二、決意
幼なじみの女の子のことが、ずっと好きだった。幼稚園からずっと一緒で、高校になって離ればなれになっても、私たちは仲の良い友だちどうしだった。
変わったのは、彼女に恋人ができてから。
『あのね、実は、彼氏ができたの。同じクラスの男子なんだけど』
電話越しだというのに、丸くて可愛らしい頬がどんな色をしているのかまで、よくわかってしまった。
「そうなの! よかったねぇ!」
がんばって声だけは弾ませた。口の端が引きつったこんな表情を、絶対に知られたくなかった。
委員会が一緒で、話が面白くて、顔は芸能人の誰それににていて……。嬉しそうな一言一言に胸をえぐられて、電話を切ると同時に涙が止まらなくなったのだった。
それからなんとなく、距離が開いていった。
しょうがない、と思った。そういうこともあるよ。そうやって諦めようとしていた。
生傷にうっすらホコリが積もったかな、という頃、彼女が彼氏と歩いているのを見かけた。
私の安っぽい諦めと感傷が、めらめらと燃え上がっていくのがわかった。
悔しい。
頬を染めて笑う横顔は、やっぱり可愛い。私だって、あの目を向けてほしい。隣にいたい。柔らかい腕に触れたい。
一度、認めてしまうと、たくさんの感情が次々とあふれだしてきた。
このままじゃ、一生引きずってしまう。
友人が失恋から立ち直ったのを見たのは、どろどろの感情を、一人でかき混ぜて煮詰めている時のことだった。
私も告白して、ちゃんと振られたら吹っ切れるんじゃない?
「感情食」で辛い気持ちを食べてもらえるなら。
それは希望の光だった。
心に決めた土曜日、ちょっと高級なお菓子屋さんでクッキーの詰め合わせを買った。中身はそう多くはないけれど、入れ物の缶がとびきり可愛いやつを選んだ。
感情を食べてくれる少女、川村葵。
彼女がこれを気に入ってくれますように。悲しみを食べてくれますように。そしていつかは、次の恋をみつけられますように。
気づいたら、告白のことよりも、その先ばかりを考えていた。
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