度くらいはありそうだった。


「風邪かな?」

「多分そうかも。親に電話してくるから、夏希は千尋を部屋のベッドに運んであげて」

「うん、わかった」


 私はちーちゃんを担いで部屋のベッドに運んであげた。急いでベッドにちーちゃんを横たわらせたけど、でもちーちゃんの表情はとても辛そうだった。


 私はちーちゃんの部屋から出て、親友の所に向かった。


「もう少ししたら母さんが帰ってくるって。私、急いで風邪薬とかポカリ買ってくるから、夏希は千尋の事見といてくれない?」

「うん、わかった。 あ、冷えピタとかある?」

「あぁ、うん、それならリビングに置いてある救急箱に入ってるよ。あとタオルとかも必要だったら自由に使ってね。それじゃあ、ちょと出かけてくるね」


 そう言って親友は走って家から出て行った。私は冷えピタとタオルを手に持って、ちーちゃんの部屋に戻った。早速私は冷えピタをちーちゃんのおでこに貼り付けてあげた。


「こほっこほっ……うぅ、辛いよ……助けてお姉ちゃん……お母さん」


 ちーちゃんは酷く辛そうに涙を流していた。体も熱のせいで若干震えてるようだった。だから私は……


「大丈夫だよ、もうすぐ姉ちゃんとお母さんが帰ってくるからね。それまでは私がちーちゃんを守ってあげるから」

「……あ……」


 私はそう言いながらちーちゃんの手を握ってあげた。ちーちゃんの手も熱のせいで震えていたので、私は両手でぎゅっと握りしめてあげた。


「なっちゃんの手……暖かい……」

「ふふ、ちーちゃんが辛くなくなるまでぎゅってしてあげるよ。だから今はゆっくり休もうね」

「うん……ありが……と……なっちゃん……」


 ちーちゃんは安心してくれたようで、それから少し経つとちーちゃんは眠ってくれた。


 数十分後、親友のお母さんが帰宅した。これでもうちーちゃんは大丈夫だ。


 という事でここからの看病は親友のお母さんに任せることにして、私はちーちゃんの手を離して部屋から出ようとした。するとその時、ちーちゃんはふと目を覚ました。


「んぁ……?」

「あ、起こしちゃってごめんね。でもちーちゃんのお母さん帰ってきたよ。ちーちゃん頑張ったね、偉かったよ」

「んぁ……あ、なっちゃん……ありがとう……」

「うん、早く良くなってね、ちーちゃん」


 最後に私はちーちゃんの頭をぽんぽんと撫でてあげた。そして後は親友のお母さんに任せる事にして、私は自分の家へと帰る事にした。


 私はその帰宅途中に、ちーちゃんが早く良くなるようにと祈りながら帰っていった。次の日にはちーちゃんの体調は元に戻ったらしく、私はほっと安堵した。


 そしてその日以降から、ちーちゃんは少しずつ私に懐いてくれるようになった。


 今日も私が親友と一緒にゲームをしながら遊んでいると、ちーちゃんは私の膝の上にちょこんと座り、そこで漫画を読んだりするようになっていた。なんだか私にも妹が出来たようでちょっと嬉しかった。


◇◇◇◇


 それから数年後、中学生の頃。


 私は昔と変わらず親友とよく遊んでいたんだけど、でもこの頃はちーちゃんとも良く遊ぶようになっていた。今では実の姉よりも私の方にべったりとくっついて来るようになっていた。


