第15話 手伝うのよ
「ノム爺! 教えて!」
「ん? どうした、アビー」
「あのね……」
泉の畔に来るなり、ほぼ日課となっている卓球に興じていたノム爺を捕まえて教えて欲しいと頼み込む。
普段は大人しいアビーが来るなり、ノム爺に教えて欲しいと言うものだから、驚きつつもサラに断りを入れ卓球を中断すると、アビーの話を聞く体勢に入る。
卓球の相手がいなくなったサラ、普段は自分が出迎える役目なのにと少し不機嫌なディーネ、いつもなら相談相手は私なのにと嫉妬気味のシルフィもアビーのお願いに興味津々でノム爺とアビーを囲んでいる。
「なるほど。温泉か~」
「ダメなの?」
「いや、ダメじゃないぞ。確かに地中深くにそういう温かい水があることは知っている。じゃが……」
「はいは~い! そこは私の出番なの!」
「ディーネ?」
「おい、ワシが話している途中だぞ」
「いいから、いいから。アビー、いい?」
「何が?」
「もう、水のことなら私でしょ? 忘れるなんて非道くない?」
「あ! そうだった。でも、地面の下だよ?」
「もう、そんなの関係ないの! 地面の下なら、ノム爺に上まで引っ張ってもらえばいいだけなんだから」
「「「引っ張る?」」」
「だから、ノム爺が穴を開ければ後は私にお任せってことよ」
「「「ああ」」」
「やっと、分かったみたいね」
「それで?」
「え?」
「だから、ディーネの得意分野ってことは分かったけどさ。温泉は出るの出ないの?」
「えっと、それは……」
「それは?」
「地面の下だから、よく分からないかな? テヘッ」
ディーネはちょっと先走ったかなと思いつつ舌を出し、アビーに謎のアピールをする。
「じゃあ、ノム爺。僕の家の近くに温泉があるかどうか知りたいんだけど、分かるかな?」
「アビーの家の近くか……と、なるとこの結界から出ることになるが、それは避けたいな」
「え~」
「まあ、待て。そう焦るな」
そう言ってノム爺は側にいた一人の精霊を呼び寄せる。
『何? ノム爺』
「ほれ、パティよ挨拶せんか」
『おいらはパティ。ノム爺に土魔法のことを教わっているんだ。よろしくな』
「うん、よろしく」
アビーはノム爺に紹介されたパティと挨拶を交わし、パティを肩に乗せる。
「アビー、コイツを連れていけ」
「え? いいの?」
「ああ。そうだな、パティ結界は張れるか?」
『うん。それなら、ポポ達に聞いたよ』
「なら、忘れないうちに張っておけ」
『分かった!』
「そいつが家の回りで地面の下を探って、温泉が出るか調べてくれる。頼んだぞ、パティ」
「へ~よろしくね」
『うん! 任せて!』
『『『ちょっと、待ったぁ~!』』』
「「「ん?」」」
アビーとパティが頷き合い、親交を深めようとするとポポ達からの『ちょっと待った』コールが掛けられる。
「どうしたの?」
『どうしたのじゃないわよ!』
『そうよ、私達がアビー担当なのよ!』
『温泉なら私達が見付けるの!』
『『『そうなのよ!』』』
『でも、地面の中のことは分からないでしょ?』
『『『確かに……』』』
『なら、おいらに任せてポポ達は引っ込んでな!』
「もう、そういうこと言わないの!」
アビーがポポ達を挑発するパティの口を押さえて黙らせる。
『ふがふが……』
「もう、こんなことでケンカしないの。別に皆でやればいいじゃないの」
『『『でも……』』』
「やり方が分からないなら、ノム爺に教えてもらって、パティと一緒にすればいいでしょ」
『『『あ、そうか! ノム爺!』』』
「あ~分かった、分かったから。まずは落ちつけ」
『『『うん! だから、早く!』』』
「ったく、調子がいいな。じゃあいいか? まずはな……」
『『『うんうん、それで……』』』
ノム爺の指導はアビーが帰るまでになんとかギリギリ合格ラインに達したようなので、アビーはいつものポポ達三人と新しくパティを加えた四人の精霊と一緒に山を下る。
「ただいま、ドン爺! コー爺!」
「「お帰り!」」
いつもの様に二人の祖父に抱き着くアビーを優しく受け止める二人の祖父。時々はアビーの勢いに負けそうになる時もあるがまだ倒れるほどではない。
「ははは、いつも元気がいいな」
「そんなに山の中は楽しいか?」
「うん、楽しいよ。だってね……ううん、なんでもない」
「「ん? そうか」」
ディーネやポポ達のことを言おうとして焦って口をつぐむ。
『じゃ、アビー。私達はちょっと見てくるね』
『うん、お願いね。蜂蜜を用意しとくね』
『『『『は~い!』』』』
「今日はいつも以上に機嫌がいいように思えるな。気のせいかな?」
「いや、ドン爺。気のせいじゃないぞ。俺にもそう見えるからな」
「もう、そんなことはいいから、お昼だよ。ほら!」
「分かった分かったから、そう押すな」
「こりゃ楽だな」
「う~ん、もうコー爺、ちゃんと歩いてよ!」
「ははは、頑張れ頑張れ!」
「もう!」
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