大人になったら叶えて
ショウ名
願い事
「ねぇ女神さま」
「なぁに」
「少し寒くない?大丈夫?」
「そう?じゃあ抱っこしてあげましょう。これで寒くなくなるわ」
これを言うと、必ず女神さまはこうしてくれる。
ぼくは、これが大好きだから、よく言うんだけど、うそをついてるみたいで、少し変な気持ちになる。
でも、抱っこをされるとあたたかくて、やわらかくってすてきな気持ちにぬり替えられちゃう。
それが好きだ。
ドーンッ。パンッ。
胸に響いて、体が固まる重い音がした。
でも大丈夫!ぼくもう慣れたから。ちょっと体が固まっちゃうけどね。でも女神さまはまだ怖いみたい。ぼくの体をぎゅうと強く抱きしめる。仕方がないなぁと女神さまを抱き返す。こうすると不安じゃなくなるって女神さまが言ってたから。
でも、なんの音なんだろう。
「大丈夫。ありがとう」
もう大丈夫らしい!さっきの音について聞いてみようかな。
「ねぇ女神さま。さっきの音ってなんなの?時々聞こえてきて、近くで鳴ったり、遠くだったりするけど。」
「……んー。何だと思う?」
「教えてくれないの?」
「あら、違うわよ。自分で考えたほうが学びになるかなぁって。」
「学び?」
知らない言葉だ。でも響きは懐かしい。
「そう、学び。いろんなものを知るってことよ」
「じゃあぼく、学び、したい!…さっきの音は鐘の音かな?ねっ、答えは?」
「うーん…わかんない。」
「えー!」
「私も学び足りないからなぁ。」
女神さまでも知らないことがあるんだ。初めて知った。あっこれが学び?かな。ちょっと楽しい。
「じゃあ。じゃあ、一緒に学びしよ」
「…大人になったらね」
少し抱きしめられる力が強くなった気がした。
でも約束できた!これで一緒に学び出来る。
嬉しくなって、体が軽くなっていたのに、
「のどが乾いた。」
カラカラだ。喉がくっついちゃいそう。
「もうすこし我慢できる?」
「ううん。ちょっと難しいかも。」
「…そっか。」
そういう声色は少し小さく感じて、
「やっぱりい」
「うん、用意できたよ。さっ、お飲み。」
引っ込めようとした言葉を、女神さまが引っ張り出した。ポタポタと音がする。飲み物がある。ぼくは、その温かい飲み物に飛びつくように飲んだ。引っ込めた言葉を引っ張られたから、勢いで飛びついてしまった。
苦くて、酸っぱい。これが美味しいなのか、ぼくは学びしたい。
そっと、飲み物が落ちる場所から口をどける。
「あらもう良いの?」
「うん。ありがとう。」
「…そう。」
あったかい。頭を撫でてくれている。うれしいな。
ふふ、うれしい。
「そっちは駄目!!」
少し手を横に伸ばしたら、怒られてしまった。声が響く。これは慣れてないな。でも、なんで女神さまは、こっちに手を伸ばせば怒られるんだろう?ちょっと、ほんのちょっとだけ気になる。
「…ちょっと寝るね」
少しだけいつもより低い声がして、怖くなった。怖いくない。怖いくないもん。大丈夫だから、少しだけ頭が重い気がした。
女神さまの寝息が聞こえた。スースーと落ち着く寝息。あったかい。
さっきの興味が突然飛び出そうになった。女神さまには引っ張られてないのに。
「ごめんね」
後で少し変な気持ちになるのは、やだから。
自分で自分の体を引っ張った。そこだけ少しざらざらの感じがなくって、ざらざらの感じがなくなるまで。前に。前に。進みすぎたせいか、何かが指に当たって…指がジンジンする。でもね、進みたいんだ。ね、女神さま。
周りにざらざらがなくなって、体を何か、何かが避けるみたいに通って行く感じがずっとある。
息を吸うと、何かが喉につっかえて息がうまくできない。苦しい。頭痛い。…女神さま
「おい!こっち子供いるぞ」
「嘘だろ!」
「人種は…大丈夫だ」
なんだろう。怖い。嫌だ。誰かの誰かたちの声が音がする。ここ、知らない、多い。や。
「ねぇ、僕?助けに来たよ。」
近い。暑い。何か込み上げてくる。目が痛い。指が痛い。口が揺れる。目が熱い。あ、ぼく泣きたい。
「家族は、いるの?」
あ、なんか話しかけてくれてるでも泣いちゃった。止めたい。止めたい、のに。口が揺れて、声が揺れて、鼻が詰まって、また泣きたくなる。声にできない。でも、声が出る。
どうしょうもなく、あの人に会いたい。
足が、ずっと縮こまってた足が動く。ねぇ僕、走る、できたよ。褒めてよ。抱きしめてよ
「お母さん!!」
手さぐりでさっきまでいた場所を探して、探して。指の痛いのが増える。けど、
「お母さん!」
さっきまでの温もりが、がらんとなくなった場所を見つけた。でも確かに、ざらざらの感覚はここだと言っていて、
「おい!こっちだ。女性がいる!」
「こんなところに。…腕から大量出血してる!応急処置を!」
母の冷めたい手を自分の目に当てて。
「ただいま。少し寒くない?大丈夫?」
ねぇお母さん。抱っこしてよ。温めてよ。僕、目が熱いから。温めてあげれるから。僕を温めてよ。
「っ坊や!こっちにおいで!」
急に腕を引っ張られる。痛い。
次の瞬間、ガラガラと音がした。嫌な予感がして、手探りで、お母さんを探す。少し手を伸ばしたらあったはずの場所が、ザラザラとチクチクで覆われてる。嫌だ。嫌だ。
周りの音が聞こえない。風も煙も感じない。
ねぇ女神様。僕のお母さんを助けて。まだ学べてないから。まだ約束果たせてないから。
その時、風が自分の腕を通り抜けた。
ふと、自分の手を舐めてみた。飲み物の味がした。
大人になったら叶えて ショウ名 @akisyuu
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