 そして今日は3月28日。この日はちーちゃんの9歳の誕生日だった。


「お邪魔します」

「あ、なっちゃん。いらっしゃい」

「こんにちは、ちーちゃん」


 今日も親友の家にお邪魔すると、ちーちゃんが私の方に近づいてきてくれた。


「なっちゃん、今日は何して遊ぼっか?」

「うーん、何しよっか? あ、でもその前に……はい、これ!」

「え? なにこれ?」

「プレゼントだよ。ちーちゃん、10歳の誕生日おめでとう」


 私はそう言ってちーちゃんに小さな小包みを渡した。


「わぁ、ありがとう! プレゼント開けてもいい?」

「うん、いいよー」


 私がそう言うとちーちゃんはワクワクとしながら小包みの中身を開けていった。するとその小包みから出てきたのは小さなペンダントだった。


「あ、これ! 私が欲しいって言ってたやつ!」

 そのペンダントは、ちーちゃんの好きな漫画に出てくるキャラをモチーフにしたオモチャのペンダントだ。予めちーちゃんには欲しい物を聞いていたので、今日ここに来る前に家電量販店に行って、私はそのペンダントを購入しておいたんだ。


「貰っていいの?」

「うん、いいよ。誕生日プレゼントだもん」

「あ、ありがとうー! なっちゃん大好き!」

「ふふ、喜んでくれたようで良かった」


 ちーちゃんが喜んでくれて私も嬉しい気持ちになった。 来年の誕生日プレゼントも、これくらい喜んでもらえたら嬉しいなと思いながら、この日は楽しく過ごした。


 それから数ヶ月後、私はちーちゃんに告白された。


「私、なっちゃんの事が好きです。だからなっちゃんのお嫁さんにしてください」

「うん?」


 9歳になったばかりのちーちゃんは私の足元にしがみつきながら、お嫁さんにしてくれと告白してきた。私は苦笑しつつ、しがみついてきたちーちゃんの頭をぽんぽんと撫でながらこう言った。


「ふふ、ちーちゃんもおしゃまな事をいうお年頃になったんだね」

「な、なんで笑うのー? 私は本気だよー?」

「あぁ、ごめんごめん。ちーちゃんにそう言って貰えて嬉しいよ。でもお嫁さんになるのはちょっと難しいかなぁ」

「な、なんで!? 私、なっちゃんの事大好きなんだよ? なっちゃんは私の事……嫌いなの?」


 ちーちゃんは涙を溢しながら、さらにぎゅっと力を込めて私の体にしがみついてきた。


「ううん、私もちーちゃんの事は大好きだよ。でもね、きっとちーちゃんがもっと大きくなったらさ、私なんかよりももっと好きな人が出来るはずだよ」

「……ならないよ……私、なっちゃんよりも好きな人なんて絶対に……」

「ふふ、そっかそっか。ちーちゃんにそんなに愛されてるなんてとっても嬉しいよ。それじゃあさ」

「そ、それじゃあ……?」


 ちーちゃんは涙を流しながら私の顔をじっと見つめてきた。


「ちーちゃんが大人になっても、まだ私の事を好きだっていう気持ちが残ってたなら……ふふ、それじゃあその時は私のお嫁さんになってほしいな」

「ほ、本当!? い、いつになったらなっちゃんは私が大人になったって認めてくれるの?」

「うーん、まぁ大人って言うからには18歳になったら……かな?」

「う、うん! わかった! それじゃあ、18歳になったら……その時はなっちゃんのお嫁さんにしてね!」

「ふふ、うん、いいよ。それじゃあその日を楽しみにしてるね」

「うん!」


 ちーちゃんはまだ9歳の女の子だし、子供の好き嫌いの移り変わりなんて早いものだ。だからちーちゃんも時間が経てば、きっとこの約束の事なんて忘れてしまうだろう。


(それにちーちゃんが中学生に上がれば、きっと他に好きな男子とかも出来るだろうしね)


 私はそんな事を思いながらも、満面の笑みを浮かべているちーちゃんの頭を優しく撫でてあげた。


◇◇◇◇


 高校生の頃。


 この頃になると親友は部活動とバイト、彼女さんとのデートなどで忙しくなっていて、私と遊ぶ頻度はだいぶ減っていた。


 でも親友には〝千尋が夏希と遊びたがっている”とに言われたので、この頃も私は親友の家に行って、ちーちゃんと2人で遊ぶ時間をそれなりに作っていた。


 そんなちーちゃんも今では中学生となり、思春期を向かえていた。昔は私にベッタリとくっついて来ていたけど、今では適度な距離を保ってきている。仕方がないことだけど少し寂しいな。


