第23話 え、どゆこと?

「アリス? どうしたの? なんだか今日はいつもと違う……」


 夜着の中へ滑らせようとした手をウィリアムが止める。彼はいつもとは違う積極的なアリスを不思議に思い、首を傾げている。蜂蜜色の瞳は戸惑い揺れていた。


「え、えーと……」


 アリスはここで中断になるとは思っておらず、恥ずかしさで首から上が一気に熱くなった。このまましばらく言葉もいらないはずだったので、気の利いた返事もできない。


「もしかして、何かあった?」


 ウィリアムが眉根を寄せて不安そうな視線を向けてくる。なんとかしなくては、とアリスはメイドたちの話を思い出していた。そして、やっとのことで名案を思いつく。


「ええ、私……もっとあなたのことが知りたいの」

「アリス……」


 アリスは再びウィリアムの手を取った。上目遣いで彼を見ながら白くて長い指の先や手のひら、手首に軽く口付けていく。


「私のことももっと知ってほしいわ……ウィル」

「アリス、もしかして——」


 ウィリアムがごくりと喉を鳴らした。今度こそ、とアリスは手応えを感じていた。彼の両手がアリスの肩を撫でる。


「もしかして、僕と身体を繋げたいと思ってる?」


 あまりに直球な質問に、アリスは喉の奥から「ええ?」と声を裏返した。

 ウィリアムの無邪気な笑顔は、今この状況においては凶器だ。夜着を脱がせてくれるのではと思い期待した彼の手は、アリスの両肩をしっかりと掴んでいる。


「ウィル……」

「あれ、僕の勘違いだったかな?」


 ウィリアムが首を傾げる。完熟したトマトの如く赤く染まった顔を、アリスは弱々しく横に振った。それから彼と目を合わせないよう、脱力して俯く。


「いいえ、勘違いじゃ……ないですぅ」


 もういっそ消えたい。これは羞恥という名の拷問だ。そう思いながらアリスはか細い声で返事をした。


「よかった! 僕も同じ気持ちだよ!」


「え?」とアリスは思わず顔を上げた。ウィリアムの返事は意外なものだった。彼は先ほどと同じように笑っている。


「僕も、もっとアリスのことが知りたい。仲良くなりたいって思ってたんだ」

「そ、それじゃあ……」


 アリスは恥ずかしさで目に溜めていた涙を拭った。やった、これで彼と結ばれる。夫婦になれる。自然と表情も明るくなった。


「でも、ちょっと待ってね。準備が必要だから——」

「え、じゅ?」


 夫の返事が理解できず、アリスは目が点になった。


 一方ウィリアムは言葉になっていないアリスの返事に「うん」と頷き、にっこりと微笑んだ。


「そう、準備。明日は兄さんに頼まれた魔法薬を仕上げて……そうだな、三日後にしよう!」

「三日後?」


 アリスは嬉々として語るウィリアムに気の抜けた声で問う。彼はそれを「かわいい」と言って唇に軽くキスをした。


「よし、そうと決まったら明日は仕事を頑張るよ。今日はもう寝よっか。おやすみアリス」

「お、おやすみ、ウィル」


 早々に布団をかぶり妻の手を握ると、安らかな表情で目を瞑るウィリアム。

 どこか満足そうな彼の寝顔を見つめるアリス。

 夫が言ったことの意味がわからないまま、夜は更けていくのだった。


>>続く


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