第16話 出来たのよ

 お昼を済ませたアビーは家の外に出ると精霊達の様子を確認する。

「パティ、どんな感じ?」

『あ、アビー。あのね、アビーが言ってた熱いのがあるのは分かった。でもね、すっごく深いんだ』

「え~じゃあ、ダメなの?」

『ううん。ダメじゃないの。ポポ達と一緒に頑張れば出来ると思うんだ』

「じゃあ、出るんだね。やった~!」

『でもね、水量が多いから、このままじゃダメだよ』

「え? どうして?」

『もう、ここは山の上でしょ。そんな所から、たくさんの水を流したら下の方は大変なことになるでしょ』

「あ、そうか。じゃあ、どうすれば……」


『とりあえず、お風呂の場所を教えてもらえば?』

「そっか、そうだね。お風呂の近くに出さないと意味がないもんね。分かった。聞いてくる!」


 アビーは作業していた祖父達の元に向かうと、お風呂をどこに作るつもりなのかと聞いてみる。


「アビー、どうした?」

「そんなに慌てて」

「あのね、どこにお風呂を作るのか教えて欲しいの!」

「そうか。お風呂の場所はな……」


 ドン爺が着いて来いというので、アビーはドン爺とコー爺の後を着いていく。


「ワシ達が考えているのはここだ」

「ああ、どうだ。ここなら、風呂からの見晴らしもいいしな」

「うわぁ~」


『アビー、ここなら問題ないよ。下に沢も流れているからね』

『パティ。でも、熱いお湯をそのまま流すと魚とか他の生き物が困るよ』

『ポポの言う通りだよ。お湯のままじゃダメよ』

『そしたらさ、一度冷ませばいいんだよね。なら、沢に流す前に……』


 ピピは沢に流す前に一度、お湯を池の様な場所に溜めて熱を冷ましてから沢に流せばいいと提案する。


『凄いよ、ピピ!』

『へへへ』


 話を黙って聞いていたアビーは祖父達にピピの提案を話す。


「なるほど……確かに熱いお湯をそのまま流すのはマズいな」

「そうなると、沢の手前に溜める場所が必要になるな」


 二人の祖父が腕を組んで考える。


『ねえ、パティ。今の内にお湯を出してくれない?』

『分かったよ、アビー。やってみるね。皆、手伝って!』

『『『うん!』』』


 パティ達はお風呂の建設予定地の近くに行くと四人で地面に手を付ける。

『行くよ。いい?』

『『『うん。いいよ』』』

『じゃあ、おいらに合わせてね』

『『『分かった!』』』

『『『『せ~の……『掘削ディグ』!』』』』


 アビーは四人の精霊のやることを見守っていると、やがて地面の下から『ゴゴゴ……』と唸るような音が聞こえてくる。


『ねえ、パティ。細く少しだけ出すんだよね?』

『……ごめん。アビー』

『え? それって……』


「アビー、なんだこの音は?」

「地面の下から聞こえてきてるぞ」


『ブシュ……バシャ~』という音と共にアビー達の上から吹き出た温泉が降りかかる。

「なんだこれは……熱い?」

「うぉ! 本当だ! お湯が沸いてきた」

「ねえ、これでお湯の心配はしないでいいんだよね?」

「ああ、そうじゃな」

「おう、これで風呂は入り放題だ!」

「本当に?」

「「ああ」」

「やった~!」


「まだ、喜ぶのは早い。まずは風呂を作らないとな」

「そうだな。それにお湯を通すパイプも必要だな」

「え~そんなぁ」


 ガッカリするアビーに祖父達はニカッと笑い、アビー一人が入る風呂くらいならすぐだといい。その場で一メートル四方の木桶を作成すると、どんどん吹き出すお湯をそこに溜める。


「ほら、アビー専用のお風呂だ」

「どうだ?」

「……」

「どうした?」

「気に入らないのか?」

「ううん。ありがとう! コー爺、ドン爺」

 アビーは二人の祖父に抱き着きお礼を言うと、その場で服を脱ぎだす。

「アビー、何をしているんじゃ!」

「そうだぞ。人前で」

「え? だって、お風呂には服を脱がないと入れないでしょ」

「まあ、そうだが。ちょっと待て。ここはカーペンや家族以外の者が多い」

「そうだぞ。少し落ち着くんだアビー」

「え~」


『やっちゃえ!』

『『『そうだよ、やっちゃえ!』』』

『でも、どうやって……』

『任せて!』

「「「うわっ!」」」

 ポポがパッと目くらましのように光ってみせると、アビーに今の内だからと唆す。

「分かった」

 アビーはその一瞬の内に服を脱ぐと風呂に飛び込む。

『ドボン!』

 そんな音と共に目くらましの効果も消えると二人の祖父の前には気持ちよさそうに風呂に浸かっているアビーの姿が目に入る。


「いつの間に……」

「でも、気持ちよさそうだな。アビー、次は俺が入るぞ」

「分かったよ。でも、まだ僕が温まってからね」

「おう、その間に俺達は衝立でも作るか。なあ、ドン爺」

「そうじゃな。しかし、とんでもない孫娘じゃな」


「ふ~極楽極楽……」

「「……」」

 気持ちよさそうに風呂に浸かっているアビーを見ながら、衝立を立てる二人の祖父だった。

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