 ちーちゃんは中学校に入学すると料理研究部に入った。ちーちゃんは元々料理が好きだったので、ピッタリな部活だと思った。 そしてこの頃はちーちゃんの家にお邪魔する度に、毎回私のために色々なお菓子を作ってくれた。


「今日も美味しかったよ。 いつもありがとね、ちーちゃん」

「ううん、私もなっちゃんに喜んで貰えて嬉しいから」


 私は作ってくれたお菓子を食べながらそう褒めると、ちーちゃんは顔を真っ赤にしながらもはにかんだ笑顔で私の事を見てきた。


 でも……そんなちーちゃんの笑顔を見ていると私の心は痛くなった。


 ちーちゃんは昔に比べると私にベッタリとする事は無くなっていたが、それでも私への好意が昔よりも強まっているのがわかっていた。きっとちーちゃんはあの約束を忘れてない。今でもちーちゃんは私の事を好きでいてくれているんだ。


 だから……私はちーちゃんに言わなければいけない事があったんだ……


 それから数週間後。


 私はその日もちーちゃんの家にお邪魔した。


「ねぇ、あのさ……」

「え? ど、どうしたの、なっちゃん?」

「えっと、その……今日はちーちゃんに言わないといけない事があるんだ……」

「い、言わないとといけない事……?」


 私は真剣な顔をしてちーちゃんに話しかけた。するとちーちゃんはいつもと雰囲気が違うと察したようで、少しだけ緊張したような声を出してきた。


「実は私……来週引っ越すんだ」

「……え?」


 ちーちゃんは一瞬何を言われたのかわからない様子だった。


「ひ、引っ越すって……ど、何処に?」

「……とても遠い所だよ」

「と、遠い所って……そ、それって、ここから何分くらいで着くの? これからも毎日会えるんだよね……?」

「ううん、そんな近い距離じゃなくて、ここからはだいぶ遠いんだ。だからこれからはちーちゃんとはもう気軽には会えなくなるんだ……」

「そ、そんな……あ、会えなくなるなんて嘘だよね……? だ、だって……だって……ぐすっ……そんなの……」


 ちーちゃんは私の言葉を聞いて泣き崩れてしまった。 ちーちゃんを泣かせてしまった事が本当に心苦しく思った。


「だ、だって! ぐずっ……わ、私……なっちゃんと約束したのに……! 大人になったら……ひっぐ……私をお嫁さんにしてくれるって……言ってくれたのに……うぅ……」

「ちーちゃん……」


 ちーちゃんの嗚咽は止まらなかった。


「嘘つき! ひっぐ……や、約束したのに! ぐす……ずっと……ずっと好きだったのに……いつか約束が叶うって信じてたのに……ぐす、それなのに……なっちゃんがいなくなるなんて……そんなの……そんなの酷いよ……うぅ」

「ちーちゃん……」

「私の名前なんて呼ばないで! なっちゃんなんて嫌い! 嫌い嫌い! 大っ嫌い!!」

「ちーちゃん!」

「っ……!」


 涙を流しながら私の事を嫌いだと叫ぶちーちゃんの事を、私はぎゅっと抱きしめた。


「うぅ……名前呼ばないでよ……ぐすっ……なっちゃんの事なんて……もう嫌いなんだから……ひっく……」


 ちーちゃんは私の事を口では拒絶していたけど……でも私が抱きしめた時、ちーちゃんも腕を私の背中に回して抱きついてきた。


「ちーちゃんが私の事を嫌いになるのは当然だと思うよ。だから嫌いになってくれて構わないよ、本当にごめんね」

「うぅ……ぐす……」

「でもね……もしもちーちゃんがこんな私の事をまだ好きでいてくれるのなら……それなら私は必ずちーちゃんの所に帰ってくるよ。ちーちゃんとの約束を果たすためにさ……必ず帰ってくるよ」

