第9話 一緒に遊ぶのよ

 次の日、学校のグラウンドでアビーは祖父達が作ってくれたボールを使って、ドッジボールで遊んでいた。

「アビー、いいわね。これ」

「うん! お爺ちゃん達が作ってくれたの」

「ふ~ん」

「メアリー、こっち!」

「うん、いくよ!」


「おい!」

「「「……」」」

「お前だよ! こっちに来い!」

「「「……」」」

 さっきから、遊んでいるアビー達を呼ぶ声がするが、アビーはそれを無視し続ける。すると、痺れを切らしたのか、ボールを投げようとしたアビーの腕を後ろから掴む。

「おい! さっきから、呼んでいるだろ。聞こえないのか!」

「……」

「おい!」

「僕は『おい』とか『お前』じゃないよ。アビーだよ」

 そう言って、腕を掴んでいる相手を見据えると、そのまま掴まれた手をアビーは自分で離す。

「あ……」

 まさか、自分より小さい女の子に掴んだ手を離されると思ってなかった男の子は驚く。


「それで?」

「あ?」

「だから、僕に用があったんじゃないの?」

「あ、ああ……そうだ! お前、調子に乗るんじゃねぇ!」

「え? どういうこと?」

「それだ!」

「どれ?」

「それだよ!」

 アビーに突っかかってきた男の子はアビーが持っていたボールを奪い取ろうと手を伸ばしてくる。

 驚いたアビーだが、どうにかそれを躱す。

「何するの!」

「いいから、それを寄越せ!」

「イヤだ! これはお爺ちゃん達が僕に作ってくれたんだもん!」

「いいから、寄越せよ!」

「止めなさいよ!」

「「「そうよ!」」」

 メアリー達がアビーの前に立ち、アビーからボールを取り上げようとする年上の男の子から守るようにする。

「なんだ、お前達は?」

「なんだじゃないでしょ! 上級生が小さい子を虐めていいの!」

「「「そうよ、そうよ!」」」

「ちっ! うるせえなぁ。いいから、それを寄越せよ!」

「もしかして、これで遊びたいの?」

「……」

「どうなの?」

「ああ、そうだよ。遊びたいんだよ! 悪いか!」

「じゃあ、一緒に遊ぼうよ!」

「はぁ? なんで俺が……」

「だって、遊びたいんでしょ? なら、一緒に遊ぼうよ。ね?」

「……」

「アビー、大丈夫か?」

「ケビン、この男の子が遊びたいんだって」

「この……って、テッドが?」

 グラウンドでアビー達が絡まれているのを目撃したケビンがアビーを心配して近付くとアビーは、あっけらかんとケビンに話す。そしてケビンがテッドと呼んだアビーに絡んできた少年は、アビー達より年上で十歳になる。いわゆるこの村のガキ大将的存在だった。その性格は十歳の割には力もあることで、少々乱暴ではあるが親分肌なところもあることから、周りの子供達には慕われている。


 今回、アビーに絡んできた時もよく見れば、その後ろにはテッドを慕う子供達がいた。


「はい! じゃあ、皆で枠を大きく書いて!」

「「「おう!」」」

 いつの間にかアビーの仕切りで、アビー達よりも年上の子供達を含めて五十人近くでのドッジボールをすることになる。

「じゃあ、次は半分に分かれよう!」

「「「おう!」」」

「じゃあ、そっちはテッドに任せるね。こっちはケビンが集めてね」

「「あ、ああ」」

『アビーじゃないのかよ!』と誰もが心の中で突っ込むがアビーはまだ、この学校の子供達のことを把握していないので無理と思いケビンに託した。


「アビー、分けたよ」

「ああ、分けたぞ」

「じゃあ、今度は中と外に分けてね」

「「……分かった」」


 ケビンとテッドは不承不承に頷き、それぞれチーム分けしたメンバーを中と外に分ける。


「終わったみたいね」

「アビーは俺達のチームだろ?」

「僕は入らないよ。ほら、ケビンもテッドも真ん中に来て」

 アビーに呼ばれたケビンとテッドはコートの真ん中に立つと、アビーから準備はいいかと聞かれ互いに頷く。

「じゃあ、行くよ。はい!」

 アビーはボールを持つと、一瞬屈んでから手に持っていたボールを上に放る。

 それを合図にケビンとテッドは互いにジャンプするとボールを取り合う。

「よし! やったぞ」

「くそ!」

「いくぞ!」

 ケビンはボールを手にすると、テッド達のコートに向かってボールを投げる。


「やっぱり、ドッジボールは大勢で遊ばないとね」

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