第16話

 レアンドリュー帝国において帝位を巡って現在、相争っているのは全部で四人。

 保守派の方々からの支持を集めているものの政治自体にあまり興味がなく、趣味に生きる第一皇子。

 

 政治に興味を見せなかった第一皇子に変わって精力的に動き、社会勉強の一環として実際の政務もまだ幼き頃から触れ、文官たちからの支持を集める第二皇子。

 

 室内にこもってばかりで軍才にさほど恵まれなかった第二皇子に代わって、勇猛果敢で熱血。軍部からの熱い信頼と指示を受けている第三皇子。

 

 属国とされている地域に自治権という飴をチラつかせ、帝国の末端に当たる彼らの支持を集めながら急速に勢力を拡大させている第四皇子。

 

 他にも皇族は存在するが、レアンドリュー帝国の帝位を巡って激しく対立しているのは主にこの四名であり、現在。

 アルタイル王国へと攻め込んでいる軍隊を率いているのは功を欲する第四皇子、アレス・レアンドリューである。


「……小癪なッ!!!」

 

 偉大なる皇帝の葬式がまじかに迫る中での侵攻。

 博打のような形ではあるものの、成功すれば少なからず注目と支持を集められると踏んで行動に踏み込んだアレスはアルタイル王国の予想外の抵抗にいら立ちを露わにしていた。


「や、やはり侵攻は失敗だったんじゃ……」


「……黙れ、俺は何も間違えちゃいねぇ。他の皇子からの追及など、皇帝の死を前提として外交を展開した小国へと正義の鉄槌を下し、それを父上への手向けとするなどと言っておけばさしたる問題にもならねぇ。父上が死に、帝位争いが激しくなっていくことが予想される昨今において、何もせずに座視している方が悪手だ。何もかもがねぇ俺にはここで動くしかないんだよ。ここで賭けなきゃどうせ負ける」

 

 アレスはいらだちを昂らせながら頭の中で高速に思考を回す。

 自分と敵対する他の皇子に足を引っ張られ、うまく侵攻出来ぬことも足踏みすることも半ば予想していた。

 だからこそ、短期決戦で決着すべく鮮烈な数と雪崩のように流れ込む帝国の武にアルタイル王国を屈服させ、外交によって片をつけるべきこっそりアレスはアルタイル王国に自分の手の物を送り込んだりもしていたのだ。


 だが、面倒なことにアルタイル王国は一人の小さな少女を前にして頑強に抵抗を続けている。


「……あいつを動かす」

 

 アレスは既に崖っぷち。

 一度始めた以上何としても成功を掴まなくてはならない……第四皇子は切り札を切ることを決めるのであった。

 

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