「うぅ……ぐすっ……そんなの嘘だよ……きっと……なっちゃんは遠い所に行ったら……私の事なんてすぐ忘れるよ……ひっぐ」

「ううん、忘れないよ、絶対にさ。毎日メッセージだって送るし、電話だってするよ」

「ぐす……ひっぐ……でもきっと……お姉ちゃんみたいに彼女が出来て……すぐに私の事なんてどうでもよくなるよ……」

「大丈夫だよ、絶対に。だって私の好きな女の子はちーちゃんだけだから。だからさ……」

「ぐす……うぅ……え?」


 私はそう言って、ちーちゃんの前に小指を差し出した。


「ね、指切りをしよ。ちーちゃんが大人になったら、私も必ずちーちゃんの所に帰ってくる、絶対にさ。その間もこまめに連絡するし、もう二度とちーちゃんを泣かせたりなんてしない。だから、これからも変わらずちーちゃんと仲良くさせてほしいんだ……駄目かな……?」

「……ぐすっ」


 ちーちゃんは泣きながら自分の小指を差し出してきた。


「……嘘ついたら針千本だからね……ぐす」

「うん、わかった、約束だよ」

「……うん……」


 そう言って私達は指きりをした。昔したちーちゃんとの約束をちゃんと守るために。


「あっちに行っても、こまめに連絡するからさ。 他にも何かして欲しい事とかあれば言ってね」

「ぐすっ……それじゃあ……なっちゃんからの手紙が欲しい」

「え、手紙?」


 ちーちゃんのして欲しいお願いはちょっとだけ不思議なお願いだった。


◇◇◇◇


 大学生の頃。


 引っ越した土地での暮らしは順調だ。大学の講義やサークル活動、バイトなどにも慣れてきた。それとサークルやバイト先では何度か告白など受けたりもしたが、私はその都度“好きな人がいる”と言って全て断っていた。


 そういえばつい先日、ちーちゃんからの手紙が届いた。その手紙によるとちーちゃんは志望していた高校に無事に入学出来たそうだ。


 あの子は元々頭の良い子だったので心配はあまりしていなかったけど、それでも自分の事のように嬉しい報告だった。


 ちーちゃんは高校に入ってからも料理部に入ったらしい。得意な料理のレパートリーが増えたから楽しみにしてねと、手紙にはそう書いてあった。


 ちーちゃんの提案で始まった手紙をお互いに送りあうという風習は、今でもずっと続いていた。始めた当初は、スマホで簡単にメッセージが送れるのに、手紙まで送らなくてもいいんじゃ? って思ったりもしたけど、でもそんな事は決して無かった。


 何故なら手紙には手紙の良さがあったからだ。手紙を書くのには手間がとてもかかる。文字を沢山書くのにも、それを送るのにも、時間とお金がかかるんだ。だから、それだけの手間をかけて送ってくれた手紙には、当然、相手への想いが沢山込められているんだ。


 ちーちゃんからの手紙は学校の事だったり、家族の事であったり、友達や趣味の事など、本当に色々な事を私に教えてくれた。


「……ふふ」


 だから私も同じように、学校の話やサークル、バイト、趣味など、今の自分についての話を沢山書いて送った。もしかしたらちーちゃんと一緒に会って遊んでた頃よりも、手紙を送りあってる今の方が、お互いの事を分かり合えてるのかもしれない。


