第22話 実践あるのみ!

 夕方、アリスは預かりの子供の母親たちを夕食に招待した。


「奥様、よろしいのでしょうか? 私たちが一緒に食事をするなんて……」


 恐縮するメイドたちを代表しメアリーが言った。その表情は目尻を下げ申し訳なさそうだ。他の者たちもうんうんと頷いてる。

 アリスは彼女たちに笑いかけ首を横に振った。


「私が呼び出したのだからもちろん問題ないわ。むしろ仕事の後に来てもらって申し訳ないのはこっちよ」

「「いいえ、そんな……」」


 メイドたちも手や首を振って恐れ多いといった様子だ。アリスは彼女たちの緊張を和らげるためにも、乾杯をして飲み物を勧めた。


「さあ、好きなだけ飲んで食べてね」

「「ありがとうございます」」

「「いただきます」」


 少しメアリーたちの表情が緩んできた。そろそろ頃合いかとアリスは話を切り出す。


「実は、今日あなたたちを呼んだのは、折入って相談があったからなの」

「「相談、ですか?」」


 首を傾げる彼女たちに、アリスは結婚してからこれまでの話を説明した。自分の経験値の低さを伝えるのは恥ずかしかったが、自分は教えを乞う身であり、彼女たちは先輩だと思うと自然と話すことができた。


「というわけで、私たちお互い未経験なせいか今日までその、まだ、ないの……。ぜひ経験者として、私に男性の誘い方を教えてちょうだい」


 アリスは「お願いします!」と言って彼女たちに頭を下げた。少しの間、沈黙が流れる。


「奥様、顔を上げてください」


 声に反応し、アリスは顔を上げた。メイドのサーシャが優しく笑顔を向けていた。


「サーシャ……」

「奥様、大丈夫です。どうか私たちにお任せください。キスはされているんですよね? でしたら例えば……」


 サーシャの言葉に、アリスは「ええ!」と両手で口元を覆いながら瞬きを繰り返した。なんと大胆な。それを見てメイドたちは笑顔を浮かべている。彼女たちは顔を見合わせ、さらに目を細めた。


「サーシャのはちょっと大胆ですかね? 私は昔ジャクソンの父親と……」

「嘘でしょエミリー!」

「奥様、それなら私は……」


 次から次へと出てくる経験談。アリスは顔を赤らめ身を乗り出してそれらを聞き入っていた。


「それじゃあ、みんなどうもありがとう」

「奥様、がんばってくださいね!」

「早速このあと実践ですよ!」


 アリスはメイドたちを見送り、彼女たちからの激励の言葉に「がんばるわ!」と力強く頷いた。


 書斎の片付けをして寝室に向かう。


(アラービヤの女性はあんなに大胆なのね……。私もがんばらなくては)


 よし、と意気込んで寝室に入ると、すでに仕事と夕食を終えたウィリアムが待っていた。彼はアリスに駆け寄り両腕ですっぽりと妻の身体を包み込む。


「アリス〜、おかえり! 夕食が別で寂しかったよ〜」

「ただいま、ウィル。私のわがままでごめんなさいね」


 アリスは顔を上げウィリアムに一度軽いキスをする。するとその何倍ものキスが返ってきた。顔面至るところに彼の唇が触れてくすぐったい。


「ううん、子供たちの母親と懇談会だっけ。どうだった?」

「え、ええ。そうよ。とても……有意義な時間だったわ」


 アリスがぎこちない返事をすると、ウィリアムは気づかないまま「よかったね」と微笑んだ。アリスは罪悪感でわずかに胸が痛んだが、有意義な時間だったのは事実と心の中で自分を擁護した。


「ねえウィル、少し早いけど……そろそろベッドに入らない?」

「うん、そうしようか」


 アリスはメイドたちの助言どおり、まずはウィリアムをベッドに誘った。含みを持たせた笑顔で、とも言われたので試したものの、夫には気づかれていないようだった。

 ベッドに入って次の作戦に移る。


「ウィル、キスしましょう」

「うん……」


 唇を重ね、浅いキスを繰り返し唇を開いて深いキスへ。ここまではいつも通りだ。次にアリスはその唇をウィリアムの首筋に移した。そして自分を抱きしめる彼の手を片方取る。ゆっくりと、這わせるようにアリスは手を夜着の胸元に持っていった——。


>>続く

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