第7話 聞こえるのよ

「ただいま~」

「「「おかえり~」」」

 家に入るといつものように迎えてくれるジュディ達に抱き着く。


「ねえ、アビーは山にいたんでしょ?」

「うん、いたよ?」

 ジュディにそう聞かれ、アビーは訝しむ。何故なら、アビーは午前中は山の中で遊ぶのがいつものことなのだから、改まって聞かれるとどうしてジュディは、そんなことを聞くのかと。


「アビーは気にならないの?」

「え? 何が?」

「ほら! 聞こえないの?」

「ん?」

 ジュディに言われ、耳を澄ますと『カコーン、カコーン……』と音が山の方から聞こえてくる。


「ね? 聞こえてくるでしょ? 昨日までは……ん~アビーが山に行くまでは聞こえてなかったの。だから、アビーは何か知っているのかなって、思ったんだけどね」

「え?」

 ジュディにそう言われ、アビーは自分の動悸が早くなるのが分かる。

『分かるか?』と聞かれれば、十分過ぎるほどの心当たりがありまくりだ。


「僕、お爺ちゃん達、呼んで来るね」

「そう……お願いね」


 家を出ると、陰に入り転移ゲートで泉の畔へと戻る。


「サラ! 大変なの!」

『ん? アビー、どうした? そんなに慌てて』

「音が家まで聞こえてるの!」

『音? なんのことだ? そこ!』

『あ! もう、イケたと思ったのに……』

 サラにスマッシュを決められたディーネが悔しがる。

『で、なんの音が聞こえているって?』

「それ! その音が、家まで聞こえてきてるの!」

『あらら、それは大変ね。じゃあ、ちょっと遮音結界を張っておきましょうね』

「シルフィ、もう結界が張れるの?」

『ええ、これもアビーのお陰ね。ここの結界は随分前に大先輩が張ってくれたのだけど、音漏れは出来ていなかった訳じゃないのよ』

「でも、聞こえてたよ?」

『あ~それね。それはほら、アレよ』

 そう言って、シルフィーが指差すのはスマッシュを決め、得意気に笑うサラの姿だった。

『なんかね、サラの打ち込む音だけが凄いのよ』

「あ~」


 状況をなんとなく理解したアビーは、音漏れに気を付けるようにお願いして、転移ゲートで家に戻る。


 家の物陰から出ると建設現場の祖父達の元へ向かう。

「じいちゃ~ん、ご飯だよ~」

「おう、アビー。いいところに」

「来てごらん」

「え? 何?」


 二人の祖父に呼ばれ、祖父達の元に向かうと、そこには箱に収められた積み木があった。

「うわぁ~作ってくれたんだ!」

「ああ、二人で作ってみたぞ。どうだ?」

「箱にキッチリ収められるようにしたのは苦労したぞ」

「ありがとう! ドン爺、コー爺! 大好き!」

 二人の祖父に抱き着きお礼を言うアビーと、孫バカな祖父はそんなアビーにデレデレだ。

「それでアビー。これはどうやって遊ぶんだ?」

「ああ、そうなんだ。俺達も作ってはみたが、遊び方が分からない」

「え? どうやって遊ぶって言われても、えっと、これはね……」

 アビーは木箱を引っ繰り返すと、適当に選んだ積み木を重ねて、家にしたり、塔にしたりと積み木の組み合わせで、色んな形を作って遊ぶんだと説明する。


「ほう、これはいいね。嬢ちゃん、これ俺も作っていいかな?」

「おじちゃん」

 アビーにそう言ってきたのは、祖父達の家を手がけるカーペンだった。

「僕はいいけど……」

 アビーはそう言って、二人の祖父を見ると、二人は頷いてみせる。

「いいって。でも、おじちゃんが作ってどうするの?」

「あ~俺のところにも嬢ちゃんより小さい子がいるんだ。その子に作ってあげたら喜んでくれるかなと思ってね」

「うん、絶対に喜ぶよ!」

「そうか! なら、俺も頑張って作ってみるかな。ありがとうな、お嬢ちゃん!」

「えへへ」

 カーペンにお礼を言われながら、頭を撫でられるとアビーは自然に笑ってしまう。


「アビー、お父さん達、ご飯だよ!」

「「「あっ!」」」

「おじちゃん、ごめんね。行かなきゃ」

「ああ、いっぱい食べて大きくなりな!」

「うん! またね!」

 アビーはカーペンに手を振ると、ゴードンとコーディに手を引かれ、家に入る。


「ごちそうさま!」

「アビー、ちょっと待ちなさい!」

 お昼を済ませ、席を立とうとするアビーをジュディが引き留める。


「もう、お母さん。何?」

「何じゃないわよ。お母さんこそ、何って言いたいわよ!」

「え?」

「ほら、これ!」

「あ!」

「あら」

「まあ」

「これは」

「ふむ、キレイに丸め込まれているね」

 ジュディがアビーに見せたのは、昨日のドッジボールでボール代わりにした上着だった。

 キレイな球形になるようにキレイに折り込み、どこから解せばいいのか分からないほどだった。そのため、ジュディにジョディ、ソニアも呆れているが、コーディとゴードンは感心している。


「アビー、説明してもらえるのよね?」

「……怒らない?」

「もう、怒っているわよ! 洗濯しようと思っても解けないのよ。怒って当然でしょ!」

「まあまあ、ジュディ。まずはアビーの言い訳を聞いてみましょう」

「そうだぞ、ジュディ。こんなにキレイに球状にしているんだぞ」

「もう、お父さん達は黙ってて!」

「「でもなぁ」」

「黙るの!」

「「……はい」」

「じゃあ、ちゃんと説明してね」

「……うん、分かった。あのね……」


 アビーは昨日の学校で遊んだドッジボールのことを話す。

「呆れた……」

「いや、ジュディよ。これはとんでもないぞ」

「そうだな、コーディの言う通りだ。コーディ、お前昨日持って来た荷物の中に革も持って来てたな」

「お、そうだ。ちょっと待ってろ」

 コーディがゴードンに言われ、思いだした物を取りに行く。そしてアビーはジュディの目の前で上着を解していく。

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