 そしてそんな想いの込められた手紙が少しずつ手元に増えていく度に、私はどんどんと幸せな気持ちになっていった。それはきっと、ちーちゃんも同じ気持ちだろう。


 そしてそんな手紙が増えていく度に、私のちーちゃんに会いたいと思う気持ちもどんどんと増えていくのであった。


 それからしばらく経つと私の就職活動が始まった。やりたい業種で関東地方勤務の所を探した。理由はもちろんあの約束があったからだ。


 就職活動はやっぱり大変だったけど、それでも何とか採用を得る事が出来た。あとは大学を無事に卒業するのみとなった。


◇◇◇◇


 そして現在。


 私はようやく大学を無事に卒業する事が出来た。今は東京行きの新幹線に乗っている所だった。


「次は品川~品川~」


 もう都内に帰ってきたんだなと思っていると、ちょうど私のスマホが鳴りだした。スマホにメッセージが届いたようだ。


『今東京駅に着きました。待ってます』


 それはちーちゃんからのメッセージだった。


『わかった。今品川を通過した所だから、もうすぐ着くよ』


 私も返信を送った。もう東京駅はすぐそこだ。


「次は東京~東京~終点です」


 それから数分して、東京駅に到着した。私は駅の改札口を降りて彼女を探したけど、すぐに見つかった。しばらく会ってなくてもわかる……あの子がちーちゃんだ。


「あ……」


 向こうも私に気が付いたようだ。私の方に向かって駆けだしてきた。


「おかえりなさい」

「うん、ただいま」


 久々に会ったちーちゃんは、とても綺麗な大人の女性になっていた。


「あら、髪の毛染めたの?」

「うん、高校卒業したから思い切って挑戦してみたの」

「そうなんだ。ふふ、ちーちゃんに似合ってて可愛いね」

「ありがとう。なっちゃんにそう言って貰えると凄く嬉しいよ」


 ちーちゃんは照れながらも嬉しそうな笑みを私に向けてきた。ちーちゃんの照れる姿はなんだかとても可愛らしかった。そしてそんな照れているちーちゃんに向けて、私は小さな小包を手渡した。


「はい、これ。18歳の誕生日おめでとう」

「え? あ……」


 今日は3月28日。この日はちーちゃんの誕生日だ。ちーちゃんに手渡した小包みは私からの誕生日プレゼントだった。


「なっちゃん、ありがとう。ねぇ、開けてもいい?」

「もちろん、いいよ」

「うん、それじゃあ……あっ……」


 ちーちゃんは小包みを開けると……その中には小さなペンダントが入っていた。ちーちゃんは嬉しそうな顔をしながらその小さなペンダントをゆっくりと箱から取り出していった。


「ありがとう……嬉しいよ、なっちゃん」

「そっか、それなら良かった」

「ねぇねぇ、早速付けてほしいな」

「うん、わかったよ」


 私はそのペンダントを受け取って、そのままちーちゃんの首元へと付けてあげた。


「はい、付けたよ」

「うん、ありがとう。どうかな、似合ってるかな?」


 ちーちゃんは一歩後ろに下がってくれた。


「ふふ、とても似合ってるよ」

「そっか、それなら良かった。本当にありがとうね、一生の宝物にするよ」


 ちーちゃんは顔を赤らめながらも笑顔でそう言ってくれた。その顔は今まで見てきたちーちゃんの表情の中でも、とびきりに可愛らしかった。


 そして私はちーちゃんが18歳の誕生日を向かえた瞬間に伝えたかった言葉を素直な気持ちで伝えた。


「ちーちゃんの事……大好きだよ」

「っ……」


 私は約束通り大人になったちーちゃんの所に帰ってきて、そして今日……私はついに初めての告白をした。ちーちゃんは私の言葉を聞いて一瞬黙ってしまったのだけど、でもすぐにちーちゃんは喋り出してくれた。


「……うん……私も好きだよ。ずっとずっと昔から……なっちゃんの事が大好きです……だから……」


 ちーちゃんは涙を流しながら……私の事をぎゅっと抱きしめてきた。そしてそのまま私に向かってあの日の約束を口にしてくれた。


「だから……私をアナタの一番大切な人にしてくれますか……?」

「はい、喜んで」


 私はちーちゃんの頭をぽんぽんと撫でてあげながら、そう一言だけ優しく伝えた。

(終)

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