第6話 打ち込むのよ

『アビー、やっと来てくれた!』

「ちょっと、ディーネ。もう、苦しい~よ」


 午前中は学校へ通っているので、必然と池の畔まで遊びに来る回数も減ってしまう。

 だからというか、元々すぐに抱き着いてくるディーネの抱擁も少しだけきつくなる。


『もう、学校なんか行かないで、ずっとここにいればいいのに!』

「そういう訳にはいかないでしょ!」

『ふふふ、アビーの言う通りよ。ディーネ、あなたもちょっとは我慢しなさいな』

『ふん! なにさ、シルフィーだってアビーが来る日はずっとそわそわしているじゃないの!』

『そ、そんなことはないわよ!』

『嘘はダメじゃ、シルフィ。アビーを待ちわびてお前さんがそわそわしているのは、ここにいる皆が知っていることだ』

『そうだぜ、シルフィ。皆知っていることだし、俺達もアビーが来るのが待ち遠しいのは同じだ』

 そう言ってノム爺にサラもシルフィを生温く見る。

『もう、分かったわよ。認めます! 私もアビーが来るのが楽しみでしょうがないです。出来れば、家に連れ帰りたいです! 言ったわよ、これで満足?』

『やっぱり、そうじゃない。今まで自分は興味無いですよって感じでいてさ』

『ディーネ、もう認めたでしょ。勘弁してよ』

「ディーネ、許してあげて。ついでに僕も離してくれるかな?」

『……いいけど、また後でね』

「……」

 アビーはディーネに返事すること亡くディーネの腕からするりと抜ける。


「それはいいんだけど、あれは何してるの?」

『ああ、あれね。昨日、アビーが学校で遊んでいたのをポポ達から話を聞いた子達が、自分達なりにアレンジして遊んでいるのよ』

 アビーが聞いたはポポ達と同じくらいの精霊が木の実を投げ合っていた。ディーネの話ではアビー達が遊んでいたドッジボールのつもりらしい。


「へ~精霊達も遊びたいんだ」

『当たり前よ!』

『遊びたいかな……』

『遊べるのか?』

『遊ばせてくれよ!』

 ディーネ達も遊びたいとアビーに訴えかける。

「遊びか~でも、ディーネ達が遊ぶなら、何がいいのかな……」


 アビーは歩だった頃の記憶の中から何がいいのかと探してみる。

 しかし、探してみるものの遊び方が曖昧だったり、道具が必要だったりとディーネ達を満足させることが出来る様な遊びは思い出せない。


 歩だったのはたったの十年弱……しかも入退院の繰り返しで世間とは隔離された状況だったので、情報源と言えばほとんどがテレビだった。テレビの中では色んな人達がゲームに興じていたが、それは大掛かりなセットで遊んでいる物だった。後はテレビゲームやアトラクションで遊んでいるのしか思い出せなかった。


「あ! そう言えば、遊びじゃないけど、これならイケそう!」


 アビーは思い付いた物を早速作ってみる。

「え~と、まずはテーブルっぽい台が必要だよね。よいしょ!」

 アビーが土魔法で岩のテーブルを作ると、今度は幅十センチメートル、長さ十五センチメートルくらいの板状の物に握り手を付けた物を二つ作り出す。


「後は、球だよね。何か球になりそうなのは……」

『アビー、これは何?』

「ちょっと、待ってて。ねえ、シルフィー、三センチメートルくらいの球になりそうな木の実とかないかな?」

『球?』

「そう、出来るだけ丸いのがいいの。ないかな?」

『ちょっと待ってて』


『これでいい?』

「うん、バッチリ!」

『ばっちり?』

「なんでもないよ。ありがとうシルフィ!」

 シルフィがアビーに渡したのは、直径三センチメートルくらいの少し固い木の実だった。


「じゃあ、シルフィー、これを持って、向こうに立ってて」

『これを持てばいいのね?』

 アビーはシルフィーにラケット擬きを渡すと卓球台の向こうに立ってもらう。

「じゃあ、僕が今から、この木の実を打つから、そのラケットで打ち返してね」

『打ち返すの?』

「そう、じゃあ行くよ! えい!」

『きゃっ!』

 アビーは木の実をシルフィに向かって打つがシルフィーは逃げてしまう。

『何やってんだよ。シルフィー、俺に任せな!』

 シルフィーから取り上げるようにラケットを持ったサラが構える。

「じゃあ、サラが打ってみて」

『いいのか? 確か、こうだったな……よっ』

「いいね。えい!」

『おっ……』

 しばらくはサラとラリーを交わすと、アビーの目がキラリと光る。

「チャンス! それを待ってたよ! はいっ!」

『えっ!』

 サラが山なりに打ち返した球をチャンスとばかりにアビーは自分が持つラケットで思いっ切りサラのコート目掛けてスマッシュを決める。


『おい! 今のはアリなのかよ!』

「アリだよ。あんなチャンスボール見逃すはずないでしょ!」

『くそっ! 今度は簡単にはヤラせねーぞ! って、ノム爺、なんでお前が? アビー、逃げるのかよ!』

「僕たちばかりであそんでちゃダメでしょ。皆で遊ぶために作ったんだからさ」

『そう言うことじゃ。アビーと戦いたくば、このワシを倒すのじゃ!』

『分かったわよ! やってやろうじゃないの。来いよ!』

『ふふふ、ワシに向かって、二度とその大口を叩けない様にしてやるのじゃ!』

『いいから、早く来いよ!』

『……アビー。この台はこれ以上低くならないのか?』

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