第10話 まだ遊びたかったのよ

 ニーナも難なく跳べるようになった頃、遠巻きに見ていた他の女の子達が近寄ってくる。

「ねえ、メアリー。私達も一緒にいいかな?」

「そう言って、メアリーに話しかけて来たのは、一つ年上のメアリーの幼馴染みだった。

「ミル姉、いいよ。一緒に遊びましょ」

「いいの? でも、遊びたがっているのは私達だけじゃないの」

「え?」

 そう言って、ミル姉が後ろにいた女の子達も一緒に遊びたいんだとメアリーに話すと、メアリーは何故だかアビーならと、アビーを見ると親指をグッと立てていた。それを見たメアリーは、ミル姉に対し大丈夫だとだけ言う。

 アビーはサンディとニーナにロープを回してもらうと、ミル姉の後ろにいた子供達を一列に並ばせると、遊び方を教える。

「じゃあ、遊び方は分かった?」

「「「分かったぁ!」」」

「じゃあ、実際に跳んでみよう!」

「「「跳ぶぅ!」」」

「よし、じゃあ跳んでみよう!」

「「「おう!」」」

「じゃあ、タイミングを合わせて行くよ! はい、はい、はい……」

「はい!」

「はい!」

「はい!」

 アビーがタイミングよく声を掛けると、それに合わせて子供達がサンディとニーナが回すロープに飛び込み、外れるのを繰り返す。

「アビー、さっきと違う遊び方よね?」

「うん。人数が多い時はこういう風に遊べばいいんだよ」

「そうか。入ってすぐに出るのなら、人数は関係ないんだね。よ~し、じゃあ私も」

 そう言って、メアリーも子供達の列の最後尾に並ぶ。


「「アビー……」」

 回し疲れたのか、サンディとニーナがアビーに訴える。多分、回し疲れたので代わって欲しいのだろうと思い、アビーが近付こうとするとミル姉がアビーを押さえる。

「私達が代わるから、あなたも一緒に遊んでなさい」

「「「ミル姉……」」」

 ミル姉の侠気にアビーも一瞬ぐらついてしまうが、気を取り直してサンディ達と一緒に列に並ぶ。

 歩だった頃、縄跳びでのギネスに挑戦する番組をただただ羨ましく見ていたのを思いだす。でも今は自分も他の子供達と一緒に縄跳びを跳んでいる。そんな単純なことがアビーにはたまらなく愛おしくなる。いつまでもこの時間がつづけばいい。そう思っていたが、終わりは唐突に訪れる。


「アビー、帰るわよ!」

「お母さん!」

 ジュディに呼ばれ、ほぼ条件反射でジュディの方向へと駆け出そうとして、躊躇する。

「どうしたの? アビー、ジュディさんが呼んでいるわよ?」

「まだ、帰りたくない!」

 アビーはスカートの両端をギュッと握り、メアリーにそう呟く。

「でも、呼んでいるよ」

「だって……」


 ジュディはアビーを呼び続けていたが、中々来ないアビーに業を煮やしてしまい、アビーの元に近付くと、アビーはスカートの端をギュッと掴んだまま、泣いていた。

 そして、そのアビーの前ではメアリーがオロオロしていた。

「おばさん。どうしよう、アビーが泣いちゃったの。私は何もしてないのよ。本当よ」

「ふふふ、大丈夫よ。メアリー。アビー、帰りたくなくなるくらい楽しかったのね。でも、もう暗くなるから。帰らないとダメなの。ごめんね」

「お母さん……グスッ……もう、帰らないとダメなの?」

「そうね。今日は帰らないとダメだけど、また来ればいいじゃない」

「いいの!」

 さっきまで泣いていたアビーはジュディのに途端に機嫌がよくなる。

「な~に、お母さんはダメって言った覚えはないわよ」

「お母さん! 大好き!」

「もう、分かっているわよ。じゃあ、メアリー達に『またね』って挨拶してきなさい」

「うん、分かった! メアリー、サンディ、ニーナ、またね」

「「「またね、アビー!」」」

「うん、またね!」

 ジュディに手を引かれながらアビーはマークが待つ場所へと向かう。

 時々、後ろを振り返りながら、メアリー達に手を振る。そんな様子にメアリー達もアビーが飽きるまで手を振るのを繰り返す。


 帰りの馬車では往きと同じ様にはしゃぎ疲れたアビーはジュディの腕の中でぐっすりと眠っている。マークはそんな娘の様子を見て、思わず微笑んでしまう。

「よっぽど、楽しかったんだな」

「そうみたい。帰るって呼びに行った時は泣いてたのよ。可愛いとこともあるのよね~」

「さすが、うちの娘だね~」


『疲れちゃったのね。アビー』

『はしゃぎ疲れたんだね』

『でも、アレはヤバイよね』

『ああ、アレね。アレはダメよ』

『『だよね~』』

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