第3話 睨まれたのよ
「そんなことがあったんだ」
「でも、そのナダルってのは何をしたかったんだ?」
「分からないよ」
アビーがナダルにされたことを素直にケビンとテッドに話してみたが、二人ともナダルがなぜそんなことをしたのか分からなかった。もし、この場にメアリーがいたならば、ナダルの行動を微笑ましく見ていたことだろう。
「そんなことよりもアビーは走るんだろ」
「うん、そうだよ」
「ケビン、負けられないな」
「負けるつもりはないよ。ないけど……多分速いよね」
「だろうな」
「どうしたの?」
ケビンとテッドの二人は屈伸しているアビーを見ながら静かに闘志を燃やす。
「は~い、三十メートル走に出る人はここに集まってくださ~い」
「あ、呼ばれた行かなきゃ。は~い、じゃあね」
「そうだな。じゃあな、テッド」
「おう、がんばれよ」
招集係からの呼び出しにアビーとケビンはテッドにまたと手を振り、招集係の元へと走る。
「お、アビーが走るみたいだぞ」
「どら、どんな子達と一緒に走るんだ?」
「なに、男の子と一緒に走るのかい?」
「アビーなら、ギューンよ。がんばれ~」
「なんで男の子と一緒なんだよ! 文句言ってくる!」
「いいから、黙って座ってなさいよ」
「でもよ「大丈夫、アビーは負けないから」……え? そうなの?」
「よく考えてみなさいよ。あの子は普段から山道を走っているのよ。学校がない日でもね」
「そういや、そうだったな」
「そういうこと。間違いなく一位よ」
「ん? なんかアビーをずっと睨んでいる子がいるぞ」
「まさか。気のせいじゃないの?」
「いや、アイツだよ。ほら、見て見ろよ」
「「「どれ?」」」
「アイツだ!」
マークが指を差した先にいたのはケイン……ではなく一コースのアビーとは反対側の六コースにいるナダルだった。ケビンはアビーの隣だったから、最初は自分が睨まれているのかと思ったが、ナダルの視線は自分を通り越してアビーを見ていることに気付く。
「なんなんだアイツは?」
「どうしたの? もうすぐだよ」
「ああ、そうだな」
ナダルの視線がアビー以上に気になったケビンだが、アビーからもうすぐスタートだと言われ前を向くと直ぐに「よ~い、スタート!」の掛け声と共に走り出す。
最初の一歩がすんなりと出たケビンはこのままイケるとゴールを目指すが、左側にいるアビーが少しずつ前に出ている感覚に自分が抜かれていることに気付く。そして、アビーの後ろ姿が綺麗に視界に入った瞬間にアビーに負けたことに気付く。
「やった!」
「でかしたアビー!」
「さすが俺の孫だ!」
「アビー速かったわよ!」
「やったわね!」
「速え……」
「ね、速かったでしょ」
「お、おお。ってか速すぎるだろ。ん?
「どうしたの?」
「ほら、アイツ……まだアビーを睨んでいるだろ」
「あ~そうか、そういうことなのね。ふふふ……」
「なんだよ。なにがおかしいんだよ」
「いいの。あなたも覚えがあるでしょ」
「なんだよ。わかんないよ」
「いいから、ほら。あなたまで睨まないの」
「いや、教えろよ」
ジュディとマークの会話から二組の祖父母も「そうだったのか」と納得する。
「アビーも隅に置けないな」
「何を言ってるんだ。悪い虫は早めに取り除かないと」
「もう、一匹や二匹片付けたところで一緒でしょうに」
「そうよね。いっそのことホイホイで一纏めにしたほうが……」
「「「え?」」」
自分がそんな風に思われているとも知らないナダルは一人運動場の隅で地面を蹴りながら悔しがっていた。
「なんでだよ! なんで勝てないんだよ!」
「そんなに地面をほったら他の人が転んじゃうよ」
「いいんだよ! 放っとけよ……アビー」
「うん、アビーだよ。えっと、確かナダル……だったよね? どうしたの?」
「なんでもないよ! いいから、あっちへ行けよ!」
「あっちへ行けって言われてもメアリー達が向こうで待っているんだけど……」
「アビーどうしたの?」
「「どうしたの?」」
「げ……」
ナダルがアビーに悪態を付いていると向こうからメアリー達三人がやってくる。そしてメアリーはナダルに気付くとアビーが絡まれていたのかと思いアビーに声を掛けるとナダルはその場から逃げ出してしまう。
「あ、行っちゃった」
「アビー、大丈夫だったの?」
「どうしてナダルといたの?」
「何かされたの?」
「大丈夫だよ。でもね、なんでか知らないけど怒られたの」
「「「怒られた?」」」
「そう、あのね……」
アビーはナダルに言われたことをまた最初から丁寧にメアリー達に話すとメアリーは「ケビンが」とだけ呟く。
「あまり気にしない方がいいよ」
「そうそう、だってナダルだし」
「「ね~」」
「ん? どういうことなのかな?」
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