第14話 入りたいのよ

「ただいま~あれ? お爺ちゃん達がいない?」

「あ~ゴードンさん達なら、村に行くとか言ってたぞ」

「そうなんだ。ありがとう、おじちゃん」

 カーペンがアビーに祖父達が不在だと教えてくれた。


 アビーはカーペンの側に行き、ちょっとだけ質問してみる。

「ねえ、おじちゃん。お風呂って難しいの?」

「ん? 風呂か。まあ、作るのは難しくはないが、お湯を張るのが面倒かな」

「どうして?」

「どうしてって、風呂が小さいのならお湯を温めるのはそれほど時間も掛からないだろうから使う薪もそれほど必要はないだろう。でも、ある程度大きくなれば薪も多くなるし、お嬢ちゃんのところみたいに家族が多いと、皆が入り終わるまでに何度かお湯を温めないとダメだろうな。そうなると水汲みに燃料代といろいろだな」

「ふ~ん、そうなんだ」

「そうなんだって、お嬢ちゃん分かってる?」

「うん。分かってるよ。水なら、家は井戸じゃなく沢からだから、水汲みはキツくないよ。だから、あとはお湯にするのをどうするかでしょ」

「ま、まあそういうことだな」

「ありがとうね、おじちゃん」

 アビーはカーペンにお礼を言うと家に入る。

「今度はお風呂でも作るのかな」


「ただいま~!」

「「「おかえり!」」」

 いつもの儀式として、ジョディ、ソニア、ジュディの順に抱き着く。

「ねえ、お母さん。お風呂に入りたくない?」

「アビー、お風呂には入りたいけど、いろいろと大変でお金が掛かるのよ。だから、この家では無理ね」

「うん、さっきカーペンさんにも聞いたの」

「あら、そうなのね。なら、どうして無理かも分かったのね」

「うん。分かったよ。だから、お湯をどうにかしないとダメなんでしょ」

「そうよ。お水なら、いっぱい使い放題なのにね」

「ほら、さっさとお昼にするよ」

「「は~い!」」


 アビーが外のブランコで遊んでいると夕暮れ前に二人の祖父が帰って来た。

「お帰り!」

「「ただいま!」」

 二人の祖父に抱き着くアビー。


「アビー、契約を済ませて来たぞ」

「これでアビーに好きな物を買ってやることが出来るぞ!」

「ホントに? なら、お風呂が欲しいの!」

「「お風呂?」」

「うん。そう、お風呂。お父さんとお母さんと一緒にお風呂に入りたいの」

「そうか。お父さん達と一緒にか」


 アビーは歩だった頃、殆どを病院で過ごした為に誰かと一緒にお風呂に入るという経験をしたことがない。テレビの向こう側ではよく銭湯や旅館、それに家のお風呂に家族で一緒に入っているのを見ていた。

 だから、アビーとなった今でも家族と一緒にお風呂に入りたいと思っていたが、カーペンやジュディが言うように一般的な家庭でお風呂を作ることは出来ても、お風呂の用意をすることが大変だということに気付く。だが、祖父達はメアリーの父親が営む雑貨屋と契約を済ませてきたと言うのでお風呂をねだってみた。


 しかし、祖父達の顔は暗い。

「アビー、契約は確かに済ませたが、お風呂を作って毎日入れるような金額じゃない。すまんな」

「それに契約したと言ってもあっちがボールを売ってくれないことには俺達には金が入ってこない。だから、お金になるのは当分先だな」

「そうなんだ。じゃあさ、お風呂の場所だけ決めて作っちゃおうよ」

「「……」」

 アビーの無邪気な提案に祖父達が黙り込む。

「どうしたの?」

「アビー、話は聞いて分かってくれたんじゃないのか?」

「うん。分かったよ。でも、お風呂の場所を決めてお爺ちゃん達とアビーの家で入れるようなお風呂を作ればいいんでしょ。お湯を温めるのはコー爺が作れるし、お風呂専用の家はドン爺が作れるでしょ」

「そうじゃな。アビーの言う通りだな。風呂も毎日入らないなら、それほど出費にはならないだろう」

「それもそうか。じゃあ、俺は風呂釜でも作るか」

「うん!」

 こうして、祖父達を巻き込んでアビーのお風呂作りが始まった。

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