第5話 お年頃なのよ

「じゃあ、またね~」

「「「またね~」」」

 アビーはメアリー達に挨拶すると、家に向かって走り出す。


「あいつ、帰ったのか?」

「け、ケビン……もう、ビックリするじゃない」

 走り出したアビーの背中を見送っていたメアリーの後ろからケビンに話しかけられ、メアリーは嬉しさと驚きで少しだけ焦る。

「あ、悪い。メアリー、なんであいつは帰ったんだ?」

「ケビン。いい? じゃなくアビーね」

「アビー……ん、覚えた。で、なんで帰ったんだ?」

「はぁ~相変わらず、人の話を聞かないのね。いい? あのね、アビーはまだ学校に慣れるまでは昼までなの」

 メアリーはケビンの様子に呆れながらもアビーのことをケビンに教えるが、胸中は少しだけ複雑だ。でも、五歳児なのでその辺の駆け引きなど出来るハズもなくただただ正直に答えるメアリーだった。

「そうなのか。でも、一人で帰るのか?」

「うん、そうみたいね」

「家はどこなんだ?」

「あの山の上の方よ。前に山奥から来てるって言ってたし……」

 メアリーは学校から見える山を指差して教える。

「そうか。アビーが行けるのなら、俺も行けるのかな……」

 駆け引きは無理でもこれだけアビーのことを聞かれれば、いくら五歳児でもケビンがアビーに興味津々なのは分かるというもので。

「もう、ケビンはそんなにアビーが気になるの?」

「いや、気になるっていうかさ。ああいう子って周りにいなかっただろ? だから、なんとなく気にはなるかな」

「ふ~ん、そう……」

「な、なんだよ!」

「別に……」

「それで明日も来るのか?」

「来ないわよ」

「なんでだよ!」

「はぁ~あのね、さっきも言ったでしょ! まだ、学校に慣れている途中だって」

「ああ、そう言ってたな」

「だから、一日おきに来ることになっているの。分かった?」

「じゃあ、次は明後日ってこと?」

「そうよ。もういい?」

「うん、分かった。ありがとうな」

 あからさまにアビーが明日来ないと言われて、メアリーに対し声を荒げたケビンにちょっとイラつき声が大きくなるが、その理由もちゃんと説明するメアリー。元々の姉御肌な世話好きな性格が災いしているかも知れないが、メアリー自身がそれに気付くことはない。

 そして、ケビンがそれに気付くこともなくメアリーにお礼を言うと、友人達の輪に戻っていく。


「ただいま~」

「「「おかえり~」」」

 家に着いたアビーは元気よく玄関を開けると、アビーを迎えてくれたジョディ、ソニア、ジュディに順に抱き着く。


「むふぅ~」

「あら? どうしたの?」

「あのね……」

 本来なら、アビーが帰って来たらお昼ご飯になるのだが、アビーの様子から何かを感じたのか、母と祖母の二人が興味津々と言う感じでアビーが話し出しのを大人しく待つ。


「……って感じだったの。僕、男の子とあんまり話したことがなかったから、どうしていいのか分からなくて……それなのに、メアリー達の所に戻ったらね。皆がニヤニヤしてたから……」

「あら! ジュディ、今日の夕食はアビーの好きな物にしてあげましょう!」

「そうね。それがいいわね。ね、ジュディ」

「はぁ~もう、お母さん達ったら……」

「ん?」

 学校でのことを話し終えたアビーは祖母達の様子に困惑してしまう。ジョディとソニアの二人は喜んでいる感じだが、母親であるジュディは複雑な表情をしている。

「お母さん、お婆ちゃん達どうしたの?」

「ん~どう言ったらいいのかな。でも、考えてみれば私もこのくらいの歳だったかもね」

「ん?」

「ふふふ、いいのよ。でも、私はアビーにはゆっくり成長して欲しいかな~」

「よく言うわよ」

「え?」

「そうね、ジュディが私の息子のマークをロックオンしたのは、アビーくらいの歳だったわね」

「あ~そうよ! ソニアの言う通りよ! 『私、マークと結婚するの!』ってマークと手を繋いだまま、私達に宣言したのよね」

「……うそ」

「嘘じゃないわよ」

「ええ、そうよ」

「お母さん?」

 アビーの話だったはずなのに思いがけずに自分の黒歴史が二人の母親によって暴露されてしまい、ジュディの顔はみるみる赤くなる。

 そして、自ら封じ込めていた黒歴史が色褪せることもないまま、脳裏に次々に蘇っていく。


「その顔、どうやら思い出したみたいね」

「ふふふ。この調子なら、四,五人はイケそうね」

「「楽しみ!」」

「お母さん!」


「ただいま! ……ん?」

 家に帰ったマークだが、いつもなら飛び付いて迎えてくれるアビーが来ない。それに家の中の雰囲気がなんとなく違っているような気がして、自分の家に帰ったハズなのに恐る恐るでリビングに向かうと、顔を赤くしたジュディとその様子を好奇心を隠すことなく楽しんでいる様子のアビーに、そんな二人の様子を見守る両親達が目に入る。

「お袋、これはどうしたの?」

「あら、マーク。帰ってたのね。おかえり」

「うん、ただいま。じゃなくて、どうしたの?」

「ああ、これね。実はね……」

 ソニアはアビーが学校から帰って来て報告してくれたこと、そこから、ジュディとマークの話に飛び火して、それをアビーが面白がってジュディにねだって話を聞いているところだという。


 つまりはジュディは自分の子供とそれぞれの両親の前で自分が体験してきたマークとの恋愛談を話しているところらしい。

 つまりは、その話の中には当然、相手でもあるマーク自身のことも語られていることにもなる。

「ああ、なるほど! って、お袋! それって俺の話も含まれているんだよな?」

「何言ってるの? そんなの当たり前じゃないの。ジュディのお相手はあなただけなんだがら。ほら、もうすぐあなた達が結ばれるところなのよ。いいから、邪魔しないで!」

「あ、そうなんだ。それはごめん……じゃないよ! ジュディもどこまで話しているの!」

「あ! マーク、お帰りなさい」

「うん、ただいま……って、そうじゃないでしょ! ほら、お袋達も夕食の準備はまだなんでしょ」

「あ! もう、そんな時間なの?」

 ジュディがトランス状態から醒めたみたいにテキパキと動き出す。それにつられるようにジョディとソニアも重い腰を上げて動き出す。


 そして、少しだけ息の荒いマークにゴードンが漏らす。

「マーク、お前って相変わらず場の空気が読めないんだな」

「親父まで……そんなに言うのなら、親父達の話でも聞かせればいいじゃないか!」

「お! それもそうじゃな。ソニア、次は私達の話をしようじゃないか」

「あら、いいわね」

「頼むから、止めてくれ……お願いだから」

 マークは嫌がらせのつもりで言ったことが、そのまま自分へとカウンターで返され、その場で崩れてしまう。誰が、親の馴れ初めを聞きたいと思うのかと。

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