第2話 怒鳴られたのよ
長かった校長先生の話が終わり、アビーがあくびをかみ殺しながらメアリー達とお喋りしていると次のプログラムへと進む。各担任は整列している生徒達に周りとぶつからないように間隔を空けるように指示すると、アビーが担任に呼ばれる。
「早く早く!」
「えっと、何をするの?」
「いいから、その台に上がって! はい!」
「え……ちょ……」
担任に急かされるように朝礼台の上へと上がらせられたアビーは、他の生徒達の視線をまともに受ける。そして、朝礼台の前ではメアリー達アビーのクラスメイトが他の生徒達と向かい合う形で立っていた。それを見たアビーは一瞬で理解してしまった。そういうことかと。
「先生、聞いてないんですけど?」
「あれ? 言ってなかった? でも、そういうことだから、よろしくね」
「え~」
担任は朝礼台から離れるとメガホンを使って、グラウンド中に聞こえるように話し出す。
「今から、体操を始めます。え~これは体を動かす前にやっておくととてもいいことなので是非、覚えて下さいね~では、アビー、よろしくお願いします!」
「……分かりましたよ。ハァ~じゃあ、腕を前から上にあげて、大きく背伸びの運動から……」
アビーや他のクラスメイト達の動作に合わせて、全校生徒達がぎこちない動作で体操を始める。そして、それを見ていた観客である保護者達も同じ様に体を動かす。
「お、こりゃ……」
「うん、良い感じだな」
「確かにな……」
保護者達の評判もなかなかいいようで、それを横で聞いていたコーディ達も体を動かしながら満足そうにしている。孫娘であるアビーが最初は何をしているのか分からなかったが、アビーに教えられるままに体を動かしていると普段使わない部分も使っていることが分かり、それからは日課になったほどだ。
「他の連中も日課になるんだろうな」
「ああ、間違いないな」
ゴードンの呟きにコーディもニヤリと笑いながら返す。
アビーが歩だった頃にたまに体の調子がいいときに看護師さんにお願いしてまでやっていたラジオ体操だったが、アビーとして転生した今では歩けるようになってからほぼ毎朝行っている習慣だ。それを学校でも運動前にと軽くしていたのを担任の目に止まったのだ。
最初は他のクラスメイトも半信半疑だったが、アビーと一緒に体を動かしている内にこの体操には意味があることも分かっていった。
アビー指導のラジオ体操が終わったところで、アビーは軽く一礼してから朝礼台を下りて他のクラスメイトと一緒に整列すると、自分達のクラスのテントへと移動する。
「あ~緊張したぁ~」
「私もよ。あんなにジロジロ見られるのはあまり、いい気がしないわ」
「あ~それ分かる!」
「私はなんだか気持ちよかったかも……」
「「「え?」」」
メアリー達と一緒にテントに戻るとアビーは直ぐに呼び出しを受ける。
「アビー、もう行っちゃうの?」
「うん。もう、三十メートル走が始まるんだって」
「そうなのね。じゃあ、応援するから頑張ってね」
「うん、見ててね」
アビーはメアリーに手を振りながら三十メートル走で走る低学年の生徒達が集まっている場所へと小走りで急ぐ。
「遅いぞ!」
「……ごめんなさい。でも、遅刻した訳じゃないでしょ?」
「俺を待たせたんだ。それだけでも、十分だ」
「えっと……誰?」
「あ? 俺を知らないのか?」
「うん、知らない。で、誰?」
「お……お前! 本当に俺のことを知らないのか?」
「うん。だから、知らないってさっきから言ってるじゃない」
「……」
「アビーどうした?」
アビーはいきなり怒鳴られ萎縮してしまったが、よく考えなくてもまだ時間的には余裕があるはずだし、どうして自分が怒られているんだろうと不思議に思っていた。。しかも相手は名前も知らない相手だ。どうしたらいいんだろうかと考えているとそこにケビンとテッドが並んでやってきた。
「げ! テッドにケビン……」
「ん? お前は……確か……なまる?」
「テッド、違うよ。ナダルだよ。だよね?」
「あ、ああ。そうだ。ナダルだよ」
アビーの横に並ぶケビンとテッドを見てから、ナダルの様子がおかしい。それにしてもナダルのことはテッドは知らなかったようだし、ケビンもナダルの名前を自身なさげに呼んでいた。どういうことなんだろうとアビーは不思議がるが、ケビンとテッドはアビー以上になんでアビーがナダルに絡まれているのかが不思議だった。
「それで、そのナダルがアビーに何をしているんだ?」
「あのね「違うから! 俺は何もしてないぞ。いいな、俺は何もしてないからな!」……」
「なんだアイツは?」
「さあ? で、アビーは何があったのか話してくれるかな?」
「うん。あのね……」
テッドに聞かれてアビーが説明しようとしたところで、ナダルが急に割って入り何もしてないからとだけ強調して、この場から去ってしまった。そんなナダルをアビー達三人は不思議そうに見送るが、ケビンから聞かれたのでさっき起きたことを脚色なく正直に話すアビーだった。
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