第13話 隠れるのよ

「おはよう!」

「「「おはよう!」」」

 学校へ行き教室に入るといつもの様に挨拶を交わす。


「アビー! お爺ちゃん、凄いね!」

「え?」

「ほら! 私のお父さんがアビーのところに行ったでしょ!」

「う、うん。来たよ」

「それでね、帰って来たお父さんが『いいものがあった!』って、言ってね。馬車から降ろした物を組み立てたら……」

「ら?」

「ずっと乗ってたのよ。お母さんに怒られるまで、ずっと!」

「へ~」

「後で私も乗せてもらったんだけど、楽しかった!」

「そうなんだ」

「「なんの話?」」

 教室に入ってきたアビーに挨拶を済ませると同時にメアリーがブランコの話をしだしたものだから、サンディとニーナには二人が何を話しているのか分からなかった。


「あ、ごめんね。あのね、昨日私のお父さんがね……」

 メアリーが昨日のことをサンディ達に話して、何が楽しかったのかを説明する。

「へ~じゃあ、メアリーの家には、その『ブランコ』があるの?」

「じゃあ、学校の帰りに寄ってもいい?」

「いいわよ! でも一つしかないからね。ケンカはしないでよ」

「「うん! 楽しみ」」


『ガラッ』と音がして、教室の扉が開かれると教師が入ってくる。

「「「おはようございます!」」」

「はい、おはようございます」


 教師が挨拶を終えると、黒板に『したいこと』と書く。

「はい、皆、読んで!」

「「「したいこと!」」」

「はい、そうです。よく出来ました」

 教師に言われ読んだはいいが、なんのことだか分からずにアビー達は騒つく。

「はいはい。今から、説明するから静かにね」

 教師が手を叩き注目を集めると静かにするように言う。


「では、この『したいこと』を説明しますね」


 教師が言うには、そろそろ涼しくなってきたので、皆で一緒に何か『したいこと』がないかということだった。


 アビーはこの世界については、まだ何も分かっていない。

 この世界の名前は? 自分が立っている惑星ほしの名前は?

 大陸の名前、国の名前、村の名前など、まだ何も分かっていないというか、習っていない。


 今は単純な文字の読み書きや数え方を教えてもらっているにすぎない。

 そして、今の季節は夏が終わりかけて秋になろうとしていることらしいというのが、分かった。


 そして、アビーは歩だった頃に夏になるとテレビでは様々なスポーツや運動会の様子が放送されていたことを。


 だから、アビーは歩だった頃に参加出来なかった運動会に対し妙な憧れがある。

 そして、今は『したいこと』を自由に言ってもいいという。


「僕、運動会がしたい!」

「「「うんどうかい?」」」

 アビーが手を挙げ、いきなりそういうこと言うが、教師はもちろん、他の子供達もアビーが言っていることを理解出来ないでいる。


「アビー、うんどうかいって何?」

「うん。あのね、運動会っていうのはね……」


 アビーが説明しながら、教師はアビーが言うことを黒板に書いていく。

 一通り、アビーが内容を説明した後に教師が黒板に書かれた内容を確認する。

「これは、おもしろそうね。皆はどう思う?」

「「「やってみたい!」」」

「そうね、じゃあアビー。一つずつ説明してもらえるかな?」

「うん、分かった!」

「じゃあ、まずは徒競走からね」

「うん! あのね、徒競走はね……」


「アビー、ありがと」

 教師はアビーに礼を言うと、黒板に書かれた内容を確認する。


「いっぱいあるのはいいけど、とても一日では終わりそうにはないわね」

「なら、分けるか、どれをするのか選べばいいと思うの」

「そうね、アビーの言う通りね。皆、これは一度先生達で考えるわ。それまで待っててね」

「「「は~い!」」」


 そして、いつも通りにグラウンドに出ると、縄跳びで遊ぶ者、ドッジボールで遊ぶ者に分かれているが、メアリー達の目はアビーに何かを期待している。

 そして、それはメアリー達だけではなくユーリ達も同じな様でアビーに何かを期待している。


「「「で? 今日は何をするの?」」」

「え~」


 メアリー達が期待するのは分かるが、急に新しい遊びを要求されてアビーは悩む。

 縄跳びは飽きたし、ドッジボールをしようにもボールは一つしかない。


 どうしようかと考えていると、ちょっと短めの丸太がアビーの目に入る。

「ちょうどいい、空き缶サイズ!」

 アビーはそれを手に取ると、メアリー達に缶蹴りを提案する。


「「「缶蹴り?」」」

「そう! 遊び方はね……」

 アビーはメアリー達に缶蹴りの遊び方を説明すると、最初は自分が鬼になるからと言って、丸太に足を掛けると目を瞑り数え出す。

「い~ち、に~い、さ~ん……」

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