第10話 乗ってみたかったのよ

「ただいま、ドン爺! コー爺!」

「「お帰り!」」

 家に帰ってきたアビーを見て、コーディが気付く。

「アビー、ボールは忘れてきたのか?」

「あ……」

「ん? どうしたんじゃ、アビー」

「怒らない?」

「大丈夫。怒らないから、言ってみなさい」

「ん。あのね、実はね……」


 学校に持って行ったボールが思いのほか人気で、一つのボールを取り合うまでになったがアビーは明日が休みなのでボールを持って帰ろうとしたところで、皆の視線がボールに集中しているのに気付き、そっとメアリーに渡すと「後はお願い!」と言い残し、帰って来たと二人の祖父に説明した。


「そうか、そうか、お友達といっぱい遊んだか……」

「でもよ、ゴードン。沼ガエルの革はあれ一枚だったんだぞ」

「まあ、そう言うな。アビーの友達が増えたと思えばいいさ」

「それもそうか。でもなぁ……」

「もう、コー爺。皆が喜んでいるんだから、いいじゃない」

「ああ、それは分かっている。分かってはいるがな」

「ふふふ、アビー。コーディはアビーに作ってあげた物が他の子に使われるのが、ちょっとだけイヤなんじゃよ。まあ、ワシも少しは思うがな」

「ドン爺も怒ってる? 僕がしたことはダメだったの?」

「ダメじゃない。ダメじゃないが、アビーに作ってあげた物が、今ここにない。それが少しだけ寂しいと思えるかな」

「なんで?」

「どうするよ、ゴードン。俺は上手く説明出来ないぞ」

「それはワシもだが……ん~」

 アビーに自分達の気持ちをどう説明したものかと考えるが、どうも上手く説明出来そうにない。

「ねえ、あのボールはお友達にあげたんじゃないよ。でも、あれがないとドッジボールで遊べないから貸したんだよ」

「コーディ、アビーを叱ることは出来んよ」

「そうだな。でも、ボールを作るにはまた仕入れてこないとな」

「そのくらいなら、明後日にでも行けばいいさ」

「そうか。そうだな。アビー、ボールならたくさん作るから、友達と遊ぶがいいさ」

「うん!」


 祖父二人と手を繋ぎ家に入ると、ジュディ達に迎えられる。


 お昼を済ませたアビーは、また祖父達と外に出ると、あるおねだりをする。

「ねえ、こういうのを作って欲しいの」

 アビーが地面に絵を描いて、二人の祖父に作って欲しいとお願いしたのは、公園によくある遊具の『ブランコ』『シーソー』『平均台』『滑り台』『鉄棒』である。

「こんなにか?」

「うん! ダメ?」

「ダメじゃないが、全部をいっぺんには無理だぞ」

「え~じゃあね、これ! これを最初に作って!」

「これか……ゴードン、どうだ?」

「そうだな。丸太にロープに板か。材料だけなら、揃っているな」

「出来る?」

「「ああ!」」

「やった!」

 アビーが二人の祖父におねだりしたのはブランコだ。

 ブランコなら、丸太を組み合わせた後は、地面に固定して、板に縄を通して、上の丸太からぶら下げれば出来上がりだ。


 二人の祖父もアビーが地面に書いた拙い絵を頼りに高さ一メートル八十センチメートルほどのブランコを組み立てる。


「うわぁ~ブランコだ~ありがとう! コー爺! ドン爺!」

 アビーは二人の祖父に抱き着き、お礼を言う。

 お礼を言われた二人はそれほど苦労して作った物ではないが、こうやって礼を言われると嬉しくなる。


「なあ、アビーよ。作ったはいいが、これはどうやって遊ぶんだ?」

「そうじゃな。それはワシにも分からんな」

「えへへ。これはね……」

 アビーはブランコの座板に座ると一度、後ろに下がり、傾斜着いたところで地面から足を離し、こぎ出す。

「あ、出来た!」


 歩だった頃、病院への行き帰りの車の中から見かけた公園内のブランコで遊んでいる子供達の姿を思い出し、見よう見まねでやってみたが上手くこぐことが出来たことに喜ぶ。


「へ~こんな感じなんだ。楽しい~」


 アビーの楽しそうな顔を見ていた祖父達が動き出す。

 どうやら、自分達もブランコに乗ってみたいが、折角楽しんでいる孫をどかしてまで乗りたいとは思わない。だけど、乗ってみたい。なら、もう一つ作ればいいんじゃないか。という結論にいたり、自分達でそれぞれのブランコを作り出す。そして、その横にはもう一つブランコが。計四つのブランコが作られているのに気付くのは、アビーを含めた四人が一斉にこぎ出してからだった。

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