第12話 欲しいのかよ
泉の畔に着くといきなり抱き着かれる。
「もう、ディーネ。いきなり抱き着くのは危ないでしょ!」
『私じゃないわよ』
「え? ディーネ……じゃあ、これって、シルフィ!」
『もう、耐えきれないの! どうにかしてよ!』
「どうにかって、何を?」
『あれよ!』
そう言って、シルフィが指を差すのは卓球に興じるサムとノム爺だった。
『もう、朝から晩までカンコン、カンコンって……』
「なら、結界を張ればいいのに」
『へ?』
「だから、あの卓球台の周りに結界を張ればいいんじゃないの?」
『あ~なるほど! さすが、アビーだわ!』
アビーから離れたシルフィはアビーのアドバイス通りに卓球台の周りに遮音結界を張る。
『うん! 大丈夫ね。もう、あの煩わしい音は聞こえないわ』
「もう、シルフィも案外抜けてるね。ちょっと考えれば分かりそうなのにね」
『もう、言わないでよ!』
『ねえ、アビー。あなた、最近魔法を習ってないでしょ? もう、飽きたの?』
「ううん。違うよ」
『でも、習ってないわよね』
「うん。だって、残っているのは殆どが攻撃魔法だもん。そんなの、ここでも使えないし、覚えても使うところもないし、使う気もないけどね」
『そっか、じゃあしょうがないね』
「うん。だから、今は遊ぶの!」
『そうね、遊びましょうか!』
「うん!」
『ねえ、アビー。精霊界に行ってみたいと思わない?』
「え? 何? シルフィ」
ディーネと水魔法で遊んでいたアビーにシルフィがいきなり、そんなことを言い出す。
『ちょっと、待って! いくらアビーでも無理でしょ』
『そうかな?』
『そうよ!』
『だって、精霊は見えるし、話せるし、精霊魔法は使えるんだから、精霊王も会いたいんじゃないの?』
『それはそうかも知れないけどさ。それがある意味、一番怖いかもね』
「怖い?」
『あ! アビーが思っている『怖い』とは質が違うからね』
『で、どうする? アビー』
「ん~会ってみたいけど、今からだと遅くなるから。今日は無理!」
『そうね。私も連れて行ってもいいか、確認しとくわ』
しばらくしてアビーは山を下りて家に向かっていると、家の前に見知らぬ馬車が停まっているのに気付く。
「コー爺、ドン爺、ただいま! あれ?」
「二人なら、家の中だよ」
「ありがとう、おじさん!」
二人の祖父は家の中にいるとカーペンに教えられ、家の玄関を開ける。
「ただいま……あ、お客さん?」
「お帰り、アビー」
ソファに見知らぬ男が座っていることに気付き立ち止まるアビーをジュディが迎える。
「アビーにも関係することだから、こっちにいらっしゃい」
ジュディに呼ばれると、ゴードンが膝の上に座るように言うので、そのままゴードンの膝の上によじ登り座る。
「君がアビーちゃんだね。初めまして。私はキリス。下の村で雑貨屋を営んでいる」
「はぁ……」
「まあ、分からないか。じゃあ、こう言えば分かるかな。メアリーの父親のキリスだと」
「メアリーのお父さん……」
「そうだ。メアリーから新しいお友達が出来たと聞いてはいたが、こんなに可愛らしいお嬢さんだったとはね」
「キリスさん。先程のお話の続きですが、アビーに確認してもいいですか?」
「ええ。是非!」
「アビー、キリスさんはお前に作ってあげたボールを売りたいと言っているが、いいか?」
「ボールを?」
「ああ。聞けば、学校でもアビーちゃんが作ってもらったたった一つのボールで遊んでいるとメアリーから聞いている」
「うん。そうだよ。だから、皆で遊べるようにしたんだ」
「ああ、それも聞いた。なんでもテッドとかいうガキ大将をやり込めたともね」
「アビー、それは本当なの?」
キリスが言ったことが本当なのかとジュディがアビーに確認する。
「別に何もしてないよ。ただ、ボールを寄越せって言うから、それなら一緒に遊ぼうって言っただけだし」
「ふふふ。それでも、そのテッドとかいうガキ大将は、結局一緒に遊んだと聞いた。なかなかやるじゃないか」
「もう、メアリーのおしゃべり!」
「そうじゃないでしょ! なんで、年上の男の子とやり合おうとするのよ!」
「別にケンカしようとしたわけじゃないよ?」
「それでもよ!」
アビーが年上のガキ大将とケンカしようとしたと聞き、ジュディは興奮してしまう。
そんなジュディに対し、コーディが落ち着くように言う。
「ジュディ、落ち着きなさい。キリスさんもアビーがケンカしたとは言ってないだろ」
「でも……」
「話が続けられないから、少し黙ってなさい」
「はい……」
今度はジョディから、黙るように言われたジュディは俯き黙り込む。
「いや、私の言い方が悪かったね。申し訳ない」
「お気になさらず。お話の続きを」
「そうですね。では、続けさせてもらいます。まず、あのボールを売りたい。これを承知して欲しいと思っています。これはいいですね」
「「ああ」」
「アビーはいいかい?」
「うん。ボールが増えるのならいいよ」
「では、次に作り方を教えて頂いてもよろしいですか?」
「それについては一つ、確認したい」
「なんでしょうか。ゴードンさん」
「あなたの店で作って売るのは構わないが、私達がアビーに作るのも許して欲しいのだが、構わないか」
「ええ。それはご自由に。ただ、それをアビーちゃんではなく、他の子にあげたり売ったりするのは正直、止めて欲しいですね」
「まあ、それはそうだろうな」
「ですから、こういう契約書を用意させて頂きました。内容をご確認頂きましたら、三人の署名をお願いします」
「「「三人?」」」
「ええ。三人です。ゴードンさんにコーディさん、それにアビーちゃんの三人です」
「分かりました。では、熟読させて頂き、明日お店の方へお持ちします」
「はい。それで十分です。後……」
「まだ、何か?」
キリルは床に置かれた積み木に目を向けるとアビーがそれに気付く。そして、それに気付いたコーディがキリルに問い掛ける。
「アレが気になるのか?」
「ええ。気になります。もしかして、アレもお二人がアビーちゃんの為に?」
「うん! お爺ちゃん達が僕に作ってくれた積み木だよ!」
「積み木……ですか。では、家の外に三つ置いてあるアレは?」
「アレもお爺ちゃん達が作ってくれたの! 楽しいよ!」
「そうですか……楽しいですか……」
「おじちゃんも乗ってみる?」
「いいのかい?」
「うん! 一緒に乗ろう!」
「ああ」
アビーに乗り方を教わりブランコの楽しさを知ってしまったキリルは、村に帰る頃にはコーディに頼み込み解体したブランコを馬車に積んでほくほくとした顔でキリルは帰って行